作=羽鳥止愁
【2】
「それで……、どれくらい、進んだんだ?」
「それがぜんぜん……」
「全然? もう日にちもないじゃないか」
「だから、お願いに来たんじゃないですか。ね、先生、何とかして下さい。お願いします」
ソファに腰をかけ、膝を組んでいた足を下ろして、朱美は両手を合わせた。
足を下ろす時、ミニの奥から白いものが覗いた。それは多分にわざとらしかった。
「それで……、何をするというんだ?」
「何でもしますわ。先生のお望みどおり」
媚びるような微笑は、自信にあふれていた。大学教授なんていっても、所詮は男だ、とでも言いたげだ。
「何でもするのかね」
「はい、何でも……」
「じゃ……、犬のように床を這いまわってみるかね」
「えっ?」
「私の足を舐めて、牝犬になって、単位を下さいと、キャンキャンと鳴いてみるかね」
朱美の顔が硬張り、一瞬、蒼ざめた。
「先生、それは……どういうこと……?」
「高津朱美はだね、牝犬になって、この床の上を這い回るんだ。それも素っ裸でね。どうだい?」
「冗談でしょう……」
「ハッハハハ、冗談だよ、君」
「ああ、驚いた。びっくりしましたわ。私は、先生が変態かと思いましたわ」
皮肉っぽさが、朱美の口振りに表われていた。
「女を犬にすることは変態かね」
「そりゃあ失礼だわ。女を侮辱していますわ」
「しかし、君。君は男を犬のように扱ってみたくはないかね」
「そうですね……そりゃあ、気持悪くはないでしょうね」
「しかも、それがハンサムな、いい男だったらどうかね」
「いいですね」
「だろう。ま、君も早くそんなことのできる身分になることだね。君なら似合うよ。男を這いつくばらせて、その上に君臨する女王様にね」
「フフ、いいですわね。女王様……」
(でも、その前に嫌というほど、奴隷の惨めさを味わわせてやるよ、朱美くん……)
真鍋はニヤリと口許を歪めて、デスクの中の隠し扉のスイッチを押した。
もちろん朱美には気付かれないように――。
(続く)
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