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▼ ハングリー国家 日本の悲劇【3】

ハングリー国家 日本の悲劇【3】


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文=法野巌
イラスト=笹沼傑嗣

ハングリー国家 日本の悲劇【3】

強姦未遂事件を起こした少年には母親との不倫の関係があった。

●埋もれる事件

一般的に、強姦事件は、既遂事件よりも未遂事件の方が事件となりやすい。
つまり裁判にまで持って行かれる割合が高い。
未遂であれば、事件が公けになっても既遂の場合よりは被害者である女性のプライドを傷つける度合いは少ないであろうし、その被害者であるべき女性の深層心理の裡にあっては、自分に対してその男性たる機能を発揮できない、だらしのない許しがたい男という意識も生じるのであろう。
したがって、未遂に終わった場合には、もちろん前後の脈絡の欠除という条件も加わった上でのことであるが告訴されることが多くなるのである。

神保巨の場合も、未遂に終わったため、事件が公にされた可能性が高い。
これが既遂になっていたなら、被害者である桜井信子も、彼女の両親も、将来のこと、周囲の目を考え、泣き寝入りになったことであろう。
この種の被害者が警察に告訴することは、想像以上の勇気と、忍耐が必要なのである。
取り調べの過程において、それまで性交渉の経験があったかなかったか、つまり処女であったのか否かを尋ねられるのは必至であるし、暴行を受けた時の様子、どんな風に男は襲い、どんな風に抵抗し、どんな風に男を受け入れざるを得なかったか、こと細かな追及を受けるのである。
これが一回で終わればまだしも、加害者の男からの話と食い違いが出てくれば、その度に呼び出されて尋ねられる。

だが捜査の段階では事情聴取は密室の中で行われ、他人の目からは隔離されているから、まだ耐えることが出来よう。
これが裁判にでもなって、男についた弁護人から、被害者の調書には同意出来ないとでも言われれば、再び法廷で自らの体験を遂一供述しなければならなくなる。
法廷は公開するのが原則なのである。
例え風俗を害する虞れがありとされて、公開を停止して裁判が行われても、目の前には、裁判官、検察官、弁護人、そして彼女に癒すことの出来ない傷跡を与えた加害者本人がいるのである。
これらの目の前に、最も恥辱の部分を曝け出さなければならないのである。
だから大抵は、告訴したとしても、加害者と示談をして、告訴を取り消すことになるのである。


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