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今も進化を続けるマニア雑誌の最前線へ
『オトコノコ倶楽部』創刊から1年、新創刊されるニューハーフ専門誌の狙い発売直前! 『nh』編集長・井戸隆明インタビュー
昨年春に創刊されて大きな話題を呼んだ女装美少年専門雑誌『オトコノコ倶楽部』。その生みの親である三和出版の編集者・井戸隆明氏が、今度はニューハーフ専門雑誌を創刊するという。なぜ今、ニューハーフ雑誌なのか。「オトコノコ」と「ニューハーフ」の線引きは? 現状分析と新雑誌創刊の意図、また先行雑誌とは異なる『nh』ならではのコンセプトについて、永山薫氏に鋭く切り込んでもらいます。
5月13日、マニアックな雑誌でおなじみの三和出版からニューハーフ・テーマの新雑誌『nh』が創刊される。編集長は『オトコノコ倶楽部』でヒットを飛ばした井戸隆明さんだ。『オトコノコ倶楽部』や『わぁい』(一迅社)の成功方程式に従えば、萌え・オタク・サブカル・オシャレという方向性だと誰しもが思うだろう。何故、今、ニューハーフなのか!?
前回の『オトコノコ倶楽部』インタビューでも解るように、井戸編集長は中学生時代にまで遡るガチのニューハーフ・マニアックス! 元々やりたかった方向をやる。初志貫徹である。これはこれでわかりやすい。
しかし、ニューハーフ・メディアに詳しい人なら、一時期、ニッチな市場に雑誌が乱立し、過飽和状態となって共倒れしたという事実を御存じだろう。ビデオは盛況だというのに、雑誌は最後まで踏ん張っていた『シーメール白書』(光彩書房)が今年1月に終止符を打った。
だが、逆に言えば、この飢餓状態にある今がビジネス・チャンスなのかもしれない。
今回は、井戸編集長に新雑誌への抱負、ニューハーフへの想いを語っていただいた。
■トラウマとの遭遇
まず、井戸さんがどうして、ニューハーフに目覚めたのか?というあたりから訊いてみた。性に目覚める中学生の頃、井戸さんは変態コミック誌『コミックフラミンゴ』(三和出版)に出会う。そこでしのざき嶺の『ブルーヘヴン』に遭遇してしまう。少年が実姉に女装調教される『もう誰も愛せない』の続編で、女装とマゾヒスムと身体改造と自分探しが渦巻く作品で、一部では「裏エヴァンゲリオン」とも呼ばれている伝説的な傑作だ。
井戸:同じくらいの時に『シーメール白書』とかニューハーフの本を、古本屋ですけど、怖いモノ見たさで手に取ったんです。最初は綺麗なモデルじゃなかったんだけど、読み物とかも面白かった。前の取材の時にもお話したんですけど、ニューハーフの人の首から下のボディコン姿で、股間を押さえて形を強調しているって表紙だったんで、すごい買い辛くて(笑)。そんなわけで、元々シーメール、肉体改造にトラウマ的なものを抱えてたんですよ。『マニア倶楽部』編集部に入った時に、自分の作りたい本を作るってなった時にニューハーフの本を作ろうと思った。だけど、モデルさんのギャランティが高いんですよ。メイクさんも必要だし、凝って撮ったら大変で。それで『シーメール白書』みたいな雑な作りになっちゃうんだろうなって想像がついて、素人ニューハーフならどうかなって思ったんですよ。イベントとかに出入りしてる素人のニューハーフの子とか、デリヘル嬢やってる子とか何人か知ってたんで、いけるんじゃないかなと、少しずつ撮ってたんですよ。
■元々やりたかったニューハーフ本
そうした、地道な取材活動をやっているうちに、井戸さんは女装がカジュアル化して盛り上がっていることを実感する。そこで「女装でも可愛ければいけるんじゃないかな」と考えたのが『オトコノコ倶楽部』創刊へとつながっていく。でも、彼が元々やりたかったのはニューハーフ本だった。
