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フランス人ジャーナリストのエロティック比較文化論
『The Big Penis Book』

著者・編集:Dian Hanson
発売日:2008年6月25日
ISBN-13 :978-3836502139
出版社:TASCHEN America Llc

気鋭の女性フランス人カウンターカルチャー専門ジャーナリスト、アニエス・ジアールが、「奇妙で豊穣な性文化」について日本の様々な文化的側面から掘り下げていくユニークな比較文化論。今回は男子不朽のテーマ=ペニスの大きさについて。さらにはそこから「男の力強さとは何か」という深いテーマへと考えを膨らませていきます。
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最近Taschenから3Dメガネつきの"big dick"(巨根)という写真集が出版された。立体的に見えて、素手で自分のいちもつをもっている男たちが写っている。そのおちんちんはとても大きく、眺めているとそのいちもつが口とか目に入ってくるような錯覚を受ける。そして、写真にはもちろん日本人は一人もいない。日本では裸の写真が禁止されているから?と思うけれど、アメリカにも日本人は住んでいるよね……。でもモデルに含まれなかったってことだよね? 日本の外でさえ日本男性の裸の写真を観るのが難しいのはなぜだろう。

私はそれがとても残念だ。なぜなら日本男性はものすごく強靭だし、たいていのちんけな金髪コーカシアンよりもずっとパワフルだと思うからだ。私にとっては日本の祭りは欲望および生命力にあふれたものだ。この世に祭りほどセクシーなものはない。だからヨーロッパ人が自分たちのほうが強いと思いこんでいて、アジア人の男性性をみくびっていることは変な気がする。それは彼らが祭りというものを知らないからかしら? だけど、ヨーロッパにも昔は祭りがあり、神道の祭りと同じくらい活気にあふれていたはずだ。私たちは本当の男がどんなに力強いものかという記憶を失ってしまったみたいだ。

今、西洋の世界では、本当の男イコールおっきなおちんちんを持っていること、みたいだ。でもサイズが重要だなんてとても馬鹿げている。Taschenがこの"Big Penis Book 3D"を出版したとき、私は自分に問うた。どうして西洋人はサイズを重要視するのかしら?と。フランス人は平均的な大きさが16.01センチだといって自慢する。日本の男性の平均は10.92センチだ (参照元: TARGET MAP “The Penis Size Worldwide (country)”) 。フランス人は「やった! 自分たちのほうがでかい」と喜んでいるのかもしれない。でも日本人のほうが体は小さいのだから、比率としてはフランス人と同じくらい。それに日本女性のヴァギナは小さくて、フランス人女性のヴァギナより大きさも深さもないのだ。だから日本のおちんちんは日本のヴァギナに適しているのだ。フランスの生殖器も同じことだ。

フランス人はなぜこんなにもサイズにこだわるのか? ナンビアのBubalornis niger(Red-billed buffalo weaver)という珍しいハタオドリのことを調べていた時に考えたことがある。この鳥はとても小さくてかわいいのだが、雄にはその排出腔の前に、人間の生殖器とよく似た偽のおちんちんがついている。この偽のペニスは雌を誘惑するために使われ、雄がこの偽ペニスを雌にこすりつければつけるほど、雌は雄を受け入れる。この偽ペニスはマスターベーションと見せびらかすためだけに使われている。雌の前でそれをこすりつけ、見せびらかすことで雄は快楽をえる。「精子戦争戦略」の一部である。

たぶん人間もハタオドリに近いのだろう。もちろん人のおちんちんはこするためだけにあるのではない。ヴァギナに入れば精子を放出するのだから、受精の過程においては針の役目を担っている。しかしこのような過程においては長さ4センチもあれば事足りる。それ以上は必要ない。ではどうして人のペニスは大きいのか? これが異性をひきつける戦略のひとつだからだろうか? おそらく世界中のあらゆる文化においてペニスは神のように神聖な器官である。なぜならペニスは大きな戦いの一部であり、どんな男も自分の精子を勝たせたいと願うからかもしれない。

日本では、そしてあらゆる多神教国(あるいは我々が不当にも異教徒と呼ぶところのもの)において、ペニスはとても重要なシンボルである。サイズなど問題ではなく、生命力と幸福を象徴するものだ。西洋とイスラム教圏(一神教国)では、大きなペニスはステイタスシンボルとして重要だ。そこではサイズこそが重要であり、たとえ使い方が分からずとも、また実際には弱い男であってもそれらを誇示するのである。だからペニスのサイズにこだわるのは、宗教(一神教)のようなものだ。だから多くの男性のヌード写真はまやかしであり、本当は力や男らしさなんて何もないモデルをだしているのだ。それらは実に陳腐だし、そのでっかいおちんちんもただの風船みたいに見えてしまう。

ところで私が一番好きな祭りは福岡の博多祇園山笠である。この祭りのドキュメンタリーを櫛田神社近くの小さな博物館で観たことがあるのだけれど、古代からのなにかとても古く、力強く、乱暴で熱気あふれるものを感じた。ここで観た男たちは、羽織とふんどし一丁で、本当のラスト・マンだと思った。最後の本当の漢(おとこ)なのだ。彼らは男たるものとはなんぞやと知っている。筋肉ではない。燃えたぎる情熱である。

文=アニエス・ジアール
翻訳=前田マナ


WHY SIZE MATTERS (OR NOT)

Recently, Taschen published a book about "big dick" with 3D glasses. These photos are 3 dimensional images of men holding their dicks with bare hands. The dicks are very big, indeed and you have the feeling it goes into your mouth (or eye) when you look at them. Of course, there were no Japanese people in these pictures. I understand it's mainly because nude pictures are forbidden in Japan. But… there are Japanese people living in USA, right ? And these Japanese people could get involved in modeling, right ? Why is it so difficult to see pictures of Japanese male, outside of Japan ?

