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第8章 体育教師・けい子【3】

「ふふふ、パパ、ずいぶん楽しんだみたいね」

玲子は、ベッドの上でぐったりと倒れているけい子を見下ろしながら、言った。

けい子は、意識を失っているようで、目は開いているのだが、焦点はあっていない。繰り返し追いやられた絶頂の余韻か、時折その後ろ手に縛られた裸身がヒクッ、ヒクッと痙攣する。

「素晴らしいよ、けい子は。体も素晴らしいし、どんなに責めても飽きない。こんなに反応のいい女は初めてだ。玲子にやるのは、もったいないな」

少し照れ笑いしながら、長谷川は愛娘に一晩中けい子を責めた感想を口にした。

「あれだけ女遊びしてるパパに、そこまで褒められるなんて、けい子先生もさすがね。ほら、喜びなさいよ」

玲子はけい子の頬を軽く叩いた。

「はっ。……安藤さん?!」

意識を取り戻したが、いきなり現われた玲子の姿にけい子は混乱する。

「おはよう、けい子先生。ずいぶんとお楽しみだったみたいね」
「あ、ああ……」

長谷川に責め続けられた記憶が蘇る。拘束されて身動きの取れない体を、指で、舌で、そしていやらしい器具で、何度も何度も絶頂に追いやられた。不能のため挿入行為もせず、射精という終わりもない長谷川は、飽きることなくけい子の体を嬲り続けた。

自分がどれだけ恥ずかしい姿を晒したのか、思い出すだけでもけい子は死にたくなる。男性に対して強い嫌悪感を持っているだけに、その屈辱感はひとしおだった。

「パパは、さすがにもう疲れて寝るっていうから、今度は私がけい子先生と遊んであげるね」
「も、もう勘弁して……。へとへとなの。せめて、少しだけでも、休ませて……」

運動で鍛えあげ、体力には自信のあるけい子でも、ろくに睡眠も与えられずに一晩中イカせ続けられていては、たまったものではない。体が鉛のように重く、頭も靄がかかったようにはっきりしない。

「だめだめ、せっかくの週末だもん。たっぷりとけい子先生で遊ぶことに決めたの」
「あ、ああ……」

玲子が一度言い出したら、引くことのない性格だということをけい子は知っていた。それでも、けい子は懇願するしかなかった。

「安藤さん、お願い……」
「その言い方は、いやだなぁ。私も先生のご主人様なのよ。でも、玲子様って言われるのは、ちょっと気恥ずかしいわね。玲子さん、くらいにしておきましょうか」
「れ、玲子さん、少しだけでも休ませて下さい。お願いします」

けい子はベッドの上で後ろ手に縛られた不自由な体で、土下座してまで玲子に許しを乞うた。それを玲子は痛快な思いで見ていた。

親にも一度も殴られたことのない自分に、平手打ちまで食らわせた女教師。それが今、すっぱだかで自分に土下座している。自然に笑みがこぼれてくる。

「ダメよ、先生。奴隷へのしつけは、最初が肝心だって聞いたわ。それに疲れてるくらいのほうが、先生も大人しく言うこと聞いてくれそうだしね」

けい子はがっくりと肩を落とす。

「まぁ、いきなり無茶して、壊さないでくれよ。じゃあ、パパはちょっと寝るからな」
しばらく二人のやりとりを見ていた長谷川が部屋を出て行った。
「あ、ご主人様、待って……」

けい子の一縷の望みは完全に絶たれてしまった。もう、残酷な元教え子の玩具になる運命は避けられない。

玲子は、けい子を天井から吊るすように拘束した。この部屋はけい子を迎えるために、長谷川が作った調教室だ。けい子を責めるための仕掛けや器具があちこちに備えてある。

「あ、ああ……」

両腕を天井に伸ばした格好で吊るされ、けい子は全くの無防備な姿となった。胸も、股間も、何一つ隠すことなど出来ず、玲子の前にさらけ出されている。

「本当に、いい体してるわね、けい子先生。羨ましいわ」

玲子はけい子の肉体を舐め回すようにじっくりと観察した。引き締まっていながらも、めりはりのある女らしい曲線が艶めかしい。特に重量感がありながらも、少しも垂れていない乳房は、圧倒的な迫力があった。