井戸:そのタイミングが来たのが、今年の1月ですよ。『シーメール白書』が101号で終わった。よくグラビアに出てる月野姫ちゃんから「もう終わるって言ってた」って聞いてたんで、考え始めたら、『オトコノコ倶楽部』は半年に一回の雑誌だから、『シーメール白書』と同じ128Pの本なら、先々隔月刊にする形で、出せるんじゃないかって。ちょっとした素材もスケジュールが空いた時に撮りつつ、撮れるニューハーフの子を探すために自分でヘルスに行って口説いたりして。その後、呑み友達になって、こういうのやろうと思ってるからどう?みたいな話を陰でやってて。若い18歳の表紙いけるって子をもう撮ってたんで、『オトコノコ倶楽部』の3号目が落ち着いたら残りの作業に入ったんですよ。
井戸さんは新雑誌『nh』の色校を見せてくれた。表紙を見ただけでもこれまでのニューハーフ雑誌とは違うコンセプトで作られていることがわかる。東京藝術大学に通っていた知り合いに頼んだという手描きのロゴから個性的だ。しかし、一見して、何の雑誌か判りづらい。井戸さんもそこを気にしていた。ただ、手に取って見れば、先行誌とは一線を画する新しいコンセプトの雑誌だと解ってもらえるはずだ。
井戸:マニア誌のダサさっていいなあってのもあるんです。ただ、『オトコノコ倶楽部』も作っててわかったんだけど、若い人が買っているし、ニューハーフの本の作りづらさも、ヘルスに交渉に行っててわかったんですけど、雑誌に対する不信感がすごくある。先行誌で物扱いされてるとか、変に作られてるとか、男っぽいところをわざと残すメイクをされたりとかして、イヤだって話を聞いてたんで。高いお金払ってやってもらってるけど、コミュニケーションは軽視されてて、文句しか聞かなくて。結局そういう雑誌でしょって。だからニューハーフの子が出たいと思える雑誌にしようというのが一番で。そのためにはコミュニケーションしかない。時間をかけて仲良くなるっていうのと、ヘルスのママさんにも、こういうコンセプトでカッコ良くなるんで協力して下さいという話を何回かやって、詰めていった。モデルさんがやりたいことを最初に聞いて、「エロがイヤ」って子はエロを一切撮らない。エロじゃないもので短いページに出てもらう。その代わり楽しくやってもらう。あと、絡みは基本的になし、『シーメール白書』やAVを見てても、人によって感じ方が違うかもしれないけど、男もそんなに見たくないし、それよりかは、コンセプトを詰めたグラビアとか企画物を多く持っていって、総合誌的な作りにしていこうと。グラビアはストーリー性とかシチュエーションを活かす『マニア倶楽部』の経験が役に立っています。
たとえば創刊号で、女子高生ギャルという設定で撮った子の撮影には彼女の部屋を使ったりもした。先行誌ではけっこう殺風景な一軒家とかが多いし、同じシチュエーションが多い。そこから変えていくだけでも印象が随分変わってくる。井戸さんが『マニア倶楽部』編集部での経験を口にするのもそのあたり。つまり、型を作って流し込むのではなく、その時その時のドキュメント性、モデルの生な部分を出していくということだ。
井戸:雑誌って残るものなので、ヘルスに出ててもエロはダメっていうのも解る。それよりは、この本を見て、ヘルスに行ってみようかなって読者が思ったほうがいいので、エロがダメな子は脱ぐ必要はない。脱いでないのが、かえって良かったりすることもあるし。先行誌のいいところを全部凝縮して、無駄なページが一切ない、手抜きがない雑誌にはできたと思います。色々やりたことはあるんですよ。一色ページが少ないんだけど、小説も漫画も載せたい。今回は小説を館淳一さんにお願いして、イラストをあえてオタクっぽいのにして不協和音を出してみようと。
■ニューハーフAV
雑誌の構成は全128Pで一色32P、4色96P。4色はグラビアメインでドラマ、ビデオ紹介。ただ、井戸さんに言わせると、ニューハーフAV自体があまり面白くない。昔はマニアックだったが、今は長尺志向でどれも同じように見えてしまうという。そこで『nh』ではRADIXの7ページ特集を組む。
井戸:従来のビデオ紹介はやりたくなかったので、RADIXに話をして、特集を組む。その代わり本音で書く。ベタ誉めとか広告的なことはしない。いい作品はいい作品として取り上げるし、ISSEI監督のインタビューを含め、当事者の声も入れる。そういう構成にするので素材を下さいと交渉して。僕、何回か同社のAVに出てるんで(笑)。それもあって親しい人がいて、貸してもらえたんです。
井戸さんのAV歴は長い。なんと、これも中学生時代、従兄弟の親が経営しているレンタルショップがあって、そこで、こっそりとAVを借りていたそうだ。そこでインパクトを受けたのが、メーカー名は忘れたそうだが、オムニバスビデオで風俗嬢が出てくるシリーズ。そこには何人かのニューハーフが出演していた。当時はまだ美人ニューハーフも出ていなかったし、作家性も感じられなかったのだが、見続けているうちにこれも『シーメール白書』同様に洗練され、監督名が記憶されるようになる。
井戸:もちろんカネのために撮ってた監督もいると思うけど、今回取り上げたRADIXのISSEI監督は、ニューハーフが好きで撮ってるのが作品からも覗える。ニューハーフビデオってジャンルは作りもみんな同じに見えたんですよね。大体、アナルセックス、逆アナル、オナニー、120〜180分に全部入れるわけじゃないですか。撮る側も、時間かけて全部詰め込めば、見たい人はチャプターで、見たいとこ見ればいいわけだから。でも撮影現場で長い時間拘束して撮ったら、疲れるし、本気になれない時間も出てくると思うんですよ。僕がビデオに出演してる経験からもそうですけど、『腐女子痴女』って作品に出たんですけど、腐女子の妄想の中で男同士が絡んでて、最後は腐女子を交えて夢の中で3Pみたいな(笑)。楽しいけど10何時間とかになるとさすがに疲れるし、現場の刺激も興奮度もなくなって、最後は萎えてくるって経験してるんで、誰でも体力的にきついだろうと。そういう事情もあって、つまんない作品になっちゃうんだろうなって。この本でDVD付ける時は、とにかく面白い物、撮られているほうも楽しいものにしようと、演出面から考えなきゃなんないなと。それには時間を短く撮るってことと、入り込みやすい何かをこっちで用意すること。そこに気をつけました。どうやったら生々しいものが出せるか? 重要なのは一対一で撮ることなんですよね。AVの現場はスタッフが何人もいる。メイクも自前でやってもらって、ほんとに一対一になって、自然な状態を作っていこうと。できれば撮影前から人間関係を作って、コミュニケーション取れてる人と撮る。それが生々しさにつながっていくと思う。
これは一般のAVについても言える。大昔だが、村西とおるが出てきた時もそうだった。本編の真似みたいなことをしていた最初期は全く面白くなかったが、ハメ撮りを始めて俄然生々しい作品になった。ビデオはドキュメント性を前面に出してきた時に最も生きるメディアだ。もちろんその「ドキュメント」は「疑似ドキュメント」ではあるのだけれど、下手なドラマ物が足許にも及ばないリアリティを生み出すことがある。
井戸:僕は90年代のV&Rの時代から、後追いですけどドキュメントが面白いってのがあって。『マニア倶楽部』に入ってよかったのは素人の投稿の面白さを活かすことが解ったことですね。こっちで撮る時もそれを活かす。僕は学生の頃、自主映画とかやってたんで、凝ったものを撮ったりしたけど、V&RのAVや『マニア倶楽部』を経て、自分の欲望を満たせるのもあるんだけど、自分も本気になったり、緊張したりするのがいいのかなと。こないだシネマジックともコラボ撮影したんですが、ビデオって撮ってる人の合わせ鏡だなと。僕も結構緊張するけど、その無様な姿も出すようにして、こっちの緊張感も出しちゃうと。
■オトコノコとニューハーフの差異とは?
臨場感、リアリティの大切さは解る。とはいえ『オトコノコ倶楽部』だって、それは同じではないか? どちらも女装という共通項があるし、登場する人たちも綺麗だし、可愛い。当然かぶる部分も大きいとと思うのだが。両者の違いはどこにあるのだろうか?
