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2009.06.09.Thu at Tokyo
「KINBIKEN」plesents extreme love session!
緊縛美研究会『濡木痴夢男の秘蔵緊縛コレクション“悲願”』
撮影現場フォトレポート【前編】



取材・文=井上文

その読書好きな美貌の淑女は、敬愛する作家の手に「一度でいいから触れてみたくて」、緊張の中で自ら作家とコンタクトをとった。そして数カ月後――作家・濡木痴夢男氏に「沢戸冬木」と名づけられた彼女は、これまでに数千人の女性を縛ってきた濡木氏が夢見る理想の緊縛美を体現するべく、さらなる緊張に包まれながらビデオカメラの前に立つ。長い休止期間を経て活動が再開された「緊縛美研究会」による圧巻の撮影、その現場を前・後編にわけてレポートします。
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「緊美研ビデオ」を観たことがあるだろうか。主に「緊縛美研究会」の例会の記録の中から編集された、極めてマニックな緊縛映像を収録したシリーズである。「緊縛美研究会」は1985年に発足した一般の縄愛好家の集いで(この時はまだ「緊縛美研究会」という名前はなかったが)、当時「不二企画」を主催していたカメラマンの不二秋夫氏(現在の主催者は春原悠理さん)と濡木痴夢男氏が中心となり、商業作品では得られないリアルな緊縛の魅力を追求・堪能する会として現在まで続いている同好会である(1999年から長い休止状態にあったが、今年の5月10日に約10年ぶりの例会が行なわれ、活動が再開された)。
↑「緊縛美研究会」の機関紙『緊美研通信』創刊号 1989年6月1日発行 責任編集=濡木痴夢男 発行元=不二企画


名前の通り、会の本道は緊縛美の研究だが、面白いのは他のフェティシズム――たとえば切腹やガスマスク、おんな犬のしつけや女王様のエロティシズムなど、緊縛の枠におさまらない様々な少数派の嗜好を受け入れ、十人十色の性の世界に対して優しく真面目に興味の目を向けているところである(それら「緊縛」とは別ジャンルの嗜好は「緊美研ビデオ」ではなく、異形フェチを専門に扱うシリーズとして「Right + Brain」のレーベル名で発表された)。その功績は大きい。

1989年に制作された『濡木痴夢男の緊縛・女腹切り』は、切腹をテーマにした撮り下ろし作品としては日本初であったし、何よりも、商業目的の作品が宿命的に負わざるを得ない「一般性」を徹底的に排除した「緊美研ビデオ」の方針は、そのあり方自体が大手メーカーの作るツボを欠いた映像に対する痛烈な批評になっていた。また、(口で言うのは簡単だが)誰もが自分だけの性癖を持っているという認識をもとに、その差異を本当の意味で認めて取り入れていくという姿勢は、性にまつわる固着した価値観を壊してくれるのではないか、新しい表現がここから生まれるのではないかという期待を持たせてくれた。

前置きが長くなってしまったが、今回久しぶりに行なわれた撮影は、そのような訳で歴史的にも意味深く、一ユーザーとしても大変喜ばしいことなのである。出演した女性は5月10日の例会に初参加して緊美研会員たちを夢中にさせたという沢戸冬木さん。話し振りが聡明で感受性の強そうな美貌の一般女性である。縛るのはもちろん濡木痴夢男氏。タイトルは『濡木痴夢男の秘蔵緊縛コレクション"悲願"』決まっているという。濡木氏はもうすぐ八十歳の傘寿を迎える。これまでに数千人の女性を縛り、緊縛の魅力に浸り続け、さらなる理想を夢見続けてきた男の満を持しての勝負縄という位置づけである。モデルに沢戸さんが選ばれたことには言うまでもなく必然性があるが、それについては緊美研のブログ「濡木痴夢男の緊縛ナイショ話」に詳しいので読んでもらいたい。下地となった全てを踏まえた上で期待せずにいられないのは、最高に美しい、すなわち最高にエロティックな映像だということである。

現場となったのは都内某所にある老舗スタジオ。緊美研の例会にも使われる場所だ。参加メンバーは沢戸さんと濡木氏、そしてわずか4人のスタッフのみ。開始の合図などは特になく、全員の気がなんとなくあったところで濡木氏がさらりと縄を手に取ると、そのままビデオカメラが回された。今作は撮り下ろしだが、この辺りの呼吸は「緊縛美研究会」の例会とまったく同じなのではないだろうか。

