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写真シリーズ「ハイツ三文小説」【1】戸山ハイツアパートメント
ワタシは、団地の給水塔をライフワークで撮り歩いている写真家だ、と言えば聞こえは良いが、バブルがはじけてからというもの撮影本数が徐々に減り始め、昨今の出版業界不況のあおりを諸に被り、毎日がホリデー、明日をもしれぬ切迫した経済状況の身、飛び降りるに最適な団地を捜し、日々都内近郊を徘徊している。
しかし写真家の悲しい性なのかもしれない。死に場所を捜してるくせして、高層の団地に登れば、カメラを取り出し、ついつい給水塔を撮ってしまうのである。
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給水塔の向こうに十字架の建物が見えた。なにも、こんな青空の日に死ななくてもいいだろう。
行ってみることにした。





古い石造りの建造物の上にできた教会だった。近くで落葉掃除をしていた教会に併設の幼稚園に勤める用務員に訊ねると旧日本軍の士官集会所跡だと教えられた。





道を隔てた反対側に六角形台座の妙な建造物があった。





そこで女のコに出会った。
若い娘さんと喋るなんて何年ぶりだろう、グラビアカメラマン時代には毎日のように会話していたというのに。
話しているうちに仲良くなった。





迷路のような団地だった、4号棟に住んでいるそうだ。





「ママはパートで夜まで帰って来ないから家においで」と言う、ここで妙だなと普通なら気づくだろうに。





「おじさん、早く上がっておいでよ」

久々にイイ被写体に出会った、女のコの家で、まだ窓辺の自然光で十分に撮れるし、初脱ぎヌード、売れるかも、これで少しは食い繋げるかもしれない、 あわよくば写真集まで、久々に海外ロケが、妄想が妄想が、頭の中を縦横無尽に駆け巡っている。
そうだ、このシチュエーションでアップ気味にオープンカットも拾っておこう。
「あっ、レンズ交換するから、そのままでいて」
バックからナガタマを取り出し、素早く付け替える、上を見上げたら女のコはもうそこにいなかった。





捜したがみつからなかった。





最初に出会った六角形台座の妙な建造物のところまで戻ってみた。





風もないのに、一陣の風が吹き抜けた。





この出来事を誰かに話したかった、ホームレスおじさんを呼び止め、女のコと出会った話を聞いてもらった。





「ホレ、あすこにトイレが見えるだろ、今年の夏にあのトイレで首つり自殺した男のコだな、それは」
「えっ?男のコ?可愛い女のコだったよ」


写真シリーズ「ハイツ三文小説」【1】戸山ハイツアパートメント
写真・文:コロラド一郎
モデル:めかつ


《戸山ハイツの歴史》

戦後に東京の住宅難を解消すべく、公営の集合住宅が次々と建設された。その中でも、都営住宅第一号として建てられたのが、この戸山ハイツアパート、いわゆる「団地」というイメージを決定づけたシンボル的存在である。
この都内団地の原点「戸山ハイツ」が木造住宅として完成したのは1949(昭和24)年。その後、1970年代にコンクリート造りの高層住宅に建て替えられた。
戸山ハイツを含めた周囲一帯は、もともと旧日本陸軍の敷地だった。(戸山ハイツに隣接の)国立感染症研究所が建てられたのは、中国で細菌や毒物などの生体実験を行なったとされる、あの恐ろしい七三一部隊の日本における拠点、陸軍軍医学校の跡地。細菌兵器を造るための人体実験を行なっていたらしく、(国立予防衛生研究所・現在の国立感染症研究所)建設中の1989(平成元)年7月22日に不自然な形の人骨が100体以上みつかり大騒ぎになった過去がある。箱根山を少し下ったところには「いかにも」な雰囲気の「自殺した男性の霊が出る」で有名な公衆トイレもあり、こんな因縁から心霊スポットとして近年(戸山ハイツは)脚光をあびている。住んでる人達にとっては傍迷惑なハナシだろう。
現在、戸山ハイツに住んでる人達の多くは65歳以上、「都心の限界集落」と呼ばれている。
江戸時代は尾張徳川家の「戸山荘庭園」、幕末に消失、その後、復興されないまま、風水害で荒廃、明治になって陸軍の射撃場や軍人養成機関である陸軍戸山学校など軍事関係の施設が設置され、先の戦争終結まで存在し、終戦後は、米軍に接収され兵舎として使われていた激動の土地でもある。
戦後、旧日本軍の遺構・石造りの将校集会所跡の上に米軍が教会を建設、現在は戸山教会&戸山幼稚園になっている。近くに建つ六角形の台座に円形の建造物、これも遺構、旧日本軍の野外音楽堂跡だそうである。
コロラド一郎(ころらど・いちろう) 写真家。団塊世代。血液型O型。四半世紀以上も前に、今は亡きカリスマ縛師・濡木痴夢男氏から『キミの撮る緊縛は良い』と言われ、有頂天になり、継続は力なりと邁進するも緊縛写真奥深し、未だ試行錯誤中だと語る。「さる業界」の第一線で長く活躍しているカメラマンの一人である。
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15.11.28更新 | 写真  >  ハイツ三文小説
コロラド一郎 |