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阪神・淡路大震災15年特別企画
子どものころに阪神・淡路大震災で被災した男女が、追悼のつどいの前日に神戸で偶然に知り合い、震災当日から15年後の朝を共に迎える姿を描く人間ドラマ。2010年1月17日にNHKで放送された作品に新たな映像を加え、再編集版としてスクリーンで公開!!2011年1月15日 東京都写真美術館ホール、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー
こなれた若者っぽい台詞と、それにしては不穏な話の方向性に、「これは一体何なんだ」と思ったのを覚えている。
本作は2010年1月にNHKで放映された「阪神淡路大震災」についてのドラマ。反響の大きさを受け、今回劇場版として全国で公開されることになった。放映時にはなかった実際のニュース映像など、若干の再編集が加えられている。
主演は佐藤江梨子と森山未來。2人は共に小中学生の頃に被災した設定だ。終電が終わったあとの街を、徒歩で移動しながら映画は進んでいく。佐藤江梨子は翌朝、三宮で行なわれる「追悼のつどい」に参加するために、森山未來は出張のついでに「偶然」神戸に立ち寄った。夜の中、男女が話し合う映画というのはイイものだ。夜の暗さの中なら自分の正体をさらけ出すことも出来るし、結論は朝、明るくなる前に出さなきゃならない。本作が新しかったのは、2人が「地震が起きたその瞬間よりも、むしろその後に起きたことによって傷ついている」というところで、そこには崩れたビルとは違う、もうひとつの震災の姿がある。
人生というのは、なんとなく生きていけるはずだ。ところが、人間を束で扱う大きなものがやってきて、ある日突然結論が出てしまう。その結論は以後の自分を縛り、人と人を分け隔てる。
たとえばそれが、戦争だったらどうだろう? ある日「徴兵令状」が届いたら? それに応じた人と拒否するなり逃亡するなりした人は、戦争が終わったあとも前と同じように付き合えるだろうか。
通勤列車が事故を起こして、家族が巻き込まれたらどうだろう? 大企業や国を訴えなければいけなくなったら? 最近始まった、国民裁判員制度でもいい。それを受けても、拒否しても、その決断は後の人生をついてまわる。それまでは気にせずにすんでいたことを、急に決めなければいけない。そしてその選択は、自分はこういう人間だという「結論」として以後の自分を追いかけてくるのだ。
2人は15年前に出した、それぞれの結論を引きずって街を移動する。どちらも震災さえなければ無縁でいられた弱さや、エゴを含んだ結論だ。その結果彼らは被災経験のない人間から隔てられ、さらに同じ被災者同士である2人の間にも断絶がある。
震災によって普通であることを失い、普通の人に戻るために神戸を出た2人。普通のというのは「なあなあ」で、結論をもたず、語尾が「――っすよね」の人ということだ。というか、という状態、タイミングにある人ということだ。でも、どんなに普通な人でも「なあなあ」でなくなる時があって、そんな夜には人生が有限であるという、最も大きな事実に向きあうことになる。
彼らの夜歩きを通して、普通の人間が普通に住む街を襲った震災の姿が見えてくる。と同時にそれは「普通に生きている人が、人生の有限性にひとつのケリをつける」一晩でもある。そんな夜の切迫感が、(サトエリのあんまりよくない演技を差し引くとしても)なんともよかった。
文=ターHELL穴トミヤ
『その街のこども 劇場版』
2011年1月15日 東京都写真美術館ホール、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー
関連リンク
映画『その街のこども 劇場版』公式サイト
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