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都条例改正案についての緊急告知!
18歳未満に見えればアニメやマンガのキャラクターでさえも「非実在青少年」として、性的表現の規制対象とする東京都の青少年育成条例改正案が都議会へ提出されたことをご存知でしょうか。既存のコミックやアニメはもちろん二次創作の同人活動や、二次元か三次元かは言うに及ばず、画像かテキストかも問わずにすべてが規制の対象とされる可能性があります。ちょっと聞いただけではわかりにくいこの問題ですが、一体何が行なわれようとしているのでしょうか。永山薫さんにご紹介いただきます。
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■はたして改正は必要なのか?

平成22年3月14日現在、東京都議会に提出されている「東京都青少年の健全な育成に関する条例」(以下・青少年条例と略す)の改正案がネットを中心に大きな反発を巻き起こしている。

改正案の焦点は、ケータイを中心とするネット関連規制と創作物にまで踏み込んだ表現規制の二点。前者について本稿では省略するが、そっちはそっちでツッコミどころ満載なので読者諸賢は、ITmediaNewsの記事、都が「青少年ケータイ」推奨・フィルタリング強化 青少年育成条例改正案 - ITmedia Newsあたりから確認していただきたい。

さて、表現規制である。こちらもようやく報道が重い腰を上げ初めたので、まずは、以下の記事を参照して欲しい。

漫画・アニメの「非実在青少年」も対象に 東京都の青少年育成条例改正案 - ITmedia News

マンガ・アニメの「ポルノ」 キャラクターが18歳未満に見えるとダメ - J-CASTニュース

いちいちリンクを辿るのがめんどくさい人のためにザックリと書いておこう。まず、創作物の登場人物(キャラクター)のうち18歳未満と判断できるものを「非実在青少年」とし、その「非実在青少年」の性行為または性行為と類似する行為の描写を規制しようというのが改正案の主旨である。要するにキャラクターがセックスしたり、性器をあれこれしたり、されたりしているという表現がまかりならんというわけだ。

現行の条例では規制対象は青少年にとって「有害」という括りだったが、今回の改正案では明確に創作物・表現規制に踏み込んだ表現になっているわけだ。これは憲法で保証された基本的人権である「表現の自由」を侵犯しかねない由々しき問題である……とまずは言っておこう。

しかし、事情通の方なら御存知のように、現行条例がすでに「指導」「自主規制団体への勧告」という形式を踏むことによって憲法違反を回避しつつ、事実上の事後検閲・発禁処分に近い制度として機能している。

この現状ですら微妙なのだが、出版及び出版流通・販売業界の努力(成年向け図書への成年マーク明示、書店における区分陳列、対面販売・年齢認証による販売といったゾーニング)によってある種の「秩序」が保たれていることも事実である。少なくとも筆者は、その「秩序」が崩壊しているという話は聞いたことがない。にもかかわらず、何故、屋上屋を架すような改正案を出してきたのだろうか?

論理的に考えれば、都自身が「都の指導努力も業界の自主規制努力も足りませんでした」と判断したという言明と受け止めるしかない。共同通信配信のニュースによれば、都側はこう言っている。

都によると、「野放し状態」となっている漫画やアニメの児童ポルノ的な描写を規制するのが目的で、全国でも初めての試みという

「野放し」になっているという実感は専門家である筆者にはない。都が指摘する「漫画やアニメの児童ポルノ的な描写」が幼女がレイプされたりするような過激なロリコン漫画における描写だとすれば、そうした図書にはすでに成年マークがつけられ、区分陳列がなされている。となると、都の想定する「漫画やアニメの児童ポルノ的な描写」なるものは、よほど広義のものであろうと推測するしかない。そもそも都は「児童ポルノ」というものをどう認識し、定義しているのであろうか?

■児童ポルノ法改正へのステップ

現行法における児童ポルノの定義自体、恣意的な拡大解釈が可能であり、本来の同法の目的である実在児童の保護から逸脱しかねないという問題点を抱えている。昨年、国会で論議となった児童ポルノ法改正案(自公による当時の与党案)は、この問題点を解消するどころか、単純所持禁止と漫画・アニメ規制への検討を含んでいたため、当時の野党(民主・社民)と激論になったことは記憶に新しい。都条例改正案は国政レベルで論議中の「児童ポルノ」よりも先駆け、さらに広い定義で規制を行おうとしている。
改正案の第三章の三は「児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成及び環境の整備」を謳い、都民の責務(義務ではない)まで定めているのだから驚かされる。

(児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた都民等の責務)
第十八条の六の四 何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する。
2 都民は、都が実施する児童ポルノの根絶に関する施策に協力するように努めるものとする。
3 都民は、青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて理解を深め、青少年性的視覚描写物が青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するおそれがあることに留意し、青少年が容易にこれを閲覧又は観覧することのないように努めるものとする。


先に述べたように現行法の児童ポルノの定義自体が論議の対象になっている。単純所持規制についても冤罪の可能性があり、論議中だ。論議が定まる前に「都民等の責務」を定めるのは無茶である。文句を言わず従えというのだろうか? それでは思想統制と変わらない。

ただ、この改正案には罰則規定はない。また、都側も議会答弁で、これまで通りの慎重な運用を言明しているため、実効性はさほど大きくはないだろうという観測もある。先述の如く、規制されるべきは規制されていることと併せて考えれば、そうかもしれない。ただ、確実に公権力は拡大する。しかし、それよりも大きいのは、コンテンツ文化創造と流通の中心地である東京都の方針が全国的に波及するという点と、国政における児童ポルノ法改正、それも自公案への大きな後押しになるという点だ。

筆者は都青少年協議会後の記者レクチャーで、櫻井青少年課長に「ネット上で児童ポルノが氾濫している」と言明しうる根拠を訊ねたが、統計的な裏付けは得られなかった。もちろんネット上で取引が行なわれたという事例を否定するものではない。ただ、「ある」と「蔓延」では桁が違う。共同通信の記事にある「野放し」同様に言葉のみが一人歩きしているのではないか?

