法廷ドキュメント されど俺の日々
逆上と衝動の法廷ドキュメント、第八回をお届けいたします。
発端
さすがに昼間ほどの交通量は無いものの、夜になっても国道は長距離便のトラックなどが通り抜けて、相変わらず騒音が満ちあふれている。
交番の時計は十二時になろうとしている。
夜勤の立野巡査は出前してもらったラーメンを食べ終えたところであった。
ほっと一息つき、やれやれ、あと六時間で交替かと、両手を思い切り上に挙げて背伸びをしていたところへ、ただならぬ気配で駆け込んで来た青年があった。
「大変です、助けて下さい。みよちゃんが、みよちゃんが!」
青年は立野巡査にそれだけ言うと、両手を巡査の前にある机の上に置き体を震わせ始めた。
「おい、どうしたと言うのだ。 落ち着きなさい、さっぱり話がわからん」
青年は明らかに何かに脅えている様子だった。
蒼白な、血の気を全く失った顔面、がたがたと音が聞こえても不思議はないほどの異常な体の震え、そして左腕の付け根のあたりが破れているTシャツ。
黙っていても立野巡査の目には、青年は異常そのものに見える。
「おい、どうした。ここは交番だ、安心して事情を説明しなさい」
巡査に促されて、青年はやや落ち着きを取り戻したらしく、口を開いた。
「実は、私のガールフレンドが強盗犯人に連れ去られたのです。車ごと持って行かれました。大変だ、彼女は殺されます。ああどうしたらいいんだ、畜生!」
立野巡査は、とてつも無い大事件の臭いを嗅ぎつけた。
青年の説明によると、
――ガールフレンドを車に乗せてドライブ中、男が手を振っているので停車させると、足を挫いたので駅まで乗せていって欲しいと頼んできた。
それでかわいそうだと思い乗せてやると、男は懐からジャックナイフを取り出し、後部座席から身を乗り出して、青年をおどした。
青年は驚いてどうしたら良いかを考えたが幸いガソリンスタンドの側に交番があったので、ガソリンを入れてくると騙して、交番に転がり込んだ――
というのである。
立野巡査は本署に至急報を入れ、青年の車の手配を要請した。
車はニッサンローレルハードトップ二〇〇〇CC、色はグリーン、ナンバーは○○わ○○○○、中には男と女が一人づつ乗っている。
男は強盗犯人である。
大至急逮捕すること。
女は被害者であり、身柄の確保に万全を期すこと。
早速本署から管轄の全交番、全パトカーに指令が渡り、非番の警察官にも非常召集がかかり、全市内及び、隣接市に非常線が張られた。
これが、やがてマスコミによって大々的に報道されるに至る監禁、強姦、傷害事件の捜査の端緒であった。
青年が交番に駆け込んでから約三十分後、つまり昭和五×年×月×日午前零時三十分、緊急手配された車が発見された。
隣の市との境界に近い、国道上を走っている所であった。
警官に停車を命じられた車は、突然スピードを上げて非常線を突破しようとしたが、パトカーに行手を阻まれ、挙句の果てに、ハンドルを切り損ねて阻止したパトカーに衝突させ、遂に身動きのとれ無くなったところを犯人は逮捕された。
同乗の女性は無事保護された。
平和な北関東の地方都市に、久し振りに発生した凶悪事件であった。
法廷ドキュメント されど俺の日々 第一回 文=法野巌 イラスト=笹沼傑嗣 次々と凶悪な犯罪を繰り返す正太の犯罪者的性格は中学の頃から如実に現れていた。 |
逆上と衝動の法廷ドキュメント、第八回をお届けいたします。
発端
さすがに昼間ほどの交通量は無いものの、夜になっても国道は長距離便のトラックなどが通り抜けて、相変わらず騒音が満ちあふれている。
交番の時計は十二時になろうとしている。
夜勤の立野巡査は出前してもらったラーメンを食べ終えたところであった。
ほっと一息つき、やれやれ、あと六時間で交替かと、両手を思い切り上に挙げて背伸びをしていたところへ、ただならぬ気配で駆け込んで来た青年があった。
「大変です、助けて下さい。みよちゃんが、みよちゃんが!」
青年は立野巡査にそれだけ言うと、両手を巡査の前にある机の上に置き体を震わせ始めた。
「おい、どうしたと言うのだ。 落ち着きなさい、さっぱり話がわからん」
青年は明らかに何かに脅えている様子だった。
蒼白な、血の気を全く失った顔面、がたがたと音が聞こえても不思議はないほどの異常な体の震え、そして左腕の付け根のあたりが破れているTシャツ。
黙っていても立野巡査の目には、青年は異常そのものに見える。
「おい、どうした。ここは交番だ、安心して事情を説明しなさい」
巡査に促されて、青年はやや落ち着きを取り戻したらしく、口を開いた。
「実は、私のガールフレンドが強盗犯人に連れ去られたのです。車ごと持って行かれました。大変だ、彼女は殺されます。ああどうしたらいいんだ、畜生!」
立野巡査は、とてつも無い大事件の臭いを嗅ぎつけた。
青年の説明によると、
――ガールフレンドを車に乗せてドライブ中、男が手を振っているので停車させると、足を挫いたので駅まで乗せていって欲しいと頼んできた。
それでかわいそうだと思い乗せてやると、男は懐からジャックナイフを取り出し、後部座席から身を乗り出して、青年をおどした。
青年は驚いてどうしたら良いかを考えたが幸いガソリンスタンドの側に交番があったので、ガソリンを入れてくると騙して、交番に転がり込んだ――
というのである。
立野巡査は本署に至急報を入れ、青年の車の手配を要請した。
車はニッサンローレルハードトップ二〇〇〇CC、色はグリーン、ナンバーは○○わ○○○○、中には男と女が一人づつ乗っている。
男は強盗犯人である。
大至急逮捕すること。
女は被害者であり、身柄の確保に万全を期すこと。
早速本署から管轄の全交番、全パトカーに指令が渡り、非番の警察官にも非常召集がかかり、全市内及び、隣接市に非常線が張られた。
これが、やがてマスコミによって大々的に報道されるに至る監禁、強姦、傷害事件の捜査の端緒であった。
青年が交番に駆け込んでから約三十分後、つまり昭和五×年×月×日午前零時三十分、緊急手配された車が発見された。
隣の市との境界に近い、国道上を走っている所であった。
警官に停車を命じられた車は、突然スピードを上げて非常線を突破しようとしたが、パトカーに行手を阻まれ、挙句の果てに、ハンドルを切り損ねて阻止したパトカーに衝突させ、遂に身動きのとれ無くなったところを犯人は逮捕された。
同乗の女性は無事保護された。
平和な北関東の地方都市に、久し振りに発生した凶悪事件であった。
(続く)
07.08.09更新 |
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