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第14章 収容所長の密かな愉しみ【1】

「所長、今週の女性収容者のリストです」

部下の松本が差し出した数十枚の用紙を井浦は受け取った。未だにコンピューターの扱いには疎い井浦は、データはいつもプリントアウトさせてから持ってこさせている。

用紙には、これから収容所に連れてこられる女性たちの全裸の写真とプロフィールデータ、そしてどんな罪を犯したのかの詳細が書かれている。

「ふん、あまり大した女はいないな。これじゃあ、公務奴隷として流れてくる女と変わらないじゃないか」

井浦はリストをパラパラとめくりながら毒づく。しかしやがて一枚の用紙で手が止まった。

「真弓、高梨真弓、16歳か……」

そこにはあどけない顔立ちでありながら、それにはそぐわない乳房を持った少女が写っていた。

「ふうん……。脱走者か」

井浦はしばらくその少女の写真を見つめていたが、他の用紙もひと通りチェックした。最後まで見ると、再び最初からもう一度見直す。

「よし、この高梨真弓と、安藤玲子って子をもらおうか」

井浦に言われて、松本がクスっと笑う。

「所長はこの二人をお選びになるだろうなと思ってましたよ。十代の子はこの二人だけですからね」

井浦は苦笑いする。

「そう言うなよ。年齢だけじゃなく、ルックスでもこの子たちくらいしか、よさそうなタマはいないじゃないか。まぁ、北尾先生の好みとはちょっと違うだろうが」
「所長の好みではありますよね」
「いや、それほどでもない」
「胸が大きすぎますか」
「ははは。そうだよ、悪かったなロリコンで」
「いえいえ、私も似たような趣味ですから」

二人は笑いあった。

未成年者の反体制思想者を矯正するための施設であるこの第八特殊収容所だが、ここにはもうひとつの顔があった。

奉仕庁の実質的トップであり、国政にも大きな影響力を持つ北尾事務次官の隠れた活動拠点となっているのだ。山奥の中に隔離されたこの収容所は、北尾の秘密の仕事には無くてはならないアジトなのだ。

それが具体的にどんな仕事なのか、井浦所長にも全貌はつかめていない。いや、自分ごとき人間が下手に首を突っ込むと、ロクなことにならない深い闇を秘めた世界の話であることを井浦は理解していた。だから、自分はただひたすらに北尾のご機嫌を取っていればいい。井浦はそう理解していた。

それで十分、甘い汁が吸える。井浦は自分の器量をよくわきまえている現実的な男だった。



貨物室のような車内だった。窓もなく、小さな電球だけの薄暗い部屋。長時間走り続けているため、時間感覚も狂い、今が昼なのか夜なのかも、よくわからない。

その小さな空間の中には、固いベンチのような椅子が向かい合わせに二つあり、それぞれに少女が座っていた。二人とも全裸で、首には皮製の武骨な首輪がつけられていた。さらに腕には腕枷、足首には足枷が鎖で繋がれている。座ったまま、身動きひとつとれない状態なのだ。

そして彼女たちの首輪は、この国ではおなじみの奴隷の身分を表す赤いものではない。その黒い首輪は犯罪者、それも国家奉仕法違反という重い罪を犯した者であることを示すものだった。

少女のひとりは、あどけない顔立ちではあるものの、胸も尻も大きくむっちりとした肉付きだった。一方、もう一人はスラリとしたスレンダーな身体つきの美少女で、そのキリっとした顔立ちは彼女が気が強くプライドも高い性格であることを示していた。

この護送車が走りだして、しばらくしてから、胸の大きな少女が小さな声で話しかけた。

「これからどんなところへ行くんでしょうか……」

しかしスレンダーな少女は黙ったまま、答えない。

「あの、私、高梨真弓といいます。奴隷期間だったのに脱走して、捕まってしまったんです。あなたは……?」

少女がそこまで言った時に、車内のスピーカーから係員の怒鳴り声が響いた。

「こら、しゃべるんじゃない!」
「は、はいっ!」

少女は身をすくめ、それからじっと黙っていた。もうひとりの少女はずっと口をつぐんだままだった。

長い長い時間が過ぎ、やがて車は停まった。外はもう暗かったが、それが何時くらいなのかは真弓たちにはわからなかった。

係員たちに首輪の鎖を引かれて、真弓たちは歩いた。そこは高い壁で回りを遮断された施設の中だった。真弓は不安げに周囲を見回す。無骨なコンクリートの建物が並んでいる。

ここが刑務所なのだろうか。国家奉仕法の違反者には、まともな裁判すら行なわれない。真弓たちは、自分たちがどんな刑を与えられるのかもわからないままに、ここへ送られてきたのだ。

もしかしたら死刑になるのかもしれない。真弓はひたすら怯えていた。しかしもう一人の少女は感情を表に出さず、無表情を守っていた。しかし、無意識に裸の身体を隠そうとしている。両腕を手枷で拘束されているために、まともには隠せないのだが。この人は、自分のように奴隷の生活をしたことがないのかもしれない、と真弓は思った。

真弓たちは、一番大きな建物の中に連れていかれた。長い廊下を歩かされ、突き当りの部屋に入れられる。

テーブルが並び、何人もの男たちが並んで座っていた。その視線が一斉に二人の少女の裸身に注がれる。真弓も、もう一人の少女も、思わず不自由な腕を前に寄せて、胸を隠そうと身体を縮こませた。

