信じるな、自分の目で見ろ。
『リダクテッド 真実の価値』
監督=ブライアン・デ・パルマ
ドキュメンタリーだけが真実を伝えるのではない。デ・パルマ監督が戦争の無意味さを暴く!
10月25日(土)、シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー!
リダクテッド(redacted)とはredact「編集する」の受身形で「編集された」という意味だがもっと言えば「検閲済み」ともとれるだろう。監督は言う。
「イラク戦争の真実は巨大企業メディアがリダクト(検閲削除)している。しかし我々はこの恐ろしい映像を直視しなければならない。ベトナム戦争ではこうした映像を見た市民たちが抗議し、誤った方向に導かれた抗争を終わらせた。この映画も同じ効果を持つことを祈ろう」
今作品は2006年3月12日イラクのバグダッド南部マフムディアで起きたアメリカ兵によるレイプ殺人事件に基づいたフィクショナルドキュメンタリーであり、見終わったとき館内に重苦しい空気が流れる、そんな映画である。もう少し詳しくこの事件を解説すると、アメリカ兵5名がイラク人のカジム家に押し入り(以前にも捜査という口実で侵入していた)父、母、娘(5歳)を殺した後にもう一人の娘アビア(14歳)を輪姦してから銃殺、さらに彼女の下半身に火をつけ、結果家屋を全焼させたというもの。
なぜこのような事件が起きたのか、ブライアン・デ・パルマ監督は兵士たちのブログや本を読み、ホームビデオ映像やウェブサイト、You Tubeの投稿を見、「それを実際に集めて映画にしようと思ったが著作権上できないので再現し」映画というフィクションを通して真実を明らかにしたのである。設定場所は2006年4月イラク、サマラ米軍基地(余談だが出てくる兵士の一人が読んでる本がジョン・オハラ「Appointment in Samarra」)。登場人物は検問所を警備する6名のアメリカ兵。デ・パルマ監督は一歩兵団の兵士というリアルさを出すためメジャーな俳優は使わず、無名の新人を起用。アメリカ人なら近所のお兄さんを見てるような親近感を持ったのではないだろうか。この6名が検問所勤務になり事件を起こしそして帰国するまでが描かれていく。
戦地でないため、思わず寝てしまうような平穏な検問所ではあるが、一方で自爆テロや狙撃の格好のターゲットにされやすいという緊張感も漂う場所。そこに制止の合図も聞かずに走ってきた一台の車を銃撃してしまう。しかし車から出てきたのはテロリストではなく、産院に急ぐ妊婦とその兄であった。アメリカ兵は言う「止まれ」とアラビア語で書いてあるんだから突っ込んでくる奴が悪いと。イラクでは識字率が低いことなどお構いなし。「手を上げて制止しようとしてもあいつら(イラク人)は挨拶だと思ってやがるんだ」などと差別意識が丸出しである。
事件の夜は酒を飲みながら「(殺られる前に)先手を打ちに行くんだ。女こそ戦利品だ」とか「オレのチンコはカッカしてるんだ。アラブ女のあそこに入れれば少しは落ち着くと思うんだけどな」と意気を上げる兵士に、カッコイイ映像を撮って帰国後は映画学校に入りたいからとカメラを持ってついて行く仲間のモラルのなさ。このカメラオタは事件の復讐としてターバンを巻いたイラク人に首を刈られる。のちに内部告発によりこのチームに軍の調査が入るのだが、尋問されて逆切れしたレイプ犯兵士の台詞が奮っていた。
「爆撃(で人を沢山殺すの)はいいのに、レイプはダメか?」
またウェブテレビThe Get Out Of Iraq Campaign[イラクから出てけキャンペーン]番組(という設定)でこの事件に怒りを覚えるゴスっ娘がTVに向って、
「レイプ犯を逆さ吊りにして、残されたイラク人家族に野球のバットを渡してやれ! 「9.11」の映画はいくつもあるのに、イラク侵略映画がないのはどうしてかって? そんなの誰も気にしてないからよ。アメリカは自分たちをUbermensch(superman−超人)だと思ってるんだから」とハイル・ヒトラーのポ−ズをして批判するシーンも印象的である。
人が普段見て或いは使っている物、つまりハンディカメラの極端に揺れる映像、リポーターが現地から伝えるニュース番組、You Tubeのような動画投稿サイト、兵士の妻たちがやってる動画ブログ、skypeのようなwebカメラチャット、軍内部の監視カメラなどを一つ一つ作り(偽装し)上げ、これはフィクションではなく真の「現実」だと観客が思わず信じてしまうようなレベルにまでこの映画を高めている。
逆に言えば、デ・パルマ監督が映画だと感じさせる要素を徹底的に排除して製作した映画とも言えよう。フィクションによるノンフィクション、この傑作をぜひ劇場で見て欲しい。
『リダクテッド 真実の価値』
10月25日(土)、シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー!
監督・脚本=ブライアン・デ・パルマ
キャスト
ロブ・デヴァニー
イジー・ディアズ
パトリック・キャロル
タイ・ジョーンズ
ケル・オニール
ダニエル・スチュワート・シャーマン
配給=アルバトロス・フィルム
2007|アメリカ、カナダ|90分|1:185|カラー|ドルビー・デジタル|
関連リンク
映画『リダクテッド』公式サイト
映画『リダクテッド』海外公式サイト
マフムディア殺人事件(英語)
関連リンク
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『リダクテッド 真実の価値』
監督=ブライアン・デ・パルマ
ドキュメンタリーだけが真実を伝えるのではない。デ・パルマ監督が戦争の無意味さを暴く!
