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2010ゴールデンウィーク特別企画/
WEBスナイパー総力特集!
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東方二次創作同人誌カテゴリ別紹介〜シリアス・恋愛・イラスト集
シューティングゲーム作品である「東方Project」ですが、ゲームはちょっと苦手で……という人でも気軽に手にとれるのが二次創作同人誌。様々な同人作家の二次創作により東方の世界観は現在も拡大を続けながら、その一方で定型化されつつあります。そんな同人誌作品をいくつかのカテゴリに分けて、紡さんと四日市さんにご紹介いただきます。後編となる本日はギャグ・合同誌・SS・アダルトです。
「東方Project」は同人サークル「上海アリス幻樂団」様の作品です。
常識があるから非常識がある。しかし常に、非常識は常識の地続きにある。笑いとは常識と非常識のスキマにある絶妙な急所に対して向けられる、常識側からの目線ではないだろうか。ギャップ萌えの亜種とも言える。
多かれ少なかれメタな視点が必要とされる笑いにとって、確固たる世界観を持つ原作と、拡張され続ける二次創作世界を持つ東方は、実に魅力的なフィールドだ。
ある時は常識に囚われなさすぎる「東方Project」自身の世界観へ、またある時には崩壊とすら形容される二次創作の歪みに、正位置から光を照射する時、そこには笑いが生まれる。笑いの中でまた東方の世界は魅力を増し、魅力を増せばまた変化球を投げる余地が生まれる。そんな終わりのなき連鎖の中で研ぎ澄まされた珠玉の宝石がこの界隈には無数に煌いている。
堅苦しいお話はさておいて「東方Project」の同人誌で何がいちばん魅力的なのかと言えば、面白い作品を描いてくれる同人サークルがたくさんある、それに尽きる。
今回あげていないが「なん…だと…」「ウモ屋」「玉亭」「地獄駄目人間+魚」「フミンバイン」「からあげ屋さん」などなど、覚えて帰ってもらいたいサークルはいくらでもある。御託はいい。とにかく同人ショップに行くんだ。カタログを買え。チェックリストを作れ。イベントに行け。話はそれからだ。ASAP!!
□発行誌名=『てゑい123』『てゑい6』
□サークル名=さけほぐし
□作者=ずいぞう
この作品と向かい合う度に、私は言論の敗北を、そして言語の限界を思い知らされる。
様々な作品からの引用によって付けられる共感の笑い。ベタなオチの表現を難解にし読者に思考を要求することで、あまりに素朴なオチの正体との差異から生まれる笑い。東方の世界観をメタパロディ的に扱った笑い。さらに近作では四コマ漫画のフォーマットそのものを笑いに応用する先鋭化も魅せてくれる。
絶妙に脱力した絵柄と変化球の繰り返しに、読み始めたら止まらないし、ついついなんとなく読んでしまう。
「然し」
ひやりと去来する、拭い去れぬ戸惑い。
私はこの作品の、四コマ漫画としてのオチの付け方の妙味を解き明かそうと試みてきた。
しかし仮に、「果たしてこのオチの意味は?」というエクスキューズをそのままに、問題の解決を彼方へ追いやったとして、私は果たして、この作品に魅力を感じなかっただろうか?
否。
断じて否。
このどうしようもない真実が、ページを捲るたび、私に敗北を告げるのだ。
漫画も然ることながら本の装丁、デザインセンスも秀逸なのでぜひ即売会で直接手にとってみて欲しい。現在「てゑい6」まで刊行されている。
□発行誌名=『ギャラクシーモンスターゆかりん -望郷編-』
□サークル名=即席魔王
□作者=ボン・カレー
ご威光あふれる八雲紫様におかれましては本日もご機嫌うるわしく、その常識に囚われない優雅なる日常は我々の生活に潤いをくださいます。ああ、紫様、そのようにコミカルにあられてもなおカリスマでいらっしゃる。そんなすきま妖怪をメインに据えたおもしろかっこいい作品集。
躍動感あふれるタッチで生き生きと描かれるキャラクターがボケにボケを重ねるリズムに、仲良きことは美しき哉。幻想郷最古参の妖怪は、何事にあっても全力で当たる。それが仮にテレビの買い替えであっても……。考えるな、感じるんだ。紫様のカリスマを!
