暗黒色と肉食の痺れ 第4回
暗黒色と肉食の痺れ 第4回
赤ちゃんが欲しいという妻の言葉が悲劇の発端だった。
●夫婦交換
あせればあせるほど意図とは反対の結果となった。
「済まない、どうやら最近は疲れ過ぎているらしい」
と言い訳する繁夫に対し、早苗は優しく、答えた。
「ううん、いいのよ、しばらく、二人とも休みましょうよ。その方が新鮮だっていうわよ」
彼女の優しい慰めの言葉も繁夫にとっては却って苦悶におとし入れる響きとなった。
彼女は今三十五歳で、その肉体が爛熟期にあることは他の誰よりも繁夫は良く知っていた。
そして、今、繁夫はインポテントである。こんな状態では、彼女に間違いが起きない方が不自然である。
彼は悩んだ。悩みとはすべてが自分中心のものである。だか、彼のエゴイスムは、彼にこの悩みは彼女のためのものだと思い込ませていた。
悩んだ末出した結論は、彼女は今のままでは浮気をする可能性がある。自分の知らない場所で、知らない男に早苗が抱かれることは絶対に我慢が出来ない。
ではどうしたら良いか、答えは、目の前で他の男に抱かれることである。知らない、目の届かない所で浮気をしているとあれこれ想像して悩むからこそ苦しいのだ。堂々と目の前で交わってくれればいっそうあきらめがつく。
これは彼女を愛していればこその結論てある。
こう記述してしまえば、短絡的で、妙に繁夫の独断と偏見に満ちあふれた結論になってしまっているが、しかしこれが萎縮してしまっている彼の分身を手に取りながら一週間も二週間も考えに考え抜いた未出した彼の結論なのであった。
早苗を説得するのには時間がかからなかった。
女には誰にも、他人との浮気願望はあるようである。あっても女は自ら積極的にそれを実現させることはしない。浮気のための浮気はしない。すべて言い訳を考えながらするのである。例えば、あの人が優しくしてくれないから。例えば、あの人だって浮気しているのだから。
早苗に対しては、そうしてくれることがすなわち繁夫のためにもなるのだ、僕を愛しているなら僕の目の前で交わってくれというような説得をしたのだった。
早苗は繁夫の要求に対して何の返事もしなかった。背中を向けて黙っているだけだった。だが、普段、饒舌すぎるほどの彼女が黙っているということはそれは、彼の提案を受け入れているということであった。否定をしないこと、それはとりもなおさず肯定していることである。
相手の男は、繁夫が見つけてきた。夫婦交換の相手を紹介する専門の本である。何事にも慎重な繁夫が、慎重を期して相手を選び出したのだった。
男の名は沢田一郎、年齢三十一歳。彼は都内にある国立大学の職員だった。妻帯者である。一郎の希望は本来は夫婦交換であるらしかった。だが、彼の妻はこういうことは初めてであり、相当の決心が必要であり、それまでのつなぎとして、彼は、一対二のプレイを希望する夫婦の相手となるとのことであった。
身分からいっても、家庭環境からいっても、一郎は相手としては申し分のないように思われた。
一郎が初めて繁夫夫婦の家を訪れたのは土曜日の夕方であった。早苗は、まだ写真でしか見たことのない客のために、夕飯の用意をした。ビール、ウイスキー、日本酒、そして酒のつまみに、スモークサーモン、フライドポテト、そして肉料理。
繁夫にとっては一郎の土曜日の来訪が、二度めの顔合わせになるはずだった。既に男同志は一度、顔を合わせ、挨拶を済ませていた。
繁夫は一目見て、一郎を気に入った。自分の女房の相手をする男を気に入るというのもおかしな話だが、口の固そうな雰囲気、知的な容貌、物腰等、自分と同じレベルの世界に住む人間であることを知って安心したのだった。五時、丁度に、玄関のチャイムが鳴った。
迎えに出たのは繁夫であった。
一言二言、短い挨拶をする声が聞こえ、やがて繁夫が一郎を応接室に案内して来た。早苗はいつになく興奮し、高鳴る心臓を自分でもおかしく思いながら頬を上気させ、一郎に初対面の挨拶をした。
ビールで乾杯をし、三人で差しつ差されつ三本ほどビール瓶が空にされた頃、三人は、昔からの知り合い、友達のように打ちとけた会話をはずませていた。会話のはずみ方は、酒があったためばかりではなかった。それは、これから起こるであろう、三人にとって初めての異常な経験を想像することによってでもあった。
早苗には、三人の会話が永遠に続くのではないかと思われた。コップを置き、ふと目を挙げると、一郎の目も凝っと彼女の方を見つめていた。
その光りの中に男の欲望を感じて思わず息苦しくなった早苗の耳に夫の声が飛び込んできた。
「さあ、それではこちらへどうぞ。御案内しましょう。むさ苦しいところですがどうぞ」
