作=羽鳥止愁
【8】
ぎこちない、遠慮がちな動きだったが、切羽詰まる便意には抗し得ない。感じた風を見せ、気をやった真似をしなければ……。それには、少しくらい、濡らさなければ。
指の腹全体でクレヴァスを上下させ、指先で鋭敏な蕾を刺激し始めた。
こんな異常な事態で、果たして、感じられるのか? 見られている恥ずかしさ、襲いかかる便意との板挾みのなかで、感じることができるのか? しかし、やらねばならない。やるしかないのだ。朱美は指の動きを、その感覚を求めて、激しくくねらせた。
「ああ……」
切ない吐息が洩れ始めた。声を出すことでさらに感情を昂めようとしている。事実、自分の声に刺激された。
その刺激に、感覚も目覚め出した。感覚と感覚がお互いに相乗し、朱美は、官能のうずきに悶え始めた。次第にその行為に没頭しはじめた。
「ああ……せ、先生、やっています。やっていますわ――」
「よしよし、もっとだ、もつとだ、朱美君。昇り詰めなければ駄目だよ。最後までいってしまうんだ。しっかり見ているからね、ごまかしはきかんよ」
まるで朱美を励ますように真鍋も昂奮している。
「ごまかしなんて、そんなッ。燃えていますッ――」
事実、もう、演技で止めようという気はなかった。押し詰められた異常な神経がそうさせるのか、自分から目覚めさせた肉欲の愉悦に溺れ込んだのか、朱美には、演技で終わらせる余裕などなくなっていた。
切迫する便意にも責め立てられ、自分の意志をコントロールする力を失くしていた。
懸命に括約筋を締め付けるその感覚すら、最奥の妖しいうずきに自ら連動させる。白い指が、激しく、ゆるやかに、そしてはげしく蠢き……。真鍋には、その指の動きが急流を逆のぼる若鮎を連想させた。
「せ、せんせい、いきます。もうだめ――」
腕全体が激しく動き、呼吸が切迫し、白い喉がのけぞった。おどろに乱れた黒髪が頬にまとわりつき、がっくりと項(うなじ)を折った。
(続く)
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