作=羽鳥止愁
【1】
卒業を間近にすると、必ず、二、三人はこの話を匂わせてくる。
近頃の娘達は、とにかく楽な方法を選ぶ。自分の肉体を売る……、と言えば聞こえが悪いが、少なくとも利用することには、少しも後ろめたいところはないようだ。
よく言えばセックスを謳歌しているのだろうが、娘達のあまりにあけっぴろげな嬌態、見事なまでの開放感には、五十を過ぎた真鍋教授は、いささか辟易させられる。とくに集団の中に囲まれていると、そのむせるほどの色香は、むしろ嫌悪にも感じられ、胸苦しくもあった。
とはいえ、真鍋も男である。個人的に会えば、やはり、苦い娘の溌剌とした美しさは悪いものではなかった。
そして、この話を匂わせてくるのは必ず、自分の容姿に自身のある娘であるから、真鍋には、もう止められない秘かな愉しみになっていた。麻薬のようなものだなと思った。
真鍋隆博、五十一歳。N女子大学文学部教授――。
「フフ、あんな助平爺、いちころよ」
高津朱美は、挑発的なスタイルで大通りを闊歩していた。振り返る男達の視線にくすぐられながら、自信に充ちた曲線美は、正に恐いもの知らず。青春の真っ只中に君臨していた。真紅のミニのワンピースは膝上十五センチ、膝の下まであるブーツ。毛皮のコートは前をはだけ、裾を翻して脚線美を誇っていた。
朱美が真鍋教授宅に着いたのは、昼を少し過ぎた頃であった。アポはもちろんとってあり、着くと朱美は地下にある真鍋の研究室に通された。
「先生、地下にお部屋が……。凄いですわね」
「研究する時は誰にも邪魔をさせたくないのでね。ここなら誰も来ない。家内だってここには入らない。もっとも今日は出掛けて留守だがね」
「先生の聖域ですわね。でも、ここで何人の女の子が泣かされたんでしょうね」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。君達を救けるためじゃないか。ぼくのほうからは何もしていないよ」
「そうかしら」
「何だよ、君。いいがかりをつけに来たのか?」
「いいえ、とんでもございません。只々、単位を頂きたいがためにお伺い致しました」
おどけた調子で、色っぽく品を作って、朱美は媚を振りまいた。
(フン、今にみていろ。その自信に満ちた高慢ちきな鼻をへし折ってやる)
真鍋は、胸の中で吐き捨てていた。
(続く)
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