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第4章 女教師・美沙子【1】


「この子、ずいぶん細いけど、けっこう可愛いみたいだぞ。ちぇっ、顔見せてくれればいいのに」

おれは思わずモニター画面を見ながらつぶやいた。スレンダーな女だった。手足も細く、胸の膨らみもほとんどないくらいだ。そして、縛られて思い切り左右に開かれている股間には、陰毛は全くない。ツルツルの下腹部の中央で割れ目がパックリと口を開けていた。

女はずいぶん若いみたいだ。もしかしたら、奴隷の最年少である15歳なのかもしれない。いずれにせよ、おれとあまり変わらない年齢だろう。

大きなアイマスクを着けられているため、顔の半分は見えないのだが、鼻と口だけでも、相当な美少女であることはわかる。

「ああん、そこは……、ああ……、ご主人様……」

女が甘い喘ぎ声を上げている。ご主人様と呼ばれた男は、さっきから執拗にこの女の肛門を責めている。指から始まって、アナル用のバイブを少しずつ太いものへと変えながら、どんどん挿入していく。小さくて可愛らしい窄まりに思えたその女の肛門は、そんな道具もスムーズに飲み込んでいく。そして、その度に悩ましい声を上げ、無毛の肉裂から、だらだらと愛液を溢れさせるのだ。

画面には、腕しか見せないこの「ご主人様」は、この女の肛門をきっちりと調教しているようだ。ずいぶん若いであろうこの女をここまで肛門責めで感じさせるなんて、たいした腕前だとは思う。

でも、おれなら、もっと上手くやれるのに……、なんてつい思ってしまうが、そんなことは夢物語に過ぎない。なにしろ、おれはご主人様になれる年齢でもないし、たとえその年齢に達したとしても、それだけの金を稼げるようになれるとは思えない。きっと、ずっとこうやって、他人の調教するところを見て、悶々とするしかないのだ。

こうやって、調教サイトに忍び込んで、毎晩のようにこっそり覗いているから、いっぱしのご主人様気分になってはいるが、実際のおれは調教どころか、普通のセックスだってしたことがない童貞の中学生なのだ。

モニター画面の中では、巨大なアナルバイブで責められた女が、何度目かの絶頂に達していた。でも、おれは何だか虚しくなってしまって、そのサイトからログオフした。

おれがそこにアクセスしていた痕跡を完全に消すように細工することも忘れてはならない。本来、ご主人様どころか、成年ですらないおれが見ることは禁止されているサイトなのだから。

この「MASTER'S ROOM」というサイトの存在を知ったのは、数カ月前のことだ。ネットで知り合いになったネイルという人から教えてもらった。SM系のマニアが集まるコミュニティサイトに、おれはポプリというハンドルネームで出入りしていた。もちろん中学生だということは隠している。

SMプレイどころか、セックスも、いや女の子と付き合ったことすらないおれだけれど、小学生の頃からネットに没頭してきたおかげで知識だけは十二分にあった。中には、彼女とのSMプレイの相談を、おれにしてくる奴までいた。おれは聞きかじりの知識で、もっともらしく答えてやった。

ネイルとは話が合って、すぐに直にメッセージをやりとりする仲になった。何十年も前のとある少年漫画がそのきっかけだった。まだ少年漫画の世界が、おおらかだった頃に連載されていたそのギャグ漫画は、少女がSMチックなおしおきをされるシーンが満載で、当時それを読んでSMに目覚めたという人が多かったらしい。実はおれは、父親が物置に溜め込んでいた漫画のコレクションの中からその作品を見つけて、ハマってしまった。

もちろん今の成人向けの漫画に比べれば絵も稚拙だし、内容だってソフトなものだが、おれの琴線に触れた。

なによりも女の子たちが、裸を見られることを恥ずかしがっているのがいい。当時の女の子たちが本当にそうだったのかわからないが、今のおれの同世代の女たちは、下ネタも平気だし、どうやらセックスもバンバンやってるらしい。女が恥じらうからこそ、男は興奮するのに、それをわかっていないのだ。

話の内容からすると、どうやらネイルはおれの父親と同じくらいの年齢らしい。おれはボロが出ないように気をつけながら、メッセージをやりとりしていたので、たぶん向こうはおれも同世代より少し下くらいだと思っているようだ。