10月25日(土)、シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー!
リダクテッド(redacted)とはredact「編集する」の受身形で「編集された」という意味だがもっと言えば「検閲済み」ともとれるだろう。監督は言う。
「イラク戦争の真実は巨大企業メディアがリダクト(検閲削除)している。しかし我々はこの恐ろしい映像を直視しなければならない。ベトナム戦争ではこうした映像を見た市民たちが抗議し、誤った方向に導かれた抗争を終わらせた。この映画も同じ効果を持つことを祈ろう」
今作品は2006年3月12日イラクのバグダッド南部マフムディアで起きたアメリカ兵によるレイプ殺人事件に基づいたフィクショナルドキュメンタリーであり、見終わったとき館内に重苦しい空気が流れる、そんな映画である。もう少し詳しくこの事件を解説すると、アメリカ兵5名がイラク人のカジム家に押し入り(以前にも捜査という口実で侵入していた)父、母、娘(5歳)を殺した後にもう一人の娘アビア(14歳)を輪姦してから銃殺、さらに彼女の下半身に火をつけ、結果家屋を全焼させたというもの。
なぜこのような事件が起きたのか、ブライアン・デ・パルマ監督は兵士たちのブログや本を読み、ホームビデオ映像やウェブサイト、You Tubeの投稿を見、「それを実際に集めて映画にしようと思ったが著作権上できないので再現し」映画というフィクションを通して真実を明らかにしたのである。設定場所は2006年4月イラク、サマラ米軍基地(余談だが出てくる兵士の一人が読んでる本がジョン・オハラ「Appointment in Samarra」)。登場人物は検問所を警備する6名のアメリカ兵。デ・パルマ監督は一歩兵団の兵士というリアルさを出すためメジャーな俳優は使わず、無名の新人を起用。アメリカ人なら近所のお兄さんを見てるような親近感を持ったのではないだろうか。この6名が検問所勤務になり事件を起こしそして帰国するまでが描かれていく。
戦地でないため、思わず寝てしまうような平穏な検問所ではあるが、一方で自爆テロや狙撃の格好のターゲットにされやすいという緊張感も漂う場所。そこに制止の合図も聞かずに走ってきた一台の車を銃撃してしまう。しかし車から出てきたのはテロリストではなく、産院に急ぐ妊婦とその兄であった。アメリカ兵は言う「止まれ」とアラビア語で書いてあるんだから突っ込んでくる奴が悪いと。イラクでは識字率が低いことなどお構いなし。「手を上げて制止しようとしてもあいつら(イラク人)は挨拶だと思ってやがるんだ」などと差別意識が丸出しである。
事件の夜は酒を飲みながら「(殺られる前に)先手を打ちに行くんだ。女こそ戦利品だ」とか「オレのチンコはカッカしてるんだ。アラブ女のあそこに入れれば少しは落ち着くと思うんだけどな」と意気を上げる兵士に、カッコイイ映像を撮って帰国後は映画学校に入りたいからとカメラを持ってついて行く仲間のモラルのなさ。このカメラオタは事件の復讐としてターバンを巻いたイラク人に首を刈られる。のちに内部告発によりこのチームに軍の調査が入るのだが、尋問されて逆切れしたレイプ犯兵士の台詞が奮っていた。
「爆撃(で人を沢山殺すの)はいいのに、レイプはダメか?」
またウェブテレビThe Get Out Of Iraq Campaign[イラクから出てけキャンペーン]番組(という設定)でこの事件に怒りを覚えるゴスっ娘がTVに向って、
「レイプ犯を逆さ吊りにして、残されたイラク人家族に野球のバットを渡してやれ! 「9.11」の映画はいくつもあるのに、イラク侵略映画がないのはどうしてかって? そんなの誰も気にしてないからよ。アメリカは自分たちをUbermensch(superman−超人)だと思ってるんだから」とハイル・ヒトラーのポ−ズをして批判するシーンも印象的である。
人が普段見て或いは使っている物、つまりハンディカメラの極端に揺れる映像、リポーターが現地から伝えるニュース番組、You Tubeのような動画投稿サイト、兵士の妻たちがやってる動画ブログ、skypeのようなwebカメラチャット、軍内部の監視カメラなどを一つ一つ作り(偽装し)上げ、これはフィクションではなく真の「現実」だと観客が思わず信じてしまうようなレベルにまでこの映画を高めている。
逆に言えば、デ・パルマ監督が映画だと感じさせる要素を徹底的に排除して製作した映画とも言えよう。フィクションによるノンフィクション、この傑作をぜひ劇場で見て欲しい。
文=ハル吉
『リダクテッド 真実の価値』
10月25日(土)、シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー!
監督・脚本=ブライアン・デ・パルマ
キャスト
ロブ・デヴァニー
イジー・ディアズ
パトリック・キャロル
タイ・ジョーンズ
ケル・オニール
ダニエル・スチュワート・シャーマン
配給=アルバトロス・フィルム
2007|アメリカ、カナダ|90分|1:185|カラー|ドルビー・デジタル|
関連リンク
映画『リダクテッド』公式サイト
映画『リダクテッド』海外公式サイト
マフムディア殺人事件(英語)
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DJハル吉 7"インチ専門DJ。得意なジャンル:童謡とノイズ。その他インディーズ翻訳家兼作曲家。曲を演奏してくれるオーケストラ募集中。鳥の唐揚げが大好き、あとラム肉。座右の銘「猫は野良に限る」。 DJハル吉サイト=「峠の地蔵」毎週月曜更新 |