2009.01.19 Mon - 01.31 Sat at span art gallery 『画家・森口裕二が描く 朧で淫美な幻想世界2009』 文=井上文 闇×ノスタルジー×美女×センチメンタル。艶やかな色遣いすら逆説的に陰湿であやふや。 幾重にも倒錯的な日本のエロティシズムを紡ぐ画家のオリジナリティとは。 注目の個展『沈黙』を前に振り返る、繊細な妖かしの根幹とその先にあるもの―― |
森口裕二 個展『沈黙』
2009年1月19日(月)〜1月31日(土)
東京・銀座「スパンアートギャラリー」にて開催
『潮騒』 |
『トランク』 |
四国の山村で生まれ育った森口氏は、自分の故郷を「閉鎖された田舎」と言い、故郷で小年時代に培ったのもが自分の最もオリジナルな部分なのだと以前インタビューした際に話してくれた。
『Kの魑魅魍魎たち』
「それがなくなったら本当に手探りになるよ。いや、手探りと言うより何も描けない。塗り絵よりもいい加減なものになってしまうよ」と。その立ち位置が端的に現われているのは、森口氏がしばしば女性に絡めて描く妖怪たちの姿ではないだろうか。妖怪とはそもそも闇への畏怖をキャラクターに変換したものである。氏の小年時代には周囲の大人の語りの中に頻繁に登場する存在であった上、時には不可解な出来事を納得するための機能をリアルに果たすことすらあったというから驚く。「あの山師が事故に遭ったのは平家のお姫様が眠る塚の周りの椿の木を切ろうとしたからだ――」なんて。
『三ッ目入道とヌケ首女』
森口氏の絵に特徴的な非日常性は茫洋として人を惹き付ける捉え難さゆえ「闇」と呼び得るが、氏が少年時代に肌で感じてきたという“日常の裏側にぴったりと貼りつく闇”は、どこか親しみやすい妖怪たちの描かれ方からも、確かにその深い一層をなしていると感じさせる。
一方、森口氏の絵が持っているエロティックな要素について、氏は「絶対に答を出さないこと。あやふやであること」が大切なのだと話した。「日本のものには総じて言えること。エロであってもそう。短歌とか俳句の世界にも通じることで、そこから想像していくことに魅力のある文化だから」と。描かれる女性の意味深な瞳、植物や波などに象徴される湿り気、古びた畳や襖……。
『雨音』 |
『みちくさ』 |
『遠い遠い夏の日』
森口氏が時に好んで描く春画には浮世絵の伝統が、キャラクターの造形には37年前に生まれた氏が通過してきたであろう漫画文化の影響が見てとれる(出身校の京都精華大学では漫画を専攻)。以前、氏は「いろんな先輩たちが作ってきたものを見て学びつつ自分は描いている」と話し、その上で自身のオリジナリティを主に故郷に置いていた。しかし数年が経った今、私は氏の創造性が彼の絵の一層にだけ色濃くあるのだとは思わない。漫画、伝統、故郷、距離感、そして垣間見えるユーモア……様々な要素は万華鏡のように、その全てが森口氏独自の効果的な曖昧さを生み、胸のざわめく物語を想像させるシンボルになった。幾層にも及ぶ、不可解さゆえに魅惑的な闇の重なり合いは、氏が以前から滲ませていた「朧」の世界観をようやく最もオリジナルな特徴として認めさせる段階に至っているのではないだろうか。進化とは未完成を意味するのかもしれない。が、期待しないではいられない。その果てしなき闇と美の探求には、いずれ現代が深く宿るはずだと思うのである。
文=井上文
森口裕二 個展『沈黙』
開催日時=2009年1月19日(月)〜1月31日(土)
11:00-19:00(最終日は17:00)日曜休廊
会場・問い合わせ先=東京・銀座「スパンアートギャラリー」
東京都中央区銀座2-2-18 西欧ビル1F
電話 03-5524-3060
森口裕二 Moriguchi Yuji / プロフィール
1971年/徳島県生まれ。1990年/京都精華大学美術学部デザイン学科マンガ専攻入学(現・マンガ学部)同校卒業後、法面保護工事の専門作業員として現場に出ながら絵画を描く。96年に上京後、様々な雑誌にイラストを発表する傍ら、個展や企画展などを精力的に開催。
井上文 1971年生まれ。SM雑誌編集部に勤務後、フリー編集・ライターに。猥褻物を専門に、書籍・雑誌の裏方を務める。発明団体『BENRI編集室』顧問。 |
08.12.26更新 |
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