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色魔の勲章  第四回

文=法野巌
イラスト=笹沼傑嗣


養子として虐げられた幼年期を過ごした男に宿った性への渇望。
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大人気のスナイパーアーカイブ・法廷ドキュメント第五回をお届けいたします。
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事件の顛末

安高が住んでいるアパートは、国電中野駅から歩いて十五分ほどのところにある。
仕事の無い日などは、駅近くのパチンコ屋や喫茶店で暇をつぶしていた。
五月中旬だというのに、七月半ばを思わせる陽気になった或る日の午後、安高は、彼の気がつかないうちに開店したらしい、小ぎれいな喫茶店を見つけ中に入った。
店の広さはそれほどのものではなく、客が十人も入れば満員となりそうなこじんまりとした、神経の行き届いた内装の店であった。
そこのウェイトレスが大石蔵子であった。
経営者は彼女の母親である。
母親はある財界人の二号であり、蔵子はその間に生まれた一人娘であった。
どうやらこの喫茶店は、男が母娘のために出資をしたものらしかった。
もちろん、これらのことは後に警察の調べでわかったことであり、安高も警察に逮捕されて初めて知らされたことである。

安高は一目見て蔵子に恋をしてしまった。
彼にとっては、女を好きになることなど中学を卒業して以来初めてのことだった。
たくさんの女達と情交の体験をもった今、彼は年齢の割に、女に対しては虚無的考えを持つようになり、女とは信用出来ない存在であると信じ込むようになっていた。
だが蔵子を見て、安高は初めて、この女を自分だけのものにしたいという気持ちを抱いたのである。
蔵子は、文句なしの美人であった。
プロポーションも申し分無かった。
すらりと伸びた足には、ジーパンが良くフィットし文字通り腰のくびれの下から真直ぐに伸びていた。
尻のふくらみも、日本人離れをした形をしており、キュッと上向きの、若い黒人を思わせる肉付きであった。
胸の隆起は薄いブラウスの生地を下から持ち上げ、客にコーヒーカップを渡すために前に屈んだ時など、真正面に坐っている者は豊かな乳房の片鱗をブラウスのすき間に眺めることが出来た。
顔のつくりも育ちの良さを感じさせる上品さを漂わせていた。
どことなく憂いを感じさせていたのは、彼女の母親が二号という家庭環境に育ったためかも知れなかった。

蔵子を好きになってしまった安高は、暇を見つけてはこの喫茶店に通った。
多い時は日に二回などということもあった。
流石に今度は、面と向かってあなたとセックスがしたいと言うようなことは出来なかった。
彼が店に居る時、大抵他に客もいたし、人目がある場合、安高はいかにも大人しそうな態度をとる人間だったからである。
何度か通ううちに蔵子の方でも安高の顔を覚え、暇があれば彼の席に近づいてきては、たわいの無い話をするようになった。
軽い冗談を言っては笑う蔵子を見て、安高はそろそろ誘って見ようという気になっていた。
もちろん蔵子に夢中になって通い続けていた間にも、彼は拡張員としての仕事先で、相変わらず女漁りをしていた。
これだけは、いくら安高がまともに女性を好きになったとしても変化の無い行いであった。

「ねえ、今度のお店の休みの日に、少し僕につきあってくれませんか。実は是非ともあなたにお見せしたいものがあるんです」

「まあ、何かしら」

微かに頬を染めて、それでも蔵子は、いいわよと承諾をしてくれた。
まだ世間ずれをしていない蔵子は、自分に積極的に好意を示してくれる安高に、同様に好意を抱き始めていたのである。
それに安高は、一見は弱々しく、何となく物哀しい雰囲気を漂わせているところがあり、蔵子は一種の同族意識のような安心感をも覚えていたのである。
さて、いよいよ喫茶店の休みの日がやってきた。
安高は、指定しておいた駅前近くの喫茶店で蔵子と待ち会わせ、一時間ほど自分の好きなスターや歌手の話などをしたのち、いよいよ蔵子籠絡の準備に着手した。
安高は蔵子が絵が好きなことを聞き出していた。