井戸:線引きがどこにあるのか?ということですよね。『オトコノコ倶楽部』も3号目で、純化されて、より素人の若い男の子という方向になってるんですがど、エロの割合も少なくなって。ニューハーフは職業だと思うんですよね。女として生きていきたいってだけだったら、ニューハーフじゃなくて、埋没系と言われる方向ですよね。ニューハーフって形で出てる人はいずれ女になって実生活に埋没するための、お金稼ぐためにやってる人もいるんでしょうけど、ニューハーフをしている間は職業なんで。プロと素人というのが一番線引きになると思う。彼女らは、なんらかの仕事に、セックス産業だったり、水商売だったり、ニューハーフってカテゴリでやってるので、『nh』はそことタイアップするという意識が強いですよね。それからテレビにヘルスの人は出ないけど、ショーパブとか飲み屋さんで働いているニューハーフは出ますよね。やっぱり、こだわりたいのは、ヘルス嬢はセックスを相手にしてるだけあって、エロチシズムが見えるわけですよね。そこがテレビで扱えないからこそ、こういう雑誌で広く認知させたいなと。ヘルス嬢の美というのを。夢なんだけどヘルス嬢の脱ぎなしファッション誌をコンビニ本でやりたいと思ってますよ。それって自己実現っていう意味でもニューハーフの子の多くに願望があると思うし。それが一番狙える。蜷川美花の『熱帯魚』ってニューハーフをモデルにした写真集があったんだけど、作家性が強くて、色彩も強くて、ピンもきてないし、本人たちはそれでいいのかもしれないけど、本来の素材の魅力って意味ではどうなんだろうと。それにモデルがショーパブの人なんで偏ってるんですよ。性転換してる人が主だし、そんなにエロくない。
性転換というと、大昔、日本にシーメールという概念が入ってきた時、スルカっていうすごい人工的なファニーフェイスのスターがいた。ところが、彼女が性転換したとたん、「只の女になっちゃったよ」と一斉に引いてしまったことを思い出した。トランスセクシャルなみなさんには申し訳ないのだが、「読者=観客」サイドからすれば、スルカはチンコと一緒に特権的な身体性を捨ててしまったとも言えるだろう。これは読者の嗜好、立ち位置によって変わってくると思うのだが、日本のニューハーフ雑誌の読者って、どんな人たちなんだろうか?
井戸:読者のメインはヘルスに通うような人なんで、エロは外せないし、即物的な人が多いので、『オトコノコ倶楽部』のようなオタク・サブカル系の一色ページを増やすと抵抗あるかなって思ったんですね。でも読み物は充実させたい。そこで記事の入れ方に迷ってて、試行錯誤していくつもりなんですが、今回は32Pの中に小説があり、どうやったらニューハーフの子とつきあえるのかをニューハーフの子に徹底インタビューしたものとか、欲望と読み物としての充実感をどうにかしてやろうと。プラスアルファとしては、ニューハーフの子たちが出たい雑誌にして、その子たちにも買ってもらいたいんで、ヘアメイクのコラムを入れたり、ニューハーフ雑誌はヘルスに置いてあったりするので、お客さんも見る。マニア誌って基本的に死に行く人を相手にしてる雑誌じゃないですか? どんないい本作っても目減りしていくのが体感としてわかるわけですよね。『マニア倶楽部』も僕が入る前は大赤字で、大リニューアルして生き返った。端から見ててもスゴイ凝った作りしてて、それでも読者は目減りする。だから若い読者を相手にしないとダメだなと。『オトコノコ倶楽部』はカジュアル女装という文化と噛み合って当たったけれども、ニューハーフも可能性あるんじゃないかなと。スゴイ綺麗な子も増えているし、今までは女の子になりたいから、ちょっとでも男が出ないように、ドラァグクィーンみたいに女よりも女をめざすのがニューハーフの魅力って言われてたりしたんだけど、今のニューハーフの子でちょっと出始めているのが、若い頃から親の同意もあってホルモン始めたりして、普通に話しても女の子なんですよ。本人にも葛藤とか、抵抗が弱いんですよね。女の子としての自意識が自然と持てて、周りもそのように扱うみたいな。