「これだけ綺麗だと、汚したくなっちゃうのよね、私みたいな人間は」

玲子は冷酷な笑みを浮かべた。けい子は思わず目をつぶる。これから、どんなひどい目に遭わされるのだろう。屈辱的ではあっても、苦痛は伴わなかっただけに、長谷川の快楽責めのほうが、ましだったかもしれない。

ところが、玲子は意外な行動に出た。

柔らかくなめらかな感触を、けい子は唇に感じた。

「な、何?」

慌てて目を開ける。玲子がけい子を抱きしめて口づけをして来たのだ。それも、愛を込めた優しいキスだった。

「ん、んぐぅ」

唇を割って、玲子の舌が侵入してくる。けい子は歯を閉じて、それを防ごうとした。しかし、玲子の舌がぬめぬめと歯茎や唇の内側を悩ましく動きまわると、思わず力が抜けた。

「あ、ああ……」

一瞬、歯が開いた隙に玲子の舌は腔内へと滑りこんできた。そしてけい子の舌を捉えると、からみつく。たっぷりと水気を含んだ滑らかな少女の舌の感触。恐怖に緊張していた体から、一気に力が抜けてしまった。

それは、懐かしく、たまらなく官能的な感触だった。自分の中に封じ込めておこうとしていた記憶が蘇ってしまう。

玲子の舌はけい子の口の中で激しく動きまわった。腔内にこれほどの性感帯があったのかと驚くほどに、けい子に快楽をもたらす。けい子は自分の体がとろけてしまいそうな感覚に溺れていた。

玲子はその反応を確認すると、ゆっくりと唇を離した。けい子の舌が名残惜しそうに離れる。

「ふふふ、久しぶりでしょう? 女の子のキスの味は……」

けい子の顔を覗き込むようにして、玲子は妖しく笑う。

「……」

けい子の目が潤んでいた。どんなに長谷川に絶頂を迎えさせられても、これほど艶っぽい表情は見せていなかった。

「けい子先生が、女の子が好きだってことは、知ってたのよ」
「……ひかりさんに聞いたの?」
「そう、私もちょっとひかりちゃんとつきあってたことがあってね。びっくりしたわ、あのけい子先生がビアンだったなんてね」
「ち、ちがうの……」
「ふふふ、まだ認めてないんだ」


自分が同性愛者ではないか、けい子がそう思い始めたのは、高校生の頃だった。

けい子は小学生の頃に、変質者に悪戯されたことがあった。道を聞いてきた男に物陰に連れていかれ、そこで体を触られ、勃起した性器を見せつけられた。男は常習犯であり、間もなく逮捕されたが、その恐怖は、幼いけい子の心の中に深い爪あとを残してしまった。

思春期になると、けい子もクラスの男子が気になったりもした。一緒に下校する程度の淡い関係のボーイフレンドも出来た。

けい子は人一倍発育がよく、女らしい体つきになるのも早かった。胸もどんどん大きくなっていった。

しかし、異性から性的な目で見られることには強い嫌悪感を持っていた。それは思春期の少女なら誰でも持つ気持ちではあったが、けい子はいつまでもそれが薄れなかった。

整った顔立ちでスタイルもいいけい子はどこへ行っても男たちの注目の的だった。言い寄る男は数えきれないほどであり、そのうち何人かとは個人的な関係にもなった。

しかし、彼らが体を求めてくると、けい子は途端に感情が冷めてしまい嫌悪感を抱いてしまう。そうして何人もの彼氏が去っていった。若い男に性欲を持つなというほうが無理な話だ。しかも、けい子は人一倍発育のいい肉体をしているのだから。

しかし、性欲がなかったわけではない。中学生になると、すでに充分に成熟していたけい子の肉体は、刺激を求めてうずくようになっていた。気まぐれに自分の胸と股間を触ってみた時、全身がしびれるような快感を覚えた。

性的な知識に疎いけい子は、それが自慰行為であることすら認識していなかったが、それが「よくないこと」「恥ずかしいこと」であることだけはわかった。

なんとか体のうずきを鎮めようと、けい子はスポーツに打ち込んだ。部活のバレーボールに熱中し、県レベルでも注目される選手になり、やがてキャプテンに任命された。

しかし、厳しい練習でどんなに体がヘトヘトになっても、うずきが消えることはなかった。だめだと思っていても、ベッドの中に入ると自然に指が自分の恥ずかしい場所へと伸びてしまう。その行為をしないと、眠れない体になっていたのだ。

けい子が自ら体を慰める時、特に性的な妄想はしていなかった。体のうずきに任せて指を動かしていただけだった。それに、変質者に悪戯されたトラウマが、男性の性欲に対する嫌悪感となっていたため、男女のセックスを想像することはなかった。当時、淡い関係にあったボーイフレンドのことを考えることもなかったのだ。

しかし、高校生になったある時、ふとクラスメートの女の子とキスをする想像をしてしまったことがあった。

ボーイッシュなショートカットにしていて、体も大きく、スポーツも万能なけい子は、むしろ男子よりも女子からの人気があった。思春期の女子が、女子に憧れることはよくあることだ。中学、高校とけい子には女子によるファンクラブが作られていたほどだ。けい子がバレーボールの試合で活躍すると、客席からは「けい子お姉さま」の声が無数にあがった。

彼女たちは同性の気安さで、ふざけるように抱きついてきたりしてじゃれあうことも多かった。そんな時、けい子も同性の体の柔らかさを快いものだとは思っていたが、さすがに性の対象とまでは考えたことがなかった。

しかし、ある時にいつものようにベッドの中でオナニーに耽っていた時、けい子の脳裏に、ファンを自称するクラスメートの水樹の姿が浮かんだ。彼女はよく「お姉さま、キスしてぇ」などと、ふざけて抱きついて来るのだ。もちろん、いつもは受け流すのだが、その時の妄想の中で、けい子は水樹を抱きしめて、キスを受け入れた。舌と舌を絡ませるような行為までは想像できなかった。

それでも、その光景を思い浮かべながらのオナニーは、いつもよりもずっと興奮してしまったのだ。肉体的な快感と、精神的な興奮が初めて一緒になった。

それから、けい子はオナニーの時は、女の子のことを想像するようになっていた。最初は唇を触れ合わせるだけのキスで満足していたのに、やがて体を触りあうことも思い浮かべるようになった。自分の指が、別の女の子のものだと想像すると、快感はどんどん高まっていくのだ。

特に、華奢で可愛らしい年下の女の子に、責められる想像が好きだった。いつもは男っぽい自分が、そんな女の子によって、無理矢理感じさせられてしまう。

女の子が相手だと考えると、どんないやらしいことでも想像できた。これが男相手だと考えると嫌悪感しかないのだが。

毎晩、そんなことを考えてオナニーに耽っていたのだから、自分が同性愛者なのではないか、とけい子が思うようになったのも無理はない。

しかし、それでいて、女性に対して恋愛感情は抱けなかった。淡い好意を持つのは、いつも男性に対してだ。

つまり、男性には恋愛を求め、女性に対しては性欲を求めるという複雑な感情をけい子は抱えていた。そのため、男性とはボーイフレンド以上の関係に進めず、かといって女性との肉体関係に踏み込む勇気もなく、ただ悶々とオナニーに耽る日々が続いた。

やがて、けい子は大学で教員の資格を取り、教職の道を歩むこととなる。

その最初の赴任先で、教え子となったひとりが、ひかりだった。

(続く)

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10.11.08更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪
文=小林電人 |