ある時、おれがネイルの探していた昔のアイドルの水着画像を見つけてあげた時に、お礼として「絶対に内緒にして下さいね」と教えてくれたのが「MASTER'S
ROOM」のアクセス方法だった。

国民奉仕法では、奴隷となった女性の画像や映像などを公開することは禁じられている。が、実際にはポロポロと漏れてくるのだ。このネット時代に完全にシャットアウトすることは不可能だろう。

SM趣味のある者にとっては、ご主人様となって奴隷を調教することは憧れだけれど、それだけの金額を払える者となると限られてしまう。何かで大儲けするか、コツコツと貯金をするか。上玉の奴隷となれば、入札勝負となり、よほどの金額をつぎ込まなければ落札することは出来ない。

おれのように、半ば引きこもりのような人間には、たぶん縁のない話だろう。だから、たまにネットに流れてくる奴隷調教の画像や映像を地道にコレクションするしかない。

ところがネイルが教えてくれた「MASTER'S ROOM」というサイトはご主人様、つまり奴隷を所持する人間限定の会員制の秘密サイトだった。ご主人様同士が、自分たちの調教の様子を見せ合うという趣旨なのだ。

だからその存在すらも外部の者には漏らしてはいけないと言う。おれもネイルから教えてもらうまで、噂にも聞いたことがなかったくらいだ。

ネイルがどんなきっかけで、このサイトに潜り込むことができたのかはわからないが、とにかく彼の指示に従って、たどり着くことができた。どうやらそこそこのハッカーであるネイルは、部外者がアクセスした痕跡を残さないようにする方法まで、教えてくれた。

おれのような趣味を持つ者には「MASTER'S ROOM」は天国だった。多くの奴隷の調教過程が大量にアップされているし、クローズドサイトなので、性器の修正もない。

そして何より、リアルなのだ。演技ではない、本当のプレイ。それも普通のSM系サイトにアップされるカップルによる同意の上の和気あいあいとしたプレイではない。本気で恥ずかしがり、嫌がっているSMプレイなのだ。国民奉仕法という法律によって、人権を剥奪されてしまった女が、それまで見ず知らずだった男の前で裸にされ、淫らな調教を受けて、従順な奴隷になっていくその一部始終を見ることが出来る。しかも「MASTER'S ROOM」にアップロードされている映像や画像は膨大だった。それらは、ジャンルによって無数のスレッドに分類されているので、自分の好みのプレイを見ることが出来る。

たとえば、肉体を痛めつけるようなハードプレイ(国民奉仕法では、肉体に傷を残すような行為は原則として禁止されているのだが)や、あまりに変態的なプレイは好みではないので、おれはほとんど見ていない。

お気に入りは、初めての調教など奴隷が羞恥している姿が楽しめるジャンルだ。恥ずかしがる奴隷をアナル責めするものなども、大好きでよく見ている。

またプレイを実況中継しているご主人様も多い。どんな展開になるかわからない生々しさがたまらなくて、思わずのめり込んで見てしまう。連続してイカセ責めをしていた時に、奴隷が突然ぐったりして、まったく動かなくなってしまった実況を見てしまった時は、後味が悪かった。あの奴隷はどうなってしまったのだろう。国民奉仕法では、奴隷が死傷した場合、ご主人様には重い処罰が下されてしまうはずだが……。

そんな風にしておれは「MASTER'S ROOM」にハマってしまったのだが、見ながらオナニーをした後、いつも虚しくなってしまう。自分は、結局奴隷を所有することも出来ないだろうし、それどころか、このままだとちゃんとした仕事にもつけないだろう。調教どころか、女の子と付き合うことも、セックスすることも出来ないだろう。

おれは、学校に通うことすらまともに出来ない落ちこぼれの中学二年生でしかない。残念ながら、それが現実なのだ。



おれのパソコンの中には、膨大な量のエロ画像や映像が眠っている。何年にもわたってネットを巡り、コツコツとためこんだコレクションだ。ちょっとやそっとじゃ入手できないようなレアなものや、ヤバいものもたくさんある。おれは童貞の中学二年生でありながら、あらゆるセックスの知識を把握しているのだ。

