殺意の原点【3】
殺意の原点【3】
棄てられていた若い女性のバラバラ死体は、性器を抉り取られていた……。
●水商売の女
育枝が、新聞のトルコ嬢募集の広告を見て、働きたい旨申し込んで来た時、面接をしたのが支配人であった。
この店は高級トルコであることから、トルコ嬢についても、容姿、年齢、テクニックなどの点につきかなりのものが要求されていた。
従ってある程度の水準を越える女性のみが採用されていた。
もっとも、質がおちると思われる女性については、同じ人物の経営する他のトルコ風呂に紹介するというようなことが行なわれていたが……。
育枝については、やや年齢が高いのが気になったが、容貌、スタイルとも並みの女性の水準をはるかに超えていた。
話をしても、その受け答えから頭の良さが窺われた。
過去においてトルコ嬢としての経験があるか否かの質問に対して育枝が、小さい声で、
「ありません」
と答えたのを、支配人は良く覚えている。
それまで育枝は銀座のクラブに勤めていたとのことであった。
何か水商売をしていた娘だなとの支配人の直感は正しかった。
店で働くようになうてから二ヵ月も過ぎた頃、育枝は指名客の多さでは五本の指に入るようになっていた。
彼女を雇った支配人の勘に狂いはなかった。
二時間ほどの事情聴取からは、怪しいと思われる人物は浮かんではこなかった。
そもそも支配人は、育枝の私生活については殆んど知るものがなかったのである。
男がついているのかいないのか、それすら知ってはいなかったのである。
ただ、支配人から得ることの出来た重要な事実は、彼女の居住地であった。
早速捜査員が二名、確認のために出向いた。
都内の南部に位置する、丁度多摩川をはさんで川崎の街の反対側の所にある、下町の面影を色濃く残している町に、育枝の住んでいたマンションはあった。
係官は同じ階の住人からの聴取で、柳原育枝がそのマンションに住んでいたことはほぼ間違いないものと判断した。
住人の話によると、彼女の部屋の扉の横に、『柳原』とだけ記入された表札が貼ってあったとのことであった。
それが故意に剥がされたのか、風にでも飛ばされたのかは明らかではないが、係官が出向いて来た時には表札は無くなっていた。
「彼女には同居人はいなかったのですか、男にしろ女にしろ」
との刑事の質問に、育枝の部屋の隣に住んでいる、いかにも好奇心旺盛といった感じの中年の主婦が、まことに良い質問とばかりに話をはじめた。
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