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WEB SNIPER Cinema Review!!
ヤスミナ・レザ原作の大ヒットコメディ戯曲をロマン・ポランスキー監督が映画化!!
子ども同士のケンカを解決するために顔を合わせた2組の夫婦が話し合いを始めると、最初のうちは理性的に進められていた話し合いが徐々にヒートアップ。時間が経つほどに各人の本音が剥き出しになり、やがてそれぞれの夫婦間まで亀裂が……。出演者は4人のみ。演技派たちが繰り広げる修羅場の生々しい味とは!?

TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
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名匠、ポランスキーのこんどの掌編、元となったヤスミナ・レザの舞台劇の英題は「God of Carnage」だ。直訳すると「虐殺の神」となりおだやかでないが、これは本作に登場する、製薬会社付き弁護士が信じる神の名前でもある。
登場するのは2組の夫婦。それぞれを、ジョン・C・ライリーにジョディー・フォスター、クリストフ・ヴァルツにケイト・ウィンスレットの、アカデミー賞ノミネート&受賞俳優が演じている。映画は、実際に経過するのと同じ時間の中に組み立てられ、始めと終わり以外はBGMも一切なし。いわばカット割りされた演劇とでもいうべき方法で撮影された。
アパートで始まった紳士的な話し合いは、いかにして、誰もがわめき散らし、画集はゲロまみれという修羅場まで到達するのか。本作の見どころはそこに至るまでの、人間関係のジェットコースターだ。男女論、社会正義論、子育て論とめまぐるしく内容と相手を変えながら、手を替え品を替えおとなのけんかが繰り出される。



オープニングに映っているのは公園と、その隅で遊んでいる子供たち。スティーブ・ライヒのような伴奏とともに、そこに白抜きの文字が浮かんでは消えていくだけで、「しゃれた映画、観に来ちゃったな〜」という気分になる。やがて「事件」が起きて、次に映るのはパソコンを前にした4人の大人たちだ。
「『口論になり、棒で武装したザッカリーは我々の息子イーサンを殴打、結果歯が2本折れた』これでいいかしら?」「『武装』と言うのはどうかな?」「そうね、じゃあ『武装』ではなく、『手に持った』で……」という、初っ端のやり取りからもう笑えるのだが、ここではまだどちらも「おとなの対応」。もちろんことは荒立てないし、相手を最大限に尊重するというポーズも崩さない。これがどう崩れていくのか……。というのが本作の楽しみなわけだが、話はみるみるうちにまとまり、加害者側の夫婦は玄関へ。おいおい、帰ったら終わっちゃうじゃん!と不安になったところで、1回目の携帯コールがやってくる。


本作でもっとも笑えるのが、この加害者の父親が持っている「携帯電話」だ。全編を通じてこの携帯は絶妙のタイミングで会話をぶちこわし続け、そのたびに残りの3人は宙ぶらりんになり、気まずい時間をすごすことになる。
このセルフォン男を演じるのはクリストフ・ヴァルツ。『イングロリアス・バスターズ』で、抜群にいやらしいナチの高官を演じていた彼だが、今回も大企業の弁護士として「礼儀正しさの奥に、誰もが不快になる下品さと横暴さが透けて見える」という、あのキャラクターそのままの役を演じている。
携帯は彼のナチ・モードのスイッチになっていて、その呼び出しに応えたとたん(そして彼は100%呼び出しに応える)客観性が消失! おもむろに棚に座って貧乏揺すりを始めたり、他人への共感性の欠けた話を大声で始めたりして、周りの人間を不快の渦に巻きこむのだ。
さらに今回は、『イングロリアス〜』でのベスト演技だった「観ているだけでイライラしてくる、食事シーン」も再登場。手作りパイを半端じゃない心なさで完食し、「神経を逆撫でする食い方俳優」としての地位を、ますます揺るぎないものにしていた。

「God of Carnage」は「修羅場の創造者」として登場人物たちを翻弄し、誰もが抑えていた破壊衝動や、無関心、傲慢さを爆発させていく。「けんか」はその都度、「妻軍団 vs 夫軍団」や、「国際問題への関心が高い人間 vs 一般市民」、さらには「企業の論理 vs 個人」などと新しい組み合わせで誕生し、そのたびに「このハムスター殺し!」とか、「そのスーダンへの薄っぺらい同情心を勝手に発揮していればいいさ!」などの味わい深い台詞が引き出される。



本作、やっぱり最高なのはクリストフ・ヴァルツなのだが、その妻役として、PTAファッションのままゲロを炸裂させるケイト・ウィンスレットもなかなか。ジョディー・フォスターの自称「進歩派」の俗物インテリ感もリアルで、彼女が限界に達して怒鳴りちらす姿には、観ているこちらもぐったりする。その夫のジョン・C・ライリーの保守派中年男性っぷりには「『テネイシャスD』や『俺たちステップブラザース-義兄弟-』でロックマニアのニートをやっていたお前が、大人どころか、保守バリバリの中年男になるなんて……」とショックを受けてしまった。

映画の舞台として設定されているのはNY。監督がアメリカに入国できないため、撮影はすべてパリの郊外で行なわれた。セットは家具をはじめ、食べもの、棚の上の小物に至るまで、全てNY(とくにブルックリン)から実際に運び込まれたものなのだという。
ということは、本作の舞台は監督の元に取り寄せられた、アメリカの箱庭でもあるのだ。彼とアメリカとの関係を考えると、そこにはなにか特別な動機があったのでは?という勘ぐりも湧いてくる。本作の登場人物でポランスキー監督が、もっとも感情移入しているのは誰なのか? 深読みしてみると、案外、枝で相手を殴りつけた最初の少年なのだという気がするのだが、さてみなさんの意見はいかがだろうか。

文=ターHELL穴トミヤ

子供のケンカに親が出て――
冷静に対応するはずが思わぬ舌戦が勃発!!


FLV形式 5.00MB 2分06秒

『おとなのけんか』
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

原題= Carnage
監督= ロマン・ポランスキー
出演= ジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴォルツ、ジョン・C・ライリー

配給= ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


2011|フランス・ドイツ・ポーランド合作映画|79分|カラー|シネマスコープ

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映画『おとなのけんか』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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