「ねえ、僕のアパートに棟方志向の版画があるんだ。何でも彼の作品の中でも初期の傑作らしいんだ。僕は全くこんなものには無知だから、是非君に見てもらいたいな」

安高の言葉をすっかり信用してしまった蔵子は、彼の六畳一間のアパートへと足を向け、促されるまま彼の部屋の中に入ってしまった。

「ねえ、どこにあるの」

と安高に声をかけようとしたその時、安高は蔵子を両腕で抱き締めて、あっという間に彼女の唇に自分のそれを重ね合わせてしまった。
あまりの突然の出来ごとに呆然自失となっている蔵子を布団の上に押し倒し、ジーパンの上から、彼女の股の部分に右の手を差し入れ、布地の上とはいえ初めての彼女の秘めやかな部分の感触を得た。
やっと事の成り行きを理解した蔵子は、

「いや、いや」

と首を振り、足をバタつかせ必死の抵抗を見せた。
が、女の体の扱いに慣れている安高は、まず彼女の両頬を平手で思い切り殴って静かにさせ、耳許に口を寄せて、

「好きだよ、好きなんだ」

と何度も繰り返し、それでも手足を動かして抵抗の姿勢を示すと、

「服が破けてしまうけれとそれでもいいかい?」

と、巧妙な脅しをかけ、遂には彼女が身にまとっていたものすべてを剥ぎ取ってしまった。
六畳一間の安アパートの、長いこと敷いたままの汚ない布団の上に、安高が夢にまで見た蔵子の高貴な全裸の肉体が横たわっていた。
蔵子は、抵抗する気力を失ったのか、ぐったりとして、体を安高に弄ばれるままになっている。
安高はまず、彼が最も興味を持つ蔵子の部分、両下肢の接合部を攻めた。
彼はゆっくりと女体を嬲り、苦悶のうちに法悦境にまで導くといったテクニックはいまだ身につけていなかった。
若さの命ずるまま、自らの欲望の命ずるままに行動をとってしまう年代であった。
上品な形につくられているラビア、ゆったりとした盛り上がりを見せるマウント、その麓にひっそりと息づく可愛らしい真珠、その周辺を覆う、淡い翳りの恥毛の群山。
それらが今、すべて安高の意のままになるのだった。

「いいかい、声を出したりすると、ここは安普請だから全部筒抜けになるよ」

安高は駄目押しをし、彼女を心理的に拘束して、淫らな指使いで彼女の秘所を抉り回した。
それは丁度、安高の幼少時代近所の女の子と雑木林の中で互いに恥部をまさぐりあった頃を彷佛とさせるものがあった。
人差し指を挿入し、引き抜き、又挿入し、内部の肉襞の構造を感じ取り、顔を近づけてその香気を嗅ぎ取り、愛らしい背後の入口に指を差し入れ、弄び、安高はそうすることによって彼女のすべてを吸収しようとしているかのようであった。
一旦安高に体を蹂躙されると、蔵子は彼の求めるがままにその肉体を提供するようになった。
彼女にとっては安高が最初の男であった。

こうした関係が約半年間も続いたが、安高が彼女の母親にまで、その欲望の目を向けるようになり、母親はたまりかねて娘を諭し、娘もようやく安高と別れることを決心した時に、あの事件が起こったのである。
別れ話を持ち出した蔵子に激怒した安高は、それまでの性交時に何度かポラロイド・カメラを使って撮影した、彼女の性器を含めたヌード写真を持ち出し、別れるならこれをバラまいてやると脅しているところを、母親の通報で駆けつけたS警察署の刑事に現行犯逮捕されたのである。
安高の生い立ちを聞いた若い弁護人は、弁護方針を決めかねていた。
彼の生い立ち、不幸な幼少時に、彼の行動の秘密がすべて隠されているように思われる。
しかしこの事を主張したとして、はたしてどの位裁判官が斟酌してくれるであろうか。
彼は一人、あれこれと思い悩みながら、昔、近所の女の子と一緒にした淫靡な遊びのことを、ぼんやりと記憶の底から引っぱり出してくるのであった。

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07.07.15更新 | WEBスナイパー  >  スナイパーアーカイヴス