2010.08.29.Sun.at Tokyo Big Sight.
東京ビッグサイト西2ホール
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プロ・アマを問わないマンガ作家・イラストレーターたちが、自主出版した本・作品を発表・販売する展示即売会=コミティア。そこは作家たちが自分の個性を自由に発揮できる場であり、訪問者にとっては未知の表現に出会えるかも知れない宝の島――。 夏の盛りに開催された先日の「COMITIA93」。参加した方々は何を求めて会場へ足を運び、どんな収穫を得ていたのでしょうか。エヴァンゲリオン研究家の四日市氏にインタビュー取材をしてもらいました!!
自主制作による創作漫画誌の即売会、コミティア。もはや説明するまでもない気配も感じるが、年に4回、東京国際展示場にて催されるコミティアは「いわゆる同人誌」と言われて思い浮かぶであろうアニメや漫画のパロディでなく、創作に限定された同人誌即売会だ。参加者はプロからアマチュアまで幅広く、各々がプロアマという立場から離れたフラットな位置から創作の愉しみを見出している。
さて今回のコミティアは普段であれば夏コミの直後と言うこともあり落ち着き気味の空気を見せているのだが、予想に反して開場前の行列はを場外に連なるほどの大盛況だった。昨今、電子書籍と並行して小規模な自費出版、自主流通が盛り上がりを見せているが、この盛況はそのなによりの証拠といえるだろう。
コミティアの参加者には二種類ある。同人誌を製作、頒布するサークル参加者と、それらの頒布物を閲覧、購読する一般参加者である。今回はコミティア93に訪れた一般参加者の方々に、彼らの見出したコミティアの楽しみ方、本の選び方を訊ねてみた。
■とある10代の女性参加者
――簡単な自己紹介からどうぞ。
17歳、女性。学生です。同人誌はあんまり買いません。漫画はけっこう読むと思う。好きな漫画は、今は『惑星のさみだれ』。コミケにはたまに行くけど、売り子ばかりで買い物をすることはあまりないかな。コミティアに来るのは初めてです。友達がサークルとして参加していたのと、一緒に行こうって誘ってくれるひとがいたので。
――はじめてのコミティアはどうでした?
楽しかったー! コミケみたいに殺伐としてなくて、大きなオフ会みたいで楽しかったです。コミケだとみんな本気でぼーっとできないけど、コミティアはなんか、みんな優しかったです(笑)。
――サークルチェックはしましたか?
サークル参加している友達を中心にちょっとだけ。もうちょっとちゃんとしておけばよかったかな、って思いました。でも友達と一緒にいって「あそこよかったよー」とか勧めたり勧められたりするのがいいかも。
□書名=K2G
□作者=不明
□サークル名=かりんとうフェア ――いきなり……。
絵がなんか、知ってる人かなって思って。
――初めてで大物(※1)を釣り上げましたね 。
びっくりした。内容は……「ケツ毛」について真面目に話してるだけなんだけど、論点がそもそもズレてるって感じ。割とシュールな漫画が好きで普段から読むけどツボでしたー。
□書名=海へ行くくつもりじゃなかった
□作者=高野雀+タミヤ
□サークル名=Chapter22+メスカルボタン 友達に教えてもらいました。きれいな表紙。
――両面表紙になっていて、男性視点と女性視点の二つが収録されている本。
こういうの好きです。日常ちっくで。
――ちなみにこのタイトルは聞いたことある?
はい?
――フリッパーズ・ギターっていうバンドのアルバムタイトルなんですよ。って、ああ、あなたこのアルバムと同い年か! じゃあ、ナンバガわかる? ナンバーガール。作中の登場する猫町って地名はそのバンドの歌詞に登場する地名で(以下略)
□書名=SoftEdger2010
□作者=はしもとしん
□サークル名=プロペラ 「Underground Connection」っていうクラブイベントのフライヤーでイラストを見かけて気になってた作家さん。漫画とかは入ってなくてイラスト集みたいな感じ。幼女かわいい。
□書名=高木さんトリビュート
□作者=TNSK、他多数
□サークル名=壁の彩度 ――TNSKさんのオリジナル・キャラクター「高木さん」を多数の作家でトリビュートしている合同誌ですね。
そうなんですか? 友達に勧められて買いました。イラスト本なんですけど、ukiさん、西島大介さん、見富拓哉さんとか好きな作家さんがたくさん参加しててよかった。セットで買ったからすごく大きいんだけど、小さいほうでもよかったかなー。
――「壁の彩度」は企画・編集者、デザイナー、イラストレーターがそれぞれ独立している編集プロダクションに近い形のサークルでいつも商業に劣らないクオリティの本を出していますね。
高木さんかわいー。
■とある20代の男性参加者(サークル活動なし)
――簡単な自己紹介からどうぞ。
27歳、男。ソフトウェアエンジニアをしています。同人誌は割と買います。最近は「東方Project」と「ローゼンメイデン」の二次創作ギャグ漫画を主に買っています。あとはコミティアを回って面白そうなオリジナルがあれば買います。反面、商業漫画は全く買わなくなりました。友人に借りるか、漫画喫茶か、雑誌の立ち読みだけです。読んでる量自体は多分、年間平均で1000冊ぐらいでしょうか。毎月どこかしらの即売会に通っていますね。
――即売会に通い始めたのは、いつ頃からですか。
5年くらい前からですね。昔に漫画を年間1000冊ぐらい買って家が崩壊しかけて、その後、上京する際にほとんど処分して、しばらく冷却期間を置いてから同人誌を買うようになりました。はじめは二次創作に興味がなかったので、コミティアとコミケで創作漫画を探していました。コミティアに通いだしたきっかけは、イラストサイトの巡回はある程度の規模でやっていて、コミティアで作品を頒布しているという情報をよく見掛けていて、漫画を買わなくなって久しいしちょっと見てみるか、という感じですね。最近は全く巡回しなくなって pixiv に引きこもっています。
――サークルチェックはどのようにしていますか?
