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法廷ドキュメント

ハングリー国家 日本の悲劇  第一回

文=法野巌
イラスト=笹沼傑嗣


強姦未遂事件を起こした少年には母親との不倫の関係があった
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スナイパーアーカイブ法廷ドキュメント、第六回をお届けいたします。
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強姦未遂事件

少年の非行は社会を映す鏡だといわれる。
子が親の鏡であるように、少年達の引き起こす非行は、その時代時代の流れを如実に浮かび上がらせる。
今、少年犯罪、少年非行は戦後、第三のピークを迎えていると言われる。

第一のピークは、昭和二六年。
この年をピークとする前後数年間の犯罪の多発現象は、終戦直後の社会的混乱や経済的窮乏を背景にするものであった。
次の波は昭和三九年をピークとするもの。
これは、この時期の急速な経済成長に伴う都市化の進展、都市への人口集中、享楽的風潮の広まり等がその原因とされる。

そして、第三の波が昭和四〇年代半ばから始まる。
この時代の特質として、価値観の多様化、社会的連帯感の希薄化、規範意識の低下等が指摘されている。
今回のレポートは、家庭裁判所に係属した一高校生の強姦未遂事件である。
強姦事件は以前から恒常的に発生しているものであり、人間か男と女という二種に区分して生存している以上、事件の発生は宿命的なものかも知れない。

少年非行の第三のピークを迎えつつあるといわれている現在、犯行、非行の増加は、主として、窃盗犯――その中でも特に万引きといわれるものや、シンナー遊びに代表される薬物事犯によるものであり強姦事件のそれではない。
しかしながら、この事件、あえて言えば、若い、ほとばしるようなエネルギー、情熱を持つ青少年のいる限りその発生を押さえるのは不可能とも考えられる。
強姦事件(本件では未遂であったが)の内容を調べて行くうちに、何とも言えない複雑な気持ちが湧いてくるのをどうすることも出来なかった。
そこには、まさに、現代社会の風俗の縮図ともいうべきものが生々しく横たわっていたのである。

この事件は加害者である少年が高校生であるために実名を公表できない。
以下に出てくる名はすべて仮名であることをまずお断わりしておく。
山崎調査官が斉藤判事より、一六歳になる高校生、神保巨の観察を命じられたのは、昭和五×年、まだ年が明けたばかりの一月一五日であった。

神保巨は、中学時代の同級生である桜井信子に対する強姦未遂容疑で東京地検から送られてきた。
裁判所では、神保が容疑についてはすべて認めているし、又、学校での成績も極めて優秀であり、性格的にも、特別の破綻は認められないことから、しばらくの間、保護者の下に帰し、その間、調査官に彼の観察をさせることにしたのである。
山崎調査官が裁判官より受け取った書類には、彼の被疑事実につき、次のような記載がされていた。
神保巨は、昭和五×年一月六日、中学時代の同級生であった桜井信子と二年ぶりに街で再会したことを機に同女を自宅に連れ帰り、中学時代の思い出話や、現在通学している高校の様子などを話しているうちに劣情を催し、これを強いて姦淫しようと企て、嫌がる同女をその場に押し倒し、右手で両頬を殴打する等の暴行を加え、同女の反抗を抑圧し、陰茎を同女の陰部に挿入しようとしたところ、挿入前に射精をしてしまい遂にその目的を遂げられなかったものである。
これが彼の容疑事実であった。

未遂というからには、被害者の桜井信子の純潔は無事だったのであろう。
刑法上は、例え、男性が女性の内部において射出するに至らなくても、その一部さえ挿入済みの状態となれば既遂と認められるのである。
だから、神保は、挿入直前に爆出させてしまい、その目的を遂げられなかったのであろう。

(続く)

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07.07.18更新 | WEBスナイパー  >  スナイパーアーカイヴス