□発行誌名=『魔理沙にはかれる』
□サークル名=赤色バニラ
□作者=くま
幻想郷における下着のデファクト・スタンダード、ドロワーズをテーマにした短編集。
出オチのようなシチュエーションを設定しながら、最後には納得すらしてしまう練り上げられた構成にブラボーの拍手が鳴り止まない「もしもドロワーズ」。なぜかドロワーズが自分語りをしているという奇妙な状況下でなぜかハートウォーミングしてしまう「我輩はドロワーズ」。そして極めて紳士的にドロワーズ豆知識を学ぶことができる「博麗神社のドロワーズ」。この作品を読み終わった頃には、あなたも極めて常識的になっていることだろう。幻想郷的な意味で。
□発行誌名=『魔理沙がぢになる話』
□サークル名=火鳥でできるもん!
□作者=火鳥
春度を奪われてしまったかのような早春の霧雨に濡れながら、貴方は沈黙に沈みページを捲る。
虚ろげで、まるで石神のように淡い瞳には、暁の夜明けの花弁のような、雨粒。
消え入りそうに、けれど言葉は凛として、貴方はきっとこう云うのでしょう。
「ここに、病院を建てよう。誰もが健康でいられるように」
だ
が
断
る
!!!
貴様も病院送りにしてやろうか!!
「タイトルからして出オチじゃないか」と嘯く貴様の、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!
仮に出オチだったとしても、出オチの瞬間最大風速を維持したまま最後まで走りきれる短距離アスリートの収縮する筋肉が、この漫画にはある。
確かに魔理沙は外道だし、アリスは変態かもしれない。でも、そんなことはもういいじゃないか。一瞬のことだ。痛くないよ。
この物語には数多くの教訓があり、暗喩があり、警告がある。人間存在の知性の源泉、語彙の不足によるコミュニケーション不全の指摘、古来より存在した最も恐るべき病「ぢ」……。その全てを論考するにはあまりにも余白が足りない。しかし、誤解を恐れずに言うならばそう、この物語は「魔理沙がぢになる話」だ。
現代という時代において、我々はあまりにも尻を酷使しすぎたのではないだろうか。尻に溺れ、尻を騙し続けてきたのではないだろうか。これは現代社会の病理に対するアンチテーゼに他ならない。
なおアリス・マーガトロイド先進諸国の方々は、まあ一杯飲みましょう。(以上、担当=四日市)
■合同誌 〜萃まる夢、想い、そして合同誌〜
東方における合同誌の最たる魅力は、その自由奔放さにある。キャラクター、カップリングをテーマにした合同誌ならば他ジャンルでも見られるかもしれないが、東方の合同誌では酒や怪談といった特定のテーマや靴下のようなフェティッシュな物まで何でもござれだ。この「何でもあり」なカオスが許容される状況こそ、東方の多様性を如実に体現していると言える。
□発行誌名=『星屑バスケット〜Collections of Twinkle Stars〜』
□サークル名=蒼空市場
□作者=蒼「蒼空市場(主催)」
2009年に発行された霧雨魔理沙合同誌。この時期になっても魔理沙合同誌が発行されること、そしてそのボリュームから、主人公の一人である白黒の彼女がどれほど愛されているのかが見て取れる。
主人公という立場上、自然と多くのキャラクターと関わる機会が多くなる魔理沙。パチュマリ、アリマリ、レイマリなどに始まり、にとマリや咲マリなど、カップリングでは断トツ。それだけ魅力のある彼女なら、この愛されようも頷ける。
■SS 〜楽園の素敵な小説〜
もしあなたが作品の設定を読み解くことが好きな人間なら、東方SS(Short Story)をお薦めする。公式作品に散りばめられた設定を料理することにかけて、東方SSは優れた表現媒体である。普段は小説をあまり読まないという貴方も、一度ページを捲れば作者の描く世界観に浸ることができるだろう。(以上、担当=紡)
■アダルト 〜東方超紳士〜
それが18禁であるというだけでカテゴリが独立してしまうことをどう思う? そこで描かれているものはきっと、普遍的な物語であるはずなのだが。
「東方界隈にはエロが少ない」といわれて久しい。キャラクターが記号化されているため裸体化が困難、男が少ない、ことさら東方界隈にあっては性欲をギャグに転化する向きが強い。いや、同人における流行と傾向、その分析をここで行なうつもりはない。しかしアダルトというジャンルにはそれらを飛び越えるだけの表現力が存在する。
東方の二次創作界隈においてアダルトが島を作る程度には存在し、そのウルトラ・マグネティック・エロティカが紳士たちを性的に躍動させていることは間違いがない。ほら、みんな隠してるけどアレ(※1)で遊んでるひと結構いるし……。無論、つるぺったんが多いのは仕方がない。でも、そんなのはむしろご褒美だろう?