それでも、よく使うネタというのは、どうしても決まってくる。コレクションのほとんどは、一回見ただけで二度と再生されることはない。いや、一回も見たことのないままのデータも多い。一方、使うネタは細かいところまで暗記してしまうほど、繰り返し使う。

今、一番のお気に入りは「MASTER'S ROOM」で「美沙子」と呼ばれる奴隷のものだ。少し前にアップロードされたらしい一連の動画で、添付されていたデータによれば、20歳の女子大生らしい。もっとも数年前のデータなので、今はもう少し年がいってるはずだが。

最初は本当に清純そうで、むしろ少し野暮ったいくらいの処女だったのが、調教が進むにつれて、立派なマゾへと成長していった。このご主人様の趣味が羞恥責めとアナル責めが中心と、おれの趣味にストライクだったのもいい。

「MASTER'S ROOM」にアップされている映像のほとんどは、奴隷の顔を隠している。映像を流出させたことが当局に知れると罪に問われるからだ。奴隷と自分の素性がわからないようにするのが普通だ。

しかしたまに、神経が太いのか、バカなのか、奴隷の顔を堂々と映してしまうご主人様もいる。やはりそうした奴隷の映像は、人気が高い。この「美沙子」モノもそうした理由と、そして何よりも美沙子本人の美しさと反応のよさで、歴代「MASTER'S ROOM」ファイルの中でもトップクラスの人気を誇っていた。

長く艶のある黒髪と愛らしい顔立ち。やや垂れ目なのと、目の左下のところにある泣きぼくろが、妙に色気があるのもよかった。そしてEカップはありそうな形のいい美乳はもちろん、おれとしては型くずれ一つない彼女の肛門に何よりも惹かれた。綺麗な窄まりなのに、興奮してくるとヒクヒクと卑猥な動きをするのだ。あれを初めて見たときは、感動して5回くらい連続でオナニーしてしまったっけ。

おれが学校を休むようになったのは一年の二学期くらいからだ。特に理由があったわけではない。なんとなく、人と会うのが億劫になってしまったのだ。同級生も子供みたいな奴ばかりで話が合わない。それでも最初はなんとか話を合わせようと努力していたのだが、だんだんバカバカしくなった。

一度、仮病を使って休んでみたら、すごく楽だった。同級生のバカどもと話すより、ネットの仲間とのコミュニケーションのほうがよっぽど楽しいし、話も合う。そんな風に、休んでいるうちに、だんだん登校しづらくなってしまった。

それでも、一週間のうち、半分くらいはちゃんと登校はしているのだ。何日以上休むと不登校のレッテルを貼られるのかは知らないが、自分では少しズル休みが多いくらいのつもりでいる。もっとも、友達と呼べるような奴はいないし、授業内容もあまり聞いていないのだが。

当然、学校の情報にも疎くなっている。だから、突然に担任教師が変わるなんて話も初耳だった。それまでの担任だった山本が、急病(なんとか癌らしい)で退職し、新しい担任がその日にやって来たので驚いた。

同級生たちは、新しい担任のことを少なからず聞いていたらしい。

「若くて綺麗な女の先生らしいぜ」
「おれ、ちょっと見たけど、巨乳だぜ、巨乳」

そんな会話がいやでも耳に入ってきた。美人教師か。前のゴリラみたいな中年男だった山本よりは、そりゃあ美人のほうがいいけれど、だからといってどうということもない。先生なんて、みんな同じで、底の浅い話を繰り返すばかりの存在だ。

それに美人教師なんて言っても、たいていが並よりちょっといいくらいなものだ。美人スポーツ選手とか美人作家と一緒だ。AVに出たら、企画単体にも慣れないようなレベルばかりだ。

おれはそんなことを思っていたのだが、ホームルームの時間に教室に入ってきた、その女教師は、確かに美人だった。入ってきた途端に、教室に歓声が上がったほどだ。

白いブラウスに紺のタイトスカートという地味な服装、そしてまっすぐ肩まで伸びた黒髪とフチなしの眼鏡はいかにも女教師然としていたが、彼女が掛け値なしの美人だということは隠せない。

「おはよう。今日からこのクラスを担任することになりました」

ハキハキした声で挨拶すると、黒板に自分の名前を書いた。

「佐伯麗子といいます。よろしくね」

しかし、おