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▼ ベージュ色の襞の欲望 第7回【3】

ベージュ色の襞の欲望 第7回【3】


文=法野巌
イラスト=笹沼傑嗣

ベージュ色の襞の欲望 第7回【3】

成男は些細な事で激情し、冷酷非情の行動をとった。

●死刑宣告

3番めの事件も女と性交しようと旅館に入ったのですが、やはり、酒のためか、インポになってしまい駄目なのです。

それで、せっかく金まで払っているのにと思うとカーッとなって、ナイフで体を切ってやろうと思って襲いかかったのですが、相手があまりに大きな声を出すので見つかったらヤバイと思い逃げだしたのです。

私は殺してやると思ってナイフを使ったのではないのです。何故そういうことをしたのかということですが、後でよく考えてみますが今は何とも言えません。

以上の抜粋だけからでも彼の異常な性格が感じられる。

検察官も彼を起訴するにあたり、精神鑑定を依頼した。その結果、精神病質ではあるが責任能力を欠くほどのものではないとの鑑定を得、起訴したものであった。

身よりも財産もない成男についた弁護人は当然のことながら国選弁護人であった。

弁護人自身も調書を読み、本人と接見し話を聞くうちに、成男の性格の異常さが本件公判のポイントであると確信するに至った。

成男の、少しのことに対して爆発的に反応する激情的性格、血の海でのたうち回る女の体から内臓を素手で取り出すことの出来る冷酷さ、あるいは非情さ、これらは、彼が異常性格、神経の持ち主であることを暗示していた。

弁護人は、独自の立場から成男の精神鑑定の申立をした。事実自体についてはあまり争わず、責任能力の面から争ってみようとしたのである。

このような残虐な犯人のために弁護など必要ないと思われるかも知れないが、どんな犯罪者にも弁護人をつけるのが近代社会の原則である。

現に、死刑を宣告され、控訴した被告人の弁護人がこのような残虐な犯人には弁護の余地はないと主張し、立腹した被告人がその弁護人を相手に慰謝料を請求し認められた例さえある位である。

成男の場合の鑑定、これは勿論、検察官の依頼した人とは別個の人に依頼してなされたものであるが、これも責任能力を認めた。成男は死刑を宣告された。控訴審、上告審も同様であった。そして成男は地上から消えた。


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