促されて、一郎はソファから身を起こした。早苗も繁夫と一緒に先になって一郎を寝室まで案内した。
既にそこには、二組の布団が敷かれていた。
一瞬、重苦しい沈黙が三人をつつみ込んだ。しかし、それは、風船玉のように、一たん破れれば後かたもなく消え去ってしまうものであった。
繁夫が早苗を布団の上に押し倒し、ブラウスのボタンを外しにかかった。
「さあ、沢田さんは、妻の下半身を攻めて下さい」
繁夫の命令とも聞こえる催促の声に一郎の躊躇は吹き飛んだ。
早苗は、一郎の手がスカートに伸び、ホックが外され、尻の下に手が差し入れられ、剥ぎ取られて行くのを感じた。
男二人の目の前には、ブラジャーと、パンティ、バンティストッキングだけをつけた半裸体が横たわっていた。
「さあ、沢田さんの手で女房を喜ばせて下さい。彼女もそれを望んでいるのです」
早苗は、夫の声を遠くの方で聞いたように思った。その後しばらくは、男達の声は聞こえなかった。
沢田の手が彼女の量感のある形の良い乳房に伸び、揉みしだき始めた。
柔らかな、優しい愛撫が巧妙にしかけられ、早苗は、その手が繁夫以外の者の手なのだ、そして、今自分は、夫に見られている、他人の愛撫を受け入れている自分を見られていると考えただけで、震えるような快感を全身で感じてしまうのだった。
早苗の左の乳房が一郎の右手で愛撫され、左の乳房が彼の唇と舌で愛撫され、そして、彼の体の向きが変わり、彼女の秘めやかな湿地帯に一郎の舌が侵入して来た時、早苗は、もはや、夫の存在を忘れ、叫び声をあげた。
快感を肯定するその叫びは、それまで抑えていた彼女の気持を解放させた。
繁夫は、一郎の愛撫に全身で応えている早苗を見て、胸の奥深いところに火がついたような感触を覚えた。
それは確実に徐々に拡大してきて、遂に、彼の男性の象徴部分へと広がって行った。直ったのだった。
彼の分身は半年ぶりにいきいきとし、力強い勃起を示していた。
「沢田さん、一緒に攻めましょう」
繁夫はそう言うと、早苗の下肢を開き体を割って自分の下半身を密着させ、彼女の体に侵入した。成功だった。可能になったのだ。
彼は貫く喜びを半年ぶりに味わった。
こんなにも甘美なものだったのかと彼は、激しく、又、ゆっくりと、腰を動かしながら、早苗の感触を確かめていた。沢田は、彼のその部分を早苗に含ませていた。早苗のそのテクニックは上手なはずであった。繁夫に対してもしばしば用いた技術であった。
その後、繁夫が上を攻め、一郎が下を攻め、又その反対になりと、二時間ほど三人のプレイは続いた。終わった時、三人は、互いの恥部をすべて知った離れがたい絆をつくってしまっていた。
月に一度の割合で三人は一緒にプレイをした。
繁夫の男性自身は、三人プレイの時に一層激しく機能した。普段の時でも、三人プレイの時の早苗の反応を思い出さないと可能な状態にはならなかった。だから、一郎は繁夫にとっても、重要な存在となっていた。
だが、繁夫にとってショッキングな事態か到来することとなった。
それは、早苗が、繁夫には無断で一郎と会うようになったことだった。
勿論、早苗は最初、そのことを繁夫に秘密にしていた。しかし、理由のない外出、一郎に連絡をとった時の一郎の不審な応待の態度等でピンときた繁夫が早苗を問い詰めると、元来が正直な早苗はすべてを告白したのたった。
これは、繁夫には大衝撃だった。
早苗が一郎とプレイするのはすべて繁夫の許しを得てのものであり、彼の支配力の及ぶ範囲内のものであった。だが、彼の目の届かないところで二人きりで密会することは、それは、繁夫に対する裏切りであり、断じて許すことの出来ない行為であった。
何よりも彼のプライドが許さなかった。
「おい、二人きりで会うのはやめてくれ。そういう約束ではなかったはずだ。三人一緒のプレイで充分楽しめるではないか。今後、絶対二人きりで会うのはやめると約束してくれ」
「はい」
早苗の答えは短かかった。
だが、約束は守られなかった。一郎も、三人プレイを渋るようになっていた。
非難する繁夫に対し早苗はこう叫んだ。
「あなたが悪いのよ。あの人を連れてこなければ良かったのだわ。もう手遅れよ。私、あの人を愛しているのよ。赤ちゃんが出来るのよ」
彼は裁判官の質問に対し、最初から殺害するつもりはなかったと答えた。
目の前で交わっている二人が、完全に繁夫の手から離れてしまったと感じた時、自分でどうすることも出来ない猛烈な嫉妬心が生じてきた。
その時二人を殺そうと思ったのだと彼は答えた。
そして、繁夫には懲役二十年の刑が言い渡された。
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