This always makes me feel bad. Because I know how powerful Japanese men can be, much more powerful than most of the little blond Caucasians ! For me Japanese "matsuri" are about desire/life power. Nothing, in the world, is more sexually powerful than "matsuri". This is why I find it always very strange that European people feel so strong and disdain Asiatic maleness… Is it because they don't know "matsuri"? There used to be matsuri in Europe too, long time ago, and it was as powerful as "shinto" festivals. But it seems we have lost memory of what is a real man.

Now, in occidental world, a real man is someone with a big dick. Which is quite stupid. Because size does not matter. When Taschen published the "Big Penis Book 3D", I started asking myself: why is it so important, for occidental people, to know how big they are? French people feel very proud because the average is 16,01 cm. Japanese men average size is 10,92 cm (source : http://www.targetmap.com/viewer.aspx?reportId=3073). French people think: "Oh , we are bigger !". They feel proud. But they forget one little detail: Japanese body is more little. So, proportionally, the Japanese size is the same as the French size. The Japanese women have also a more little vagina, it is less large and less deep then the vagina of French women. So, Japanese dick fit Japanese vagina. Same with French genital organs.

Why do French people feel so proud about the size of their dick ? I thought about it studying the strange case of a bird from Namibia, called Bubalornis niger, or Red-billed buffalo weaver. It's a nice little bird. But the weaver males have a "phalloid" organ, a kind of fake dick in front of their cloaca, which is very close to human genital organ. This fake dick is used to seduce female weaver. The more the male rubs his fake dick on the female, the more the female gets receptive to him. It seems that this fake dick is used only for masturbation and exhibition. The male weaver gets pleasure from rubbing it and showing it get bigger in front of the female. It's part of the "sperm war strategy".

Maybe human species is close to weaver birds. Of course, human dick is not only for rubbing. It is also a needle, for insemination process: when inserted in the vagina, it releases sperm. But the size required for such a process could be as small as 4 cm. No need for more. Why is the human penis so big? Because it's part of seducing strategy too? Maybe this is why, in nearly all culture around the world, dicks have been considered sacred organs, like gods. Because they are part of a huge war: every male wants his sperm to be the winner, right ?

In Japan, and in all the countries with pagan religion (or what we wrongly call polytheist religion), dick is important as a symbol. It's not a matter of size, it's a matter of life energy and happiness. In occident and Islamic countries (monotheist religion), big dick is important as a status symbol. It's a matter of centimeters: you show it off, even if you don't know how to use it, even if you are a weak man. It's a kind of prosthesis. This is why so many of the nude male photographies are just fake: they show models who don't have the real power, the real male spirit. They look insipid and their big dick looks like inflatable penis.

By the way, my favorite matsuri is Fukuoka's "hakata gion yamakasa" . I saw a documentary about this "matsuri" in the little museum near the Kushida jinja. It was like looking at something very ancient, strong, violent and hot coming from the past. These men, who only wear a "haori" and "fundoshi", they are the last real men. The last real males. They know what it is to be a man. It's not muscle. It's fire.

text=AGNES GIARD

アニエス・ジアール最新刊『エロティック・ジャポン』(河出書房新社)発売!!


『エロティック・ジャポン』

著者: アニエス・ジアール
翻訳: にむらじゅんこ
発売: 2010年12月22日
定価: 3,990円(本体3,800円)
ISBN: 978-4-309-24534-8
出版社:河出書房新社

内容:あまりに奇妙で、あまりに豊饒な日本のエロス的イメージ! 気鋭のフランス人女性ジャーナリストが論じる大胆な日本のエロティック・カルチャー……ロリコン、人形、制服フェチ、コスプレ、メイドカフェ、援助交際、風俗産業……現代アートや浮世絵、風俗雑誌など、約300点にのぼる豊富な図版を収録!


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アニエス・ジアール - AGNES GIARD - 1969年生まれ。仏リベラシオン紙のジャーナリストであり、主にカウンターカルチャーや性に関する記事の専門家。日本のエロティシズムについて言及した著作 『エロティック・ジャポン』(仮)、『図解 ビザール・セックス全書』(仮)がそれぞれ河出書房新社と作品社より近日刊行予定。現在は京都の関西日仏交流会館ヴィラ九条山に滞在しており、日本における様々な恋愛物語についての本を準備中。

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前田マナ 英国ランカスター大学演劇学部修士修了。専門は現代演劇やコンテンポラリーダンス。 ライターとしてウェブや雑誌等に雑文なども寄稿。
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