スナイパーアーカイブ・ギャラリー 1981年1月号【6】
法廷ドキュメント ベージュ色の襞の欲望 第四回 文=法野巌 イラスト=笹沼傑嗣 成男は些細な事で激情し、冷酷非情の行動をとった。 |
スナイパーアーカイブ、数回にわたって当時の人気連載記事、法廷ドキュメントをお届けいたします。
姦淫行為
15年の刑期を2年ほど残して彼は出所した。いわゆる仮出獄というものである。
残虐な犯行により収檻されていた成男も、厳しい監視体制の下にあっては、その異常な性格の爆発も流石に抑圧されていたのであろう。目立つ違反行為もないままに13年間が経過したのであった。これは、彼の犯した罪を考えれば信じられないことであるが、しかし、自分よりも弱いものを苛めることに喜びを感じる彼の性格からすれば、自分よりも弱そうな人間の見当たらない刑務所では腕の発揮のしようも無かったのだろう。
釈放された彼の住みついたところは山谷のドヤ街であった。
この街で彼は日雇い仕事をして金が入ると焼酎を飲み、無くなると又、街頭に立ち手配師の与える仕事をするという毎日を送っていた。
××警察署管内の交番に男が真っ青になって駈け込んで来たのは朝の8時頃であった。
「私の女房が殺されてます。すぐ来て下さい」
男は興奮のあまり息をとぎらせ、これだけ警官に告げるのがやっとのようであった。男の話を聞いた若い警官は殺人事件ということで男と一緒に現場に走って行った。
「ここです。この店の中です」
男が指をさしたのは、交番から100メートルほど離れた旅館や飲み屋などの密集する小便の臭いのたち込めた歓楽街の一画で、赤提燈の下がった飲み屋であった。
警官が店の中に入りまず目にしたのは、下着を何一つ身につけていない女の下半身だった。女の目は開かれたまま虚空を睨んでいた。喉には明らかに絞められた跡があった。男は、女の夫だと言った。女は飲み屋の女主人であり、一人で働いている。いつも夕方五時頃に家を出かけて、夜は午前1時頃戻ってくる。その日は、2時、3時になっても帰って来なかったので、不審に思い店まで足を運んだ。そして、殺されている妻を発見したのだった。
年は45歳。
早速現場検証が行なわれた。
そして事件は他殺、つまり殺人事件と断定された。
又、司法解剖の結果、胃内容物から殺された時間は午後12時から翌朝午前2時頃にかけてとされた。死体の陰阜、大腿内側部には、精液が付着していることも判明した。陰毛に付着した精液は乾燥していたが、酸性フォスファターゼ試験によりその存在が認められた。
姦淫行為、あるいは類似行為があったのは明らかであった。ただ、それが殺人者によるものなのか、又、事前なのか、死後に行なわれたものなのかはこの段階で明らかにするのは無理であった。
この飲み屋のおかみ殺人事件は、その後の調べでも目撃者も、又、2人の争っている場面の物音を聞いた人も見つからず、犯人の像を浮きぼりにすることは全く不可能であり、事件が発生してから3カ月も経過した頃には、捜査本部には、このまま迷宮入りになるのではないかとの不安が生じてきていた。
キャバレーホステス殺人事件が発生したのは丁度、この頃であった。
通報者は浅草の吉原近くにある連れ込み旅館の従貰員であった。
昨夜、男と一緒に泊った女性が刃物で体を切り則まれ、殺されているというのである。
知らせを受けた浅草警察署の係官が現場に急行した。事件慣れしているはずの捜査員もこの現場を見た時には思わず足が震えたという。
(続く)
07.05.27更新 |
WEBスナイパー
>
スナイパーアーカイヴス