沢戸さんはシンプルな純白のワンピース姿である。和室の柱の前にややうつむき加減で立ち、緊張した肩を片方ずつ傾けて、ほっそりとした両腕を背中で組む。息を飲むひと時だ。その手首に麻縄が滑らかに巻かれていくと、たちまち沢戸さんの全身にさざ波が立ち、膝がブルブルと音を立てそうなほどに震えだす。以前、濡木氏に縛られたマニア女性が積年の想いを溢れさせて号泣する場面に遭遇したことがあるが、沢戸さんは情動をグッと内に秘めるタイプのようである。いや、号泣した女性もそうだったからこそ抑制が利かなくなったのに違いないが、沢戸さんからは「乱れまい」とする意志をより強く感じる。

動揺を秘めて喘いでいる胸にも縄が食い込み、大きな乳房が引き出されると、猿轡越しの表情が歪み、くぐもった嗚咽が漏れた。

↑緊張からか小刻みに震える肩。しっかりと背中で組まれた手首に最初の縄がかけられていく。
←露出させられた大きな乳房。猿轡越しの嗚咽が悩ましい。。
↑責め棒でつつきまわされる。細紐で縛られた両乳首は固く尖り、敏感に反応する身体からは否応なしに濃厚な色香がにじみ出る。


至近距離に寄ったビデオカメラの前、あられもなく勃起した乳首を細紐で括られ、周囲の肉を木の棒で突かれる沢戸さん。呼吸が大きく乱れている。それでもまだ「人前で恥ずかしい」「絶対に乱れまい」という心の踏ん張りが窺え、むごく縛られているだけにとても切ない。

やがて畳に膝をついた沢戸さんを濡木氏が柔らかく引き倒して仰向けに寝かせた。 そのまま自分の足を沢戸さんの頬に載せ、「どうだ!」と気合を入れる。

「ひどい……ひどい……」

泣きだしそうな声で応じつつ、まだ自分の中の官能とせめぎ合いを続ける。

乱れる黒髪、潤んで遠くを見る瞳、苦しそうにゆがんだ顔。清潔感のある柔らかなスカートが大きく捲れ上がり、恥部を隠そうとして擦り合わされる太腿がなんとも言えず色っぽい。いつしか沢戸さんの全身はバケツの水をかぶったようにグッショリと濡れているように見えた。


↑顔や乳房を足で踏みつけにされ、こねくりまわされ、秘めていた情動が迸る。


一旦縄を解き、改めて後手縄をかける。その縄尻を鴨居にかけて引っ張ると、縛られた手首がグングン高く、厳しく引き上げられ、交差した二つのげんこつがうなじにまで達する。紋白蝶の翅のような肩甲骨が浮き出た華奢な肉体の妙は何とも言えない。その辛い姿勢のまま口に縄を噛まされ、放置された沢戸さん。ポーズとしてはきついはずだが、やがて顔から苦しみがとれていく様子は見ていて鳥肌が立つようである。ついには心地よさげな陶酔の色まで滲み出し、じっと見下ろしていた濡木氏が咽喉の奥でぐうっと唸った。

←苛烈なまでの厳しさが美しい後手縛り。骨のきしむ音が聞こえてくるようだが、表情はだんだん安らかになっていく。。

「沢戸冬木」という名前は、濡木氏がつけた。モデルとして出演させるためではなく、自分が出会った魅力的な人として文章に書く際、プライバシーを保護するために仮名が必要だったからである。沢戸さんはもともと濡木氏が複数のぺンネームで書いてきた小説のファンで、熱心な読者ではあっても直接的に緊縛を嗜好してきた人ではなかったそうだ。最初に接触を求めたのは彼女のほうだが、それは好きな作家にひと目会い、「その手に触れてみたかった」からなのだという。だからこの撮影は、もともと沢戸さん頭の中にはなかったものである。

その後数カ月の間に2人がどんな時間をすごしてきたのか、実際のところはわからない。が、沢戸さんと出会って以来、濡木氏は「濡木痴夢男の緊縛ナイショ話」で繰り返し彼女の魅力を書いてきた。それは多くのマニア男性にとって幻想を激しく掻き立てられる内容だった。5月の例会の日に沢戸さんが濡木氏に縛られたことは、緊美研の会員のみならず濡木氏の多くの読者にとってビッグニュースとなった。実際に現場を見た例会参加者による賛美のこもった感想も同じブログで紹介され、いつしか沢戸さんは、未だ見ぬマニア男性たちからも彼らの理想や幻想を象徴する存在として期待されるようになっていった。