職業としてのニューハーフとそれを求める読者の組み合わせ。ニューハーフという概念と実態はまことに幅広い。ノンケのエンターテイナーもいれば、性同一性障害の人もいれば、女装が好きなゲイもいる。細分化していけばキリがないが、日常的に女装を指向する人の職業選択の幅は狭い。もちろん、OLをやってたり、自営業の人もいるが、門戸は狭い。水商売か性産業ということになる。だから、ザックリと職業で線引きしてしまうのも乱暴なようでいて適切なのかもしれない。
■ニューハーフという独自性
井戸:言葉って変遷しますよね。シスターボーイとかレディボーイとかミスターレディとか日本で定着しなかったのは「ボーイ」が入っているからかもしれないなと。ニューハーフはそういうところがないので定着したんじゃないかな。彼女たちの自意識も自然とそうですね。基本的に性同一性障害というか、体も小柄で、声も高かったり、特別な努力をしなくても女の子になれてる。なんなのかわからないけど、ホルモンを早くからやってるからなのか、中性的な人が昔より多くなっているのか、メイクのレベルが上がったというのもある。
言葉という点では『オトコノコ倶楽部』は秀逸。「男の娘」ではなく「オトコノコ」とすることによって二次元と三次元の両方にまたがって、しかもその内実もニューハーフ同様に幅広い概念を含む「最近のカジュアル女装文化」の受け皿にすることができた。では、ニューハーフのほうはどうなのか?
井戸:ニューハーフってイメージは、テレビを中心とするメジャーメディアが作ってきたものって大きいと思うんですよ。創刊号の月野姫ちゃんのインタビューでも出てくるんですが、月野姫ちゃんは「カマ好き」が嫌いなので「ニューハーフが好きだから」って人とじゃなくmixiとかクラブとかで人と出会ったりするんですけど、そういうところで「ニューハーフです」っていうと、「付いていない人」だと思われるらしいんで、ビックリされる。はるな愛とかのイメージで。僕らは、ニューハーフっていうと「アリアリ? アリナシ?」って感覚なんだけど一般には「ない」イメージが強い。実際には性転換しちゃうとヘルスを引退する人も多いし、ニーズも減る。マスメディアしか見てない人は性転換してるってイメージ。テレビに出てる人はニューハーフってそんないないんじゃないですかね。オネエキャラはいるけど、性転換してない人は生々しくって使いにくいのかもしれない。ヘルス嬢だから出せないのか? だから雑誌ではヘルス嬢ってこんなに魅力的なんだよと世間に知られたほうがいいと。今のニューハーフビデオのダメなところはニューハーフが際物でなくなっているのに際物扱いしてるからですよ。
ただ、そこが大変なところだと思う。グラビアアイドル的な意味で受容される、つまり、水着になって、股間が膨らんでいてもイイじゃないか。そこまで行けば革命的だけど、革命は常にハードルが高い。たとえば性的な要素が生々しく出てしまうのでコンビニは厳しい。もちろん井戸さんや筆者的には全然、無問題なのだが、一般化させるには相当の時間がかかりそうだ。どちらかといえば『オトコノコ倶楽部』の延長線上というか、ちょっととんがったファッション誌として女装もアリみたいな路線のほうが可能性は高いかもしれない。
井戸:だけど基軸はこっちに置きたい。多くのマスメディアがやってることって僕には姑息に見えたんですね。敢えて言えば上から目線に見えちゃうんですよ。好きって言いながら草の根の部分が見えてない。こっちに来た人は戻れないと思うんですよ。ニューハーフも際物じゃなくって表現の幅で撮れるんじゃないかなと思うんですよ。ドラマ物であったり、当たり前のように扱ったら別に女と一緒でいいわけで、それが魅力的だったら、ヘルスに行きたい人は行けばいいし、作品が面白ければ買ってくれればいい。そこが本音かもしれないですね。チンコっていうフェチの部分でっていう人はそれも見えてるんで、強調はしてないですけどね。写ってなくても、マニアの人は知ってるわけだから店に行けばいい。そういう決断ができたんですよ。一年前なら絶対チンコ入れなきゃなって思ってたんだろうけど、なくてもいいんじゃないかなって。違った作りができるんじゃないかなって。
