闇の中の魑魅魍魎【11】
闇の中の魑魅魍魎【11】
身を挺して子供を守るべき両親は意外な行動をとった。
●人生の岐路
一番顔を合わすのを避けたい人物、まさにその男が今、誠子の目の前にいるのだ。
背筋に冷たい電流のようなものが走り、足が動かなくなった。
男の視線は誠子の顔を射るように見つめその視線に縛られたように誠子は男の目から自分の目を外すことが出来なくなっていた。
「おい、何をそんなところで立ったままいるのだ。こっちへ来て、ビールをついでくれ」
男の低い声が誠子の耳朶を打った。
それまでにも男の声を聞いたことはあったが、それはすべて、父親か、母視に向けられた声であった。
しかし、今、誠子が聞いている男の声は、直接自分に向けられていた。
男が自分の存在を認めて、その上で声をかけているのだった。
どのように認めているのだろう。
男にビールをつぐように命令されても、誠子には今まで、そのような経験はなかった。
父親が酒を飲んでいる時は、誠子は意識的に、側にいるのを避けていた。
酒飲みの父は大嫌いだった。
酒を飲んでいる時の父は、誠子にとっては父ではなかった。
大声で母をののしり、わめき、手許にある茶椀をあたりかまわず投げつけて暴れるのだった。
そういう状態になる男が父親であることが悲しかった。
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