□発行誌名=『あなたをあなたをあなたを愛してやまない』
□サークル名=乱道ハウス
□作者=乱道
霊夢と魔理沙のキャッキャウフフなエロス。かわいさと笑いが共存しているのにきちんといやらしいのが素晴らしい。霊夢が大好きな魔理沙と性的にアグレッシブな霊夢と魔理沙が大好きなアリスがくんずほぐれつするうちにレイマリアリになって、エロがみんなを繋いでくれる。みんな柔らかそうで、あまりちっぱいではないが、そこがいい。
□発行誌名=『東方少女催淫 〜魔法少女編〜』
□サークル名=塵芥
□作者=塵芥
森近に性的に調教された魔理沙、その様子を見てしまったアリス、パチュリー、そして霊夢と次々と監禁、調教されていく。野外調教、放尿、触手、レズプレイなどなどフェティッシュなシチュエーションはだいたい詰め込まれている。SM的なシチュエーションやハードな描写も多く、仲良しキャッキャウフフでなくガチンコな剥き出しのエロス。好きなんだろ? ほら、アレとか(※1)。
■まとめにかえて 〜神々が恋した幻想郷〜
今回は「東方Project」の世界に触れたことのないあなたのために、東方の世界を愛する人々の愛の形の片鱗をここに掲載させていただいた。あなたに、幻想郷の魅力を感じてもらえればこれ以上ない幸いだ。
にわかファンを作るつもりはなく、むしろ「貴様も東方厨にしてやろうか!!」くらいの気持ちで取り組ませて頂いた。そのための圧倒的すぎる戦力として掲載させて頂いたサークルの方々には感謝しても仕切れない。本当にありがとうございます。
長く続く二次創作文化の中で、あるいは原作の絶妙なサジ加減によって、「東方Project」のキャラクターにはあいまいさを許容する土壌が積み上げられている。だからこそ、作家は絵柄と芸風にフィットした味付けが実現し、だからこそ博麗霊夢は「誰彼の博麗霊夢」として作家の数だけ存在し、しかしその固有性を維持し続ける。
二次創作とはファン活動だ。彼女らを束ねるその根幹には、原作が用意した魅力的な舞台がある。幻想郷へのスキマは、気まぐれな妖怪によってふいに開かれる。しかし、どこから入ろうとそこは幻想郷なのだ。あなたの幻想入りを、境界の上にて待つ。(以上、担当=四日市)
文=四日市・紡
※1 アレである。アレ。エラ。
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四日市 エヴァンゲリオン研究家。三度の飯よりエヴァが好き。クラブイベントにウエダハジメ、有馬啓太郎、鶴巻和哉らを呼んでトークショーを開いたり、雑誌に文章を載せてもらったり。プロフィール画像は昔描いた三十路魔法少女漫画。
紡 同人サークル「星空亭」主催。東方Project二次創作を中心に活動中。小説メインのサークルらしい。 また、即売会スタッフとしても活動している。東方作品を心の糧に日々を生きる。秘封倶楽部はもっと広まるべき