■ジャンルではなく個人の魅力を前面に
話を聞いている内に井戸さんの目指しているのものがおぼろげながら見えてきたような気がする。際物ではなく、AV女優とか、キャバクラ嬢とか、グラビアアイドルとか、女子アナとか、男の欲望の視線(だけではないが)を受け止める職業ジャンルの一つとしてニューハーフ部門があるみたいな、そんな位置づけのメディア。ニューハーフを特権化するのではなく、欲望の対象の一つとして公平に位置づける。これは考えてみれば相当に越境的でラディカルな発想かもしれない。確かにリスキーではあるが、新しい市場を開拓しうるポテンシャルはある。井戸さんのいうように大部数である必要はない。
井戸:『シーメール白書』が全盛期に公称で1万〜1万5千部。最後のほうはもっと少なかったと思いますが、それよりもいいものを作ったら、安定するんじゃないかなと思います。他にないわけなんで。情報誌としても「全国ヘルス情報」みたいなページを連絡先付きで、見開きで作ってある。
筆者個人としては、プロフェッショナルなモデルやヘルス嬢としてのいわば「公式」の側面と同時に、「私」の部分にも興味がある。悪く言えば覗き趣味だが、もっと日常とか素顔とか、人間への興味と言ってもいい。プライベートな時間をどう過ごしているのか? どんな音楽を聴き、どんなことを楽しんでいるのか?
井戸:その視線で言ってもらって良かった(笑)。今回「ニューハーフ24」という24時間ニューハーフに密着するという企画をやってるんですよ。それは前々からコミュニケート取った、どんな姿でも撮っていいよって子にお願いして。先行誌でも「お宅拝見」みたいな企画はあったんですが、作られた感じがあって、やるんだったら徹底してやろうと。そうなると人が絞られてくる。そこを、越えるのはコミュニケーションしかないじゃないですか。そんなにお金を払えるわけじゃないし。今回ドラマを撮った子なんてそうですけど、ニューハーフの魅力というよりは個人の魅力ですね。可愛かったり、すごい緊張したりとか、プロダクションの女の子にはない、恥ずかしがり屋で緊張してる。見た目は今っぽいのにウブな感じで、こっちもびっくりして、反応が楽しかった。今回のDVDの中でオススメはドラマですね。エロゲーみたいに作ったんですよ。主観映像で、固定カメラで正面から撮って、俺がしゃべってる部分はテロップに置き換えてるんですけど、俺もクサイようなことも本気で言ってたりして、そうすると向こうも本気の反応をしてくれて、けっこう見てて入り込めると思うんですよ。その子とはラブホで、絡みとかはやってないんですけど、疑似にやってるように見せて。終わった時、エレベーターで、「変なこと訊いていいですか?」って言うから「何?」って言うと「さっき、あういうこと(疑似で)やってた時、勃ってました?」って。だから、「ずーっと、勃ってて、ガマンできなかった」って。そしたら「良かった♪」って。そのウブさと女の子みたいに喜んでる感じがいいなあって思って、好きになりました(笑)。
これを聞いて、ああ、井戸さんは本当にこういう仕事が好きなんだなと思った。もちろん、「好き」なだけでは雑誌は作れない。だが、少なくとも作る側に「好き」な人がいてこその「雑誌」だろう。その意味でも期待を込めて『nh』を見守りたい。
文=永山薫
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話題沸騰! 女装美少年専門誌が創刊! 『オトコノコ倶楽部』編集長インタビュー【前編】>>>【後編】
永山薫 1954年大阪生まれ。近畿大学卒。80年代初期からライター、評論家、作家、編集者として活動。エロ系出版とのかかわりは、ビニ本のコピーや自販機雑誌の怪しい記事を書いたのが始まり。主な著書に長編評論『エロマンガスタディーズ』(イーストプレス)、昼間たかしとの共編著『マンガ論争勃発』『マンガ論争勃発2』(マイクロマガジン社)がある。
10.05.13更新 |
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