ティアズマガジンですでに知っている作家のサークルと、気に入った絵柄の作家を抽出します。優先度の高いサークルを先に周り、全てのサークルを回りながら見るという感じですね。後は見本誌をざっと見るくらい。
――今回のコミティアはどうでしたか?
用事があったためかなり駆け足で回ってしまい、重要なサークルをいくつも見落としてしまい最悪でしたね。会場の雰囲気は余裕がなくてあまり覚えていませんが、コミケ直後ということもあり落ち着いていたんじゃないかと思いますね。
□書名=開催に寄せて
□作者=不明
□サークル名=一輪社 知人のサークルです。普段から言動が周囲の想像の斜め上をいく人ですが今回も素晴らしい支離滅裂ぶりで、たとえば植田まさしの漫画の顔を全て塗り潰しただけのページや、新聞の広告部分を破ってクシャクシャにしただけのページがあります。いつもは「超新刊」という、その場で絵の具のチューブから直接着色したり蛍光ペンを走らせたりしただけの絵を、その場で適当に選んでホッチキスで止める、という作品を出しているのですが、今回はありませんでした。残念です。
□書名=マリモスローイング
□作者=随時
□サークル名=魚群 以前にとあるイベントの会場で絵を描いていて知った作家です。絵は「これ以上手を抜くことはできない」というぐらいのものなのですが、そこに希少な独自性があって好きです。本の内容は死んでしまった妹がマリモになったと主張する男の話です。いつも淡々とした漫画を書くのですが、毎度適切なテンポで雰囲気を作り出すのが非常に上手いと思います。
□書名=ラストサマー
□作者=遠藤
□サークル名=親戚一同 いつもコミティアなどの即売会でシュールな絵をポストカードやステッカーにして頒布しているサークルで、以前から知っていたので見に行ったところ、コピー本が売られていたので買いました。もともとの表紙には黒い枠しか描かれていません。本を買おうとしたら「この枠の中に何か描きますが何がいいですか」と言われ、適当にお願いしたらこうなりました。100 円のコピー誌でこれでは採算が合わないどころではないと思うのですが、大丈夫なのでしょうか。内容はシュールを通り越して意味不明の域に達しており、個人的な趣味に非常に合致する素晴らしい作品でした。
■とある20代の男性参加者(サークル活動あり)
――年齢と性別は?
25歳、男性。フリーターです。同人誌は割と普段から買ってます。即売会でもショップでも、面白そうな物があれば。即売会には月1程度で参加してます。 漫画も買いますが、量は同人誌より少なめです。犬上すくねの「恋愛ディストーション」とか、二宮ひかるの「ハネムーンサラダ」なんかが好みです。雑誌はほとんど買いませんね。はじめてコミティアに行ったのは7、8年前。通っていたわけでもなくて、今回で10回目前後です。最近は定期的に来ています。
――定期的に来るようになったのはなぜ?
とあるジャンルで活動してる幾つかのサークルさんがコミティアでオリジナルも発表するようになって、その影響である程度行く頻度が増え、気付けばほぼ毎回行くようになりました。今では純粋に創作ジャンルの面白さを味わうために通っています。
――今回のコミティアはどうでしたか?
