スナイパーアーカイブ・ギャラリー 1981年1月号【5】
法廷ドキュメント ベージュ色の襞の欲望 第三回 文=法野巌 イラスト=笹沼傑嗣 成男は些細な事で激情し、冷酷非情の行動をとった。 |
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懲役15年
成男が犯罪者としてデビューしたのは、彼が16歳の時である。この時より、彼の血に染まった経歴が開始される。
中学を卒業した成男は、父親と共に旅館の仕事に従事するようになった。人と交わるのが不得手な彼にとって、旅館の手伝いはまったく好都合な仕事であった。勿論、客に愛想良くすることは大切なことではあるが、黙って部屋の掃除、布団の上げ下げをしたからといって文句を言う客もいない。成男のような性格でも十分勤まる仕事であった。
7歳の少女・浦上恵子が成男と出会ってしまったことは、彼女にとって不運としか言いようがない。悪魔が仕組んだ邪悪ないたずらである。いや、悲劇である。
恵子は釣り好きの父親のお伴をして、成男の働く旅館に1時間程前着いたばかりであった。父親は、エサを入れるためのバケツを買ってくるといって恵子1人を部屋に残し、街へ出かけて行った。父親は恵子に、一緒に行くように声をかけたのであったが、彼女は歩き疲れたからここで待っていると部屋に残ったのである。
成男は玄関で恵子を見た時、背筋に電流が走ったように思った。恵子は7歳という年齢ではあったが、女の子のなまめかしさを既に持っていた。勿論、本人はまだ幼い子供であり、そんなことは意識もしていなかったが。
部屋にお茶の道具を持っていった時、成男は恵子を見て我を忘れた。彼女を強姦しようとしたのだった。
お盆をテーブルの上に置き、それからじっと自分を見る彼の目の光に、何か得体の知れない禍々しさを感じた恵子は思わず後に下がった。それが、彼の犯意の引き金になった。
「おい、お兄ちゃんの言うことを聞け」
「いやよ、いや」
7歳の女の子に何がわかるというのだろう。恵子は今、成男が何を考え、何をしようとしているのかさえまったく理解出来なかった。ただ、とても乱暴な人だ、いじわるをされる、といった直感はあった。「いや」と声を出した愛らしい無邪気な恵子の頬に成男の平手が飛んだ。恵子は、誰からもこんな仕打ちを受けたことはなかった。
「いやだ、おじさん、やめてよ」
成男はますます逆上した。急がないと、父親が帰ってくると面倒になる。
7歳の恵子は幼ない精一杯の抵抗を示した。それが故に、彼女は成男の手により扼殺された。
死んだ恵子の陰部には、男の精液が飛び散っていた。成男のものだった。扼殺した後成男は、恵子の下着を剥ぎ、凌辱に及んだのだった。
帰ってきた父親の通報により駆け着けた警察官によって成男は緊急逮捕された。
殺人・強姦の罪により、成男は懲役15年という驚くべき重刑を言い渡された。彼がまだ16歳の少年であることを考えれば、これは、大人であれば死刑に相当する刑であった。それほど、彼の犯行の印象は、裁判官にとって最悪のものであった。
何の罪もない幼い女の子の殺害。懲役15年も無理はなかった。余人には理解しがたいこの犯罪の動機も彼の性格を考えれば納得が行く。要するに、彼の喜びは自分よりも力の弱いもの、無力なものを徹底していじめることにあった。彼にあわれみを乞い、許しを願うその真剣で必死な目付き。それらを感じながら、無視して、なお一層加える暴行、凌辱の数々。勿論、彼の心情を理解出来るということと、許せるということは別問題である。彼の引きおこした犯罪はどのように抗弁しようと許すことは出来ないであろう。
(続く)
07.05.25更新 |
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