都条例改正案も児童ポルノ法改正案も、実在児童の人権、被害児童の救済という焦眉の急である問題が常に表現規制と抱き合わせで出てくるのは何故だろうか? 実在の児童を救済する、ケアすることに特化すれば、もっと摩擦なしに改正できると思うのだが。

■負の経済効果

表現の自由、基本的人権という意味でも由々しき問題だが、これはすでにネット上で多くの人々の知見に触れることができるから、これ以上は書かない。

筆者が憂慮しているのは、この都条例改正案が成立した場合、学術と産業にも多大なる影響が出るのではないかということだ。

学術についてはすでに京都精華大学マンガ学部と国際マンガ研究センターが「より慎重かつ開かれた議論の場」を求める声明を出しており、他の大学でも同様の動きが見られる。

それ以上に大きく影響しそうなのが漫画・アニメ・ゲームを含む出版、放送、流通、販売までを含むコンテンツ産業界全般への影響である。たとえ改正による実効性が低くても、創作から消費活動に至る、あらゆる側面で自主規制・萎縮を呼ぶことになりかねない。事実、児童ポルノ法成立時には過剰反応を起こした一部書店が、性的表現を含む漫画単行本を書棚から撤去するという「事件」さえ起きている。

東京はコンテンツ産業の集約地であり、コンテンツ産業従事者人口も巨大であることはいうまでもないことだろう。コンテンツ産業界の萎縮は、個人事業者である漫画家、中小零細事業社の多い出版及びアニメ業界では失業、失職、倒産に直結する。雇用問題・経済問題に波及する可能性も考えに入れて欲しい。つまり負の経済効果ということである。

これは国を挙げてのコンテンツ産業振興策に水をさすことになるし、東京都自体の進める振興策(東京で開催される国際アニメフェア実行委員会の委員長は石原都知事である)の足を引っ張ることになりかねない。

■様々な誤解と混乱

都条例改正案については、ネット上で多くの人々が言及している。そのほとんどが真摯な内容だが、中には誤解している記述もある。これは改正案が読みにくいなどの理由もあり、一概に非難はできない。ただ、誤解の多くは一次資料をきちんと読み込めば、ある程度は回避できるはずだ。

例えば「二次創作は規制の対象外」「規制されるのは商業のみ」という誤解。確かに条例改正案の実効性ということを考えると、そういう希望的観測を持っても不思議ではないが、改正案を読む限り、同人は除外とはどこにも書いていない。オリジナルだろうが二次創作だろうが、都の基準に照らしてアウトならばアウトになってしまう。

この「二次創作は対象外」説が「二次は大丈夫」のように省略した表現で伝わり、「二次元は大丈夫」という形で受け取っている人もいるようだ。この背景には現行の児童ポルノ法では創作物(漫画・アニメ)が規制対象になっていないため、そちらと混同しているのかもしれない。

とはいえ筆者自身も、そう偉そうなことは言えない。それは何が規制の対象になるのか? という点で、ついつい「漫画とアニメ限定」と思い込んでしまっていたからだ。都庁側が漫画・アニメの規制強化を意図していることは間違いない。しかし、条文と改正案を読めば、視覚的な表現物について明文化されてはいるとはいえ、「図書」という基本的な括りが最初から存在する。少なくとも現行条例では鶴見済の『完全自殺マニュアル』が都の有害指定寸前までいったという歴史もある(他の自治体では有害指定したところもある)。つまり、ややこしい話だが「非実在青少年」が視覚表現限定かどうかは別として「テキスト」でも、都の判断次第では今後も規制の対象になるわけなので、小説家のみなさんも、考えた方がいいと思いますよ。

■今後の展開
3月15日には条例改正案に反対または慎重な論議を求める団体と個人が民主党のヒアリングに参加し、その後、記者会見、集会が行なわれる。これによって少しでも良い方向に向かってくれればいいのだが、全く予断を許さない状況だ。その後のスケジュールでは3月18日の都議会総務委員会で審議され、19日には委員会採決、30日に本会議採決ということになっている。

反対するにせよ、賛成するにせよ、慎重な論議を求めるにせよ、よくよく情報を吟味した上で行動に移して欲しい。ただ都民が声を上げる時間はあまりというかほとんど残っていない。
文=永山薫

関連リンク


番外その22:東京都青少年保護条例改正案全文の転載 - 無名の一知財政策ウォッチャーの独言


【重要】都条例「非実在青少年」の規制について - [mixi]藤本由香里の日記


2010-03-08 - 9月11日に生まれて(上記を転載した永山薫のブログ)


【表現規制反対!】東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案【問題多すぎ!】ver 3(シンプル・イズ・ベスト版) - 弁護士山口貴士大いに語る


「東京都青少年健全育成条例」の改定案について - 全国同人誌即売会連絡会


都条例「非実在青少年」規制問題について - たけくまメモ

メディア社会が拡がる中での青少年の健全育成について - 東京都青少年問題協議会の答申

永山薫 1954年大阪生まれ。近畿大学卒。80年代初期からライター、評論家、作家、編集者として活動。エロ系出版とのかかわりは、ビニ本のコピーや自販機雑誌の怪しい記事を書いたのが始まり。主な著書に長編評論『エロマンガスタディーズ』(イーストプレス)、昼間たかしとの共編著『マンガ論争勃発』『マンガ論争勃発2』(マイクロマガジン社)がある。
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10.03.14更新 | 特集記事  >  特集
文=永山薫 |