法廷ドキュメント サタデー・ナイト・レイパー
過去のS&Mスナイパーからアーカイブでお届け、法廷ドキュメント第四波!
刻々と近づく魔の時間
三人は、軽口や冗談を言いかわしながら、英気の家へと歩いて行った。
英気は、現在、両親のいる家のすぐ近くにあるアパート(それは、親の建てたアパートだが)の一室で生活をしていると麻子と珠子に言った。
両親が老後のためにと、近くに持っていた約三〇坪ほどの土地の上に、アパートを建てた。
その一室を高校生の息子のために提供して、そこに住まわせているらしい。
食事や風呂の時は親の前で済ませて、それ以外はアパートにいる。
英気の住んでいるアパートは、外装だけはなかなか洒落た造りである。
部屋の中には一応バス・トイレの設備もあるが、しかし、トイレはとも角としても、バスは雑すぎてとても使えるシロモノではない。
せいぜい洗濯するのが精一杯といったところである。
家賃を高くするためにのみ備えつけたとしか考えられないバスである。
六畳間ほどの広さの部屋が襖を間に二つ並んだ配置となっていた。
奥の方の部屋にはまだ電気炬燵が置かれていた。
「さあ、どうぞどうぞ。逮慮は要らないよ。どうせ僕一人だからね」
英気にすすめられて麻子と珠子は、それでも、
「お邪魔します」
と言いながら元気よくスニーカーを脱いで部屋に上がって来た。
「へえー、ここが英気君の部屋か。案外片づいているのね。誰か女の人でも来て掃除してくれるのかな。そんなはずは無いよね」
軽口をたたくのは相変わらず珠子である。
英気は、二人をカーペットの上に坐らせて、冷蔵庫からコーラを持ってきてコップに注いでやったり、ピーナッツを出してやったりと、サーヴィスに勤めている。
おまけに吸い殻入れを持ってきて、マイルドセブンをプカプカやり始めた。
英気達のクラスの者、というよりは、彼らが通っている高校の大部分の男子生徒は、その本数はともあれ喫煙の習慣を持っている。
未成年者は禁酒、禁煙などという法律は今や、売春防止法以上のザル法と化しているのである、学校の教師達も、一応校内での喫煙を禁止し、喫煙者を発見した場合には、厳重に注意し、親にもその旨の連絡などはしているが、この程度の制裁では、何か突拍子も無いことをやって周囲の者をびっくりさせたいとそれだけを考えている、エネルギーに満ちあふれている若者を抑えることは不可能である。
英気も例に漏れず、高校一年の春から喫煙を始め、今では一端のヘビー・スモーカーとなっている。
廊下などて故意に目立つようにタバコを吸っている男の子を、女生徒が「カッコいい」などと言う風潮の下で、先生の言いつけを良く守りなどという期待される人間像を彷沸とさせる男子生徒は、この高校では全くモテないのである。
不良っぽい男の子、あるいは本当の不良生徒の方がモテてしまうのである。
勉強もあまり好きでなく、その結果成績の悪い、あるいは因果関係はその逆かも知れないが、女の子にだけはどんなことをしてもモテたいと考えている英気としては、だから、本当は気が弱いくせに、一端の不良ぶったカッコウをとらざるを得ないのである。
そんな英気を見慣れているから、目の前で今、彼がタバコを吸りていても、二人は少しも驚かない。
三〇分ほどクラスメートの噂や、教師の品定めをしていた三人の耳許に電話のベルが響いてきた。
「あら電話よ」
英気が受話器を取る。
「ああ、来ているよ。うん。そう。大丈夫。ああ。それじゃね」
「誰よ。来ているって私たちのこと? 誰かな、吾郎君じゃない?」
「あたり、正解! 彼今、ここに来るってさ」
「あら、私たちの来ること連絡しといたの?」
「ああ。いいだろう」
吾郎――野平吾郎は彼らのクラスメートの一人である。
英気の遊び友達である。
二人が仲がいいのを麻子と珠子は知っているから、吾郎がここに遊びに来ると言っても、別段不審に思わなかった。
こうして、麻子と珠子にとっては魔の時間が刻々と近づいてくる。
法廷ドキュメント サタデー・ナイト・レイパー 第三回 文=法野巌 イラスト=笹沼傑嗣 性の快楽だけを求める男子高校生とその兄の犯した罪。 |
