WEB SNIPER Cinema Review!!
孤高のハンターの生き様が胸を打つ、魂のスペクタクル!!
フリーランスの傭兵として世界を渡り歩いてきたマーティンはバイオ・テクノロジー企業からの依頼を受け、絶滅したとされる野生動物・タスマニアタイガーを捕獲すべく原生林に分け入っていく。ベースキャンプとなる地で暮らしていた母子との交流を経て、孤高の人生を貫いてきたマーティンは少しずつ自身の生き方を見詰め直していくのだったが……。オーストラリアの大自然を舞台に綴られる人間ドラマ!!全国公開中
軍事企業に密かに寄せられた、ある絶滅動物の目撃情報。その生体サンプルを入手すべく、彼らは1人のハンターに、「密猟」を依頼する。その標的は……、タスマニアタイガー!!と聞くとなんかトホホ感が漂うが(タスマニアタイガーって響きがアホっぽいし)、本作の製作は最近、注目されているオーストラリアの独立系プロダクション『ポーチライト・フィルムズ』。同じくこの会社が製作した『アニマル・キングダム』の出来きが非常によかったのもあり、「もしや!? でも、タスマニアタイガーだし……」とドキドキしながら行くと、これがまたもや激シブ! 『ポーチライト・フィルムズ』とオーストラリア映画の勢いを感じさせる一本となっていた。
全編オール、タスマニア島ロケで製作された本作は、かなりシリアスなネイチャー&サスペンスもの。映画の基本は「自然」で、そこでの心地いい孤独感こそ最大の見所だ。寡黙な密猟者はウィリアム・デフォーが演じている。
知恵と道具に守られた彼は、森の中でiPodを聴き、ライフルを組み立て、木をしならせて即席のワナを作る。移動しながら吸うたばこはうまそうで、雨の中ワナをしかける素手はかじかみ、その後のたき火にはホッとする。道具を知り尽くした彼の動きは気持ちよく、寡黙なデフォーがひたすら仕事を進める姿には、不肖ターHELL思わず萌えてしまった。
デフォーは身分を大学教授と偽ってタスマニア島に来ているのだが、この暗い男の逗留する先が、元ヒッピーの環境保全活動家のロッジというのがまたおもしろい。このロッジの子供たちとの交流が、やがてデフォー自身を変えていくのだ。
実はこの家庭の父親はもう数カ月前から森で行方不明になっている。母親はショックで寝たきりだし、下の男の子は言葉を喋らない。この父親は「ブルース・スプリングスティーン」ファンという設定からしていかにもヒッピーなのだが、庭の木にはスピーカーを取り付け、夢は自宅でウッドストックというから、かなりのベタっぷりだ。不在中ながらも、ヒッピーノリは2人の子供たちに受け継がれていて、彼らは名前が日替わりだったり(自分で決める)、「お湯がもったいないから」と風呂に入っているデフォーのところに飛び込んで来たり、エキセントリックな行動でデフォーに新しい息吹を与えていく。
一方、地元の林業で生計を立てている人間たちは環境保全家連中を嫌っていて、デフォーも散々嫌がらせに遭い、さらに森の中では何が起きるか分からないという不穏な空気が漂う。
印象に残っているのは、数カ月ぶりにロッジに電気が復活するシーンだ。ここを境に沈んでいた一家は再生へと向かうのだが、とにかくこのシーンの幸福感は尋常じゃない。発電機が直ると、その瞬間ロッジ中のランプがつき、木に巻き付けた色とりどりの豆電球が点滅し、回りかけだったレコードは再び回転を始め、家中に大音量でブルース・スプリングスティーンの曲(「I'm on fire」)が流れて、病に伏せた母親が庭に走り出していくと、そこではデフォーと子供たちが戯れ踊っている……。電力会社のCMか!と思わず突っ込みたくなるほどの電気讃歌になっているのだが、やはり電気こそ文明生活の基本なのだと考えずにはいられない、そんなシーンになっていた。
ちなみにここで受話器を取り上げ、電話が通じているのを確認した時に見せるデフォーの表情は、全編を通じて最もうれしそう。ここも不肖ターHELL思わず萌えてしまった瞬間だった。
父親を失ったヒッピー一家の再生、そして一人黙々と森で追い求めるタスマニアタイガー。物語が進むうち、いつしかデフォーも観客も、背景であるはずの自然と一体になっていく。やがて当初の設定すら忘れそうになるのだが、そんな頃に再び軍事企業という最もどす黒い都市文明からの声が侵入してくる、その侵入の仕方でも本作はサスペンスとして良く出来ていた。
文明のただ中からタスマニア最後の秘宝を奪いに行くが、いつしか島に癒され、一体化している自分に気づく。そんな本作のデフォーを観ていると、どうしてもオーストラリア自体の歴史を連想せずにいられない。18世紀、主にスコットランドから入植した人間たちによって建国されたのが、現在のオーストラリアだ。その課程で膨大な数の原住民たちが、入植者の手によって虐殺された。
実は本作に出てくる子供たち、とくに一言も喋らない下の子は原住民の代わりとして登場しているようにも見える。名前が固定せず、ある時は女の子、ある時は木の名前になる彼は精霊信仰的だし、一言も喋らないというのは、つまり英語を喋らない人間ということだ。彼はタスマニアに詳しく、それをデフォーに伝える絵はまるで「壁画」のようにも見える。
収奪者が自分を癒してくれたタスマニア島を愛してしまったとき、目の前の島と、後ろに控える都市文明の力学との間でどう落とし前をつけるのか。「デフォー、タスマニア、子供」という本作の3つの要素を「入植者、オーストラリア、アボリジニ」に置き換えてみると、この映画のエンディングはそのまま、オーストラリア人の自分たちへのメッセージにもなっている。その点本作は、『アニマル・キングダム』に出て来たオーストラリア人のおおざっぱさともまた違った、彼らの葛藤をうかがい知れる作品になっていた。
文=ターHELL穴トミヤ
最後の標的。男は、何に照準を合わせたのか――
FLV形式 4.85MB 1分57秒
『ハンター』
全国公開中
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映画『ハンター』公式サイト
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