殺意の原点【4】
殺意の原点【4】
棄てられていた若い女性のバラバラ死体は、性器を抉り取られていた……。
●水商売の女
「それがね、刑事さん、一緒に住んでいたのかどうかまでは良くわかりませんが、三〇歳位の男がちょくちょくやって来てましたわ。恋人かしらなんて、この階の人と話したこともありましたわ。彼女は何のお勤めかは知りませんが、帰りの遅い人だったんですよ。まだ彼女が帰っていないのに、その男の人がドアを開けて入って行くのを見たこともありましたから、よっぽど親しい関係だったと思いますよ」
どうやら中年の主婦は、隣人が最近連日のように紙面を賑わせているバラバラ殺人事件の被害者であることを感づいたらしかった。
刑事の報告を受けて、捜査本部では早速裁判所からマンションの部屋の捜索令状をとり、事件の手がかりとなる物の発見に全力を注ぐ一方、育枝の交遊関係の解明に総力を挙げた。
マンションの部屋の中における捜査の結果、男物のネクタイ、下着類が発見された。
このことから、育枝にはかなり親しくつき合っている男がいたことが予想された。
又、浴室からはそれほど日数の経っていないと思われる血痕が発見され、施されたルミノール反応も多量の血が流れたことを示していた。
この浴室において柳原育枝は殺害され、バラバラに切断されたことはほぼ間違いないものとなった。
人間の体をバラバラに切断することは、医師などの専門家はともかく、相当の力が必要な作業であり、又、部屋の中から男の存在を推定させる物が発見されていることから、犯人は男、あるいは男を含む複数のものと考えられた。
捜査本部では交遊関係を洗うため、育枝の同僚、つまり川崎市内にありトルコ風呂で働いている女達にあたった。
育枝と親しくしていたトルコ嬢として、天下玲子がいた。
彼女は、育枝に男がいたかったかとの刑事の質問に、村下竜夫の名前をあげた。
育枝が一年ほど前から同棲していた男であるという。
同棲していたとはいっても、男は浮気者で、そのことで二人の間には始終争いが絶えなかったという。
捜査本部では玲子の供述を重視し、村下竜夫を重要参考人としてその行方を追った。
竜夫は、育枝の惨殺死体が発見された頃からぷっつりとその所在を晦ましていた。
村下竜夫は、N県選出の保守系の衆議院議員の東京における私設秘書であった。
捜査本部は早速刑事を議員会館にある事務所に派遣し、第一秘書らから事情を聴取した。
捜査本部の思惑どおり、竜夫は育枝の死体が発見される二、三日前より事務所を休んでいた。
捜査本部は村下竜夫につき、重要参考人から、殺人、死体遺棄罪の被疑者に切り換え、その所在を本格的に追及しはじめた。
この頃、既に新聞やテレビでは、竜夫をこの猟奇事件の犯人として報道していた。
竜夫が都内に住む友人と一緒に近くの交番に自首してきたのは、事件発覚後一週間めのことであった(もっとも、この事件にあっては、既に竜夫が犯人として捜査機関より追及を受けていたのであるから、正確な意味では自首とは言えないのだが)。
逮捕後の取り調べで、竜夫は事件の概要につきほぼ全面的に自供した。
抉りとられてしまって、捨てられていた死体の見い出せなかった育枝の性器部分も、竜夫の部屋からホルマリン潰けとなって発見された。
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