「ようこそ、第八特殊収容所へ」

中央の席の中年男がニヤニヤ笑いながら言った。

「私がここの所長の井浦だ。名前を言ってごらん」

真弓は怯えながらも震える声で答える。

「は、はい。高梨真弓、です」
「真弓ちゃんか。なかなかいいおっぱいをしてるじゃないか」
「何カップあるんだ?」
「で、Dカップです……」
「顔に似合わず巨乳じゃないか。そういや、真弓ちゃんって前にいましたね、所長。あっちは貧乳でしたけど」

男の一人がそう言うと、井浦の顔色が変わった。発言の主を睨みつける。

「あ、……すいません」

男が謝ると、井浦の表情は元に戻った。男はほっと胸を撫で下ろす。

「いくつだい?」
「じゅ、14歳です」

男たちの間から驚嘆の声が上がる。

「ほう、14歳でその胸か」
「彼女は奴隷期間中だったというから、ずいぶん揉まれて成長したのかもしれないですな」
「ははは、なるほど。下の毛も、ちゃんと生え揃っていて、もう立派な大人の身体じゃないですか。顔の方は、歳相応の幼さだけど、そのギャップもいい」

不躾に身体を批評されて、真弓は顔を真赤にする。すでに奴隷として多くの好色な目に裸身を晒してきた真弓だったが、羞恥心を捨てきれたわけではない。

井浦の隣で松本が手元の資料に目を落とし、真弓のプロフィールを説明する。

「高梨真弓は黎明学園の奉仕実習で学級奴隷になっていたんだね。ああ、あの同級生男子が逮捕された事件か」
「ああ、あったね。あの男子生徒はどうしたんだっけ? 第七収容所のほうか?」
「だったと思いますよ。こっちには入ってきてないですね」
「その学級奴隷期間中に脱走し、すぐに保護された、と。しかし、学級奴隷の奉仕期間って、一カ月かそこらだろう? それくらい耐えられなかったのかね。ええ?」

真弓はうつむいたまま黙っている。

「まぁ、いい。それじゃあ、こっちの子、名前は?」

少女は唇を一直線に結んだまま、答えない。それどころかキッと井浦を睨みつけた。

「おやおや、ずいぶん気の強そうな子だな。捕まった時にもそうとう痛い目に遭っただろうに。……まぁ、これも面白いな」

思わず、真弓が隣から声をかける。

「だめです。逆らったら、どんなにひどいことされるか……」
「真弓は黙っていろ」

松本から鋭い声が飛び、真弓は肩をすくめた。井浦が合図をすると、壁際に並んで立っていた大柄な係員が二人、少女の両脇から腕をつかんだ。

「い、いやっ」

少女が初めて声を発した。しかし屈強な係員はそのまま両腕を高く上げた。体格差があるため、少女は吊り上げられてしまう。身体が一直線に伸び、全てが露になる。

別の係員が壁のスイッチを押すと、天井から鎖が降りてきた。係員が少女の腕枷をそれにつなげる。少女は天井から吊られた。つま先が床に付くか、付かないかという高さだ。

「あ、う……」

少女が苦痛の声を漏らすと、男たちは笑った。

「なかなかいい格好ですよ。裸が丸見えだ」
「真弓ちゃんと比べると、おっぱいもお尻も貧弱ですな。ほれ、胸なんてぺったんこだ」
「吊られてるから平らになってるんですよ。もっとも、そうじゃなくても、だいぶ貧乳みたいですがね」
「下のほうも、ずいぶん寂しい生えっぷりのようですよ。真弓ちゃんより年上じゃないのかな?」

男たちに下品な言葉を浴びせられ、少女は恥辱に震える。歯を食いしばっている。

「彼女は、安藤玲子。17歳。同級生の一般人を奴隷扱いして逮捕されていますね」

松本が玲子のプロフィールを読み上げた。

「へぇ、同級生を。それじゃ、女王様の気があるというわけか。可愛い顔してすごいな」
「いいんじゃないですか。こういう生意気そうな子ほど、面白いですよ」
「しかし、14歳の真弓に比べて、この貧弱な身体はどうでしょうねぇ」

玲子の身体は、スラリとした均整のとれたプロポーションだ。確かにボリュームは無いが、十分に美しく、貧弱な印象はない。しかし男たちは、彼女を貶めるために、わざと真弓と比べて、胸の小ささをはやし立てた。

「見事なくらいにぺったんこじゃないですか。まるで男の子みたいだ」
「これは、奴隷として公示されても、買い手が付かなくて公務奴隷行きじゃないですか?」
「いやいや、こういう胸がいいという人も多いですよ。私も好きですし。ねぇ、所長」

松本に同意を求められて、井浦は苦笑する。

「そうですね。貧乳、結構じゃないですか。顔は真弓ちゃんのほうが好みですが、身体は玲子さんのほうが好きですよ、私は」
「所長はロリコンだからなぁ」

男たちはどっと笑った。

しかし、玲子は唇をかみしめて震えていた。きつくつぶった目には涙が滲んでいる。

「まぁ、ともかく、こんな態度は、ここでは通用しないということを、ちゃんと教えてあげなくちゃいけませんね」
「その前に、身体検査といきましょうか。この生意気な女王様の身体を、しっかりと調べておかないとね」

係員が天井から降りてきた鎖を、玲子の両足枷につないだ。

「さぁ、盛大におっぴろげていただきましょうかね」

係員がスイッチを入れると、ガラガラガラと不気味な音を立てて鎖が天井へと巻き上げられていった。
(続く)

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12.01.09更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