イラスト系が若干多かった印象があります。pixivの影響もあるかもしれませんが、デジタル・アナログとバランスよく揃っている印象です。
□書名=蟷螂
□作者=キツネ
□サークル名=カゼノウタ 昆虫の擬人化漫画。pixivで公開されているサンプルを読んで買うしかないな、と思いました。
――チェックにpixivは基本ですか。
そうですね。サンプルを公開してくれている作家さんが多いので、サークルチェックの機能としても重宝しています。
□書名=俺の桃ラー
□作者=加藤アカツキ
□サークル名=残像アパートメント タイトルの通り、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」を題材にした合同誌です。会場でふと見かけて、面白そうな企画だなと思って購入しました。
――すごい表紙ですね。
基本はイラスト集なんですが、デザインもしっかりしていて。食べるラー油食べ比べレビューやコラム、さらには桃ラーを使った料理のレシピなど内容も充実していました。
■とある30代の男性参加者
39歳。男性。自営業。同人誌はオタクの中でも比較的買うほうだと思います。ジャンルは男性向け二次創作がメイン。他にはギャグとか。ジャンルではなくサークル中心に買っています。商業漫画も一日一冊ペースで買ってます。漫画雑誌は昔からほとんど買ってません。同人誌即売会には月に一度のペースで通っています。初めてコミケに行ったのがC32(1987年12月)ですね。TRC(図書館流通センター)での開催で、雪がちょっと積もってた。以降レギュラー開催のコミケは1989年の春コミ以外は皆勤です。
――古強者ですね……ではコミティアもかなり初期から?
コミティアは遅くて、多分26(1993年)が最初かな? 当時はパロディを中心に買っていた頃なのでアンテナに掛かっていませんでした。カタログの表紙イラストを当時好きだった「ヌクレオチドファクトリー」の所沢わるつさんが描いてたので、足を運んでみる気になりました。当時は規模小さかったし、「創作至上主義」的な臭いが感じられて、ちょっと苦手な空気でしたね。ちょうどその頃、男女を巻き込んだ「美少女戦士セーラームーン」の大ブームが起きていた頃なので余計に、だったかもしれません。だから、しばらくは毎回行くのではなく、年に1回行くか行かないかぐらいのペースで足を運んでました。
――コミティアに毎回通うようになったのは?
わりと最近です。ビッグサイトに定着してから。2000年以降かな? コミティアの規模が大きくなるにつれ、たとえば「bolze.」や「Digital Lover」とか、メインがエロパロの男性向けサークルの参加も増えて、昔のティアとは雰囲気が変わったと思います。もともと追いかけてたサークルさんの参加が増えたのと、コミティアで知って好きになったサークルが増えてきて、欠かさず通うようになりました。
――ティアの周り方を教えてください。
ごく平凡に、カタログとネットですね。ただ初めてチェックするサークルは必ず現地で本を確認するようにしています。なんとなくですが、ティアに参加してるサークルはネットの情報だけでは判断出来ない要素が多いような気がします。本のデザインや形状とか凝ってるものが多いですし。ですから、ざっとではありますが、フロアの端から端まで練り歩き、全サークルをチェックするよう心がけてます。カタログチェックだけではフォローしきれなかったサークルとの出会いもあるし、見目麗しい装丁の本とかが多いので、眺めているだけでも楽しいです。
□書名=博士と助手
□作者=位置原光Z
□サークル名=大作戦 博士と助手の屈折したラブコメなんですが、一筋縄ではいかない展開やテキストのセンス、トーンを使わず細部に至るまで描きこみまくる画法などなど、強いこだわりが感じられる作風です。
――今回は、コピー誌なのに袋とじがついていましたね(笑)
そう、しかもここだけ成人向。清く正しい袋とじ(笑)。内容だけでなく、パッケージにもこだわった本が多いのがコミティアの特徴の一つであり、魅力だと思います。
□書名=リョナカフェ 2
□作者=JACKASSS
□サークル名=空は血みどろ 一見ほのぼのとしたメイド喫茶モノと思いきや、その実は地下武闘会系リョナ(※2)作品だったという意外な作品。しかも、メインの女性陣は全員マッチョという、なかなかにニッチなテイストが詰め込まれた一冊。このサークルは事前にチェックしておらず、裏表紙のイラスト・ポップがたまたま目に留まり一発で虜になりました。ゴツゴツとして痛みと重みが伝わる格闘描写や、筋肉の描き方などに情念が感じられ、作者の偏愛っぷりが隅々から滲み出ているところが素晴らしい。色々バランスが悪かったり拙かったりはするものの、こういった作者の趣味嗜好をダイレクトに形にした作品と出会えるのはとても楽しいです。
■それぞれの興味、それぞれの愉しみ
創作に見出す愉しみが個々それぞれ違うように、個人の創作活動やその場所を楽しむ人々も多種多様である。重要なのは、誰もがそれぞれ自分の興味から出発して、行動し、自分自身の価値軸を見つけ出しているということだ。寺山修司ではないが、インターネットの外へ、街へ繰り出してみてはどうだろう。そこでしか収集・拡張することのできない、あなたの興味がきっとあるはずだ。
取材・文=四日市
【注釈】
※註1 大物
(たぶん)とある商業作家の変名参加。
※2 リョナ
猟奇オナニーの略。女性の苦痛に歪む声、表情で行なうオナニーがそう呼ばれていた。 転じて、猟奇的なアダルト表現などをこう呼ぶがスラングなので厳密な定義はない。
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