↑縄を解かれると陶然とした表情のまま崩れ落ち、周囲の縄を掻き抱くようにして目を閉じた。

そんな経緯があったため、沢戸さんとしては特に今回の撮影に関して「こんな私でいいのか……」という強い戸惑いがあったようだ。彼女にとっては初めての撮影現場であり、初めてのビデオ出演である。意識するなというほうが酷だろう。そこで現場では、濡木氏、沢戸さん、そしてスタッフも交えて繰り返し、丁寧に気持ちの確認が行なわれた。そのままの沢戸さんでいい、本当にそのままの沢戸さんが濡木氏の縄で縛られ、責められる姿を撮りたいのだと、濡木氏だけでなくスタッフも慎重に説く。出演女性の気持ちの揺れを貴重なものとして扱いたいのだという「緊美研ビデオ」の価値観が改めて明確になり、作品「悲願」の輪郭もすこしずつ見えてくる。この日、沢戸さんの集中力が一段と増したのはそうしたやりとりを経たすぐ後である。

休憩を挟んで行なわれたのは、沢戸さんの腹部に縄を巻いてその縄尻を鴨居に留め、自身の体重で腹に縄を食い込ませる「ウエスト絞り」だった。濡木氏に「自分で好きなように動いてみろ」と言われ、テンションのかかった縄を腹に巻いたまま正座から四つん這いへ体勢を変えていく沢戸さん。やがて肉にめり込んだ縄が見えなくなるほど体重を載せていくと、深く内省するように頭を落とし、じっと何かを味わっている。ミシッ、ミシッという縄の軋む音だけが静かに響き、空気が透き通っていく。

その時、沢戸さんが突然こう漏らしたために現場が緊張した。


←柔らかな腹部に深々と食い込んでいく縄。張り詰めた空気の中、沢戸さんを見つめる濡木氏とスタッフの目に彼女へのいとおしさが灯った。

「切りたい……切りたい……」

腹を切りたい、という意味だ。

後で聞いたところによると、沢戸さんは今作では撮影を担当している春原悠理さん(不二企画の現在の責任者)や早乙女宏美さんが出演した切腹作品を過去に観たことがあり、「憧れ」に似た気持ちを持っていたのだという。ウエスト絞りの過程でそのイメージが降ってきたのだろうか。

「切りたい……」



↑自ら体重を載せて苦しそうにあえぎつつ、「切りたい……もう切りたい……」とうわごとのように呟いた。

低い声に本気の迫力がうかがえ、濡木氏の目が一層慎重になる。もちろん本物の刃物を渡せるわけがないが、この流れは存分に活かしたいところだ。

濡木氏が、先ほどまで沢戸さんを突いて刺激するのに使っていた責め棒を差し出し、「これでやれ」と命じる。正座し直した沢戸さんが、棒の真ん中辺りを両手で握り締め、ギザギザにささくれた側の先端を腹に突き立てた。白い腕に筋と血管を浮かべて肉をえぐるように力を込めていく 。

←真剣とはこのこと。緊迫の切腹姿が披露される。目が離せない。

さらに、その先端をギリッ……ギリッ……と横にずらしていく。頭の中で腹を捌いているのである。歯を食いしばり、眉を凛々しく吊り上げて、容赦なく自分の腹に棒の先端を埋めていく。

この一連の自虐腹嬲りは、今作の目玉の一つになるに違いない名シーンだ。平素はやや生真面目と感じられるほど控えめで恥じらいの強い女性だけに、この時に見せた貪欲な被虐願望とナルシシズムは圧倒的に生々しい。濡木氏が日頃からこだわって言う「ホンモノ」の意味をそのまま体現しているようである。

ここまでが、第一部。美しい一人の一般女性が縄に身を任せることで内面を暴かれ、赤裸々な姿を晒していく、その記録をいま撮っているのだという事実のいやらしさにゾクゾクするような興奮を覚えた。

(続く)




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緊美研.com

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井上文 1971年生まれ。SM雑誌編集部に勤務後、フリー編集・ライターに。猥褻物を専門に、書籍・雑誌の裏方を務める。発明団体『BENRI編集室』顧問。

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09.06.27更新 | WEBスナイパー  >  AV情報
文=井上文 |