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刻々と近づく魔の時間
三人は、軽口や冗談を言いかわしながら、英気の家へと歩いて行った。
英気は、現在、両親のいる家のすぐ近くにあるアパート(それは、親の建てたアパートだが)の一室で生活をしていると麻子と珠子に言った。
両親が老後のためにと、近くに持っていた約三〇坪ほどの土地の上に、アパートを建てた。
その一室を高校生の息子のために提供して、そこに住まわせているらしい。
食事や風呂の時は親の前で済ませて、それ以外はアパートにいる。
英気の住んでいるアパートは、外装だけはなかなか洒落た造りである。
部屋の中には一応バス・トイレの設備もあるが、しかし、トイレはとも角としても、バスは雑すぎてとても使えるシロモノではない。
せいぜい洗濯するのが精一杯といったところである。
家賃を高くするためにのみ備えつけたとしか考えられないバスである。
六畳間ほどの広さの部屋が襖を間に二つ並んだ配置となっていた。
奥の方の部屋にはまだ電気炬燵が置かれていた。
「さあ、どうぞどうぞ。逮慮は要らないよ。どうせ僕一人だからね」
英気にすすめられて麻子と珠子は、それでも、
「お邪魔します」
と言いながら元気よくスニーカーを脱いで部屋に上がって来た。
「へえー、ここが英気君の部屋か。案外片づいているのね。誰か女の人でも来て掃除してくれるのかな。そんなはずは無いよね」
軽口をたたくのは相変わらず珠子である。
英気は、二人をカーペットの上に坐らせて、冷蔵庫からコーラを持ってきてコップに注いでやったり、ピーナッツを出してやったりと、サーヴィスに勤めている。
おまけに吸い殻入れを持ってきて、マイルドセブンをプカプカやり始めた。
英気達のクラスの者、というよりは、彼らが通っている高校の大部分の男子生徒は、その本数はともあれ喫煙の習慣を持っている。
未成年者は禁酒、禁煙などという法律は今や、売春防止法以上のザル法と化しているのである、学校の教師達も、一応校内での喫煙を禁止し、喫煙者を発見した場合には、厳重に注意し、親にもその旨の連絡などはしているが、この程度の制裁では、何か突拍子も無いことをやって周囲の者をびっくりさせたいとそれだけを考えている、エネルギーに満ちあふれている若者を抑えることは不可能である。
英気も例に漏れず、高校一年の春から喫煙を始め、今では一端のヘビー・スモーカーとなっている。
廊下などて故意に目立つようにタバコを吸っている男の子を、女生徒が「カッコいい」などと言う風潮の下で、先生の言いつけを良く守りなどという期待される人間像を彷沸とさせる男子生徒は、この高校では全くモテないのである。
不良っぽい男の子、あるいは本当の不良生徒の方がモテてしまうのである。
勉強もあまり好きでなく、その結果成績の悪い、あるいは因果関係はその逆かも知れないが、女の子にだけはどんなことをしてもモテたいと考えている英気としては、だから、本当は気が弱いくせに、一端の不良ぶったカッコウをとらざるを得ないのである。
そんな英気を見慣れているから、目の前で今、彼がタバコを吸りていても、二人は少しも驚かない。
三〇分ほどクラスメートの噂や、教師の品定めをしていた三人の耳許に電話のベルが響いてきた。
「あら電話よ」
英気が受話器を取る。
「ああ、来ているよ。うん。そう。大丈夫。ああ。それじゃね」
「誰よ。来ているって私たちのこと? 誰かな、吾郎君じゃない?」
「あたり、正解! 彼今、ここに来るってさ」
「あら、私たちの来ること連絡しといたの?」
「ああ。いいだろう」
吾郎――野平吾郎は彼らのクラスメートの一人である。
英気の遊び友達である。
二人が仲がいいのを麻子と珠子は知っているから、吾郎がここに遊びに来ると言っても、別段不審に思わなかった。
こうして、麻子と珠子にとっては魔の時間が刻々と近づいてくる。
(続く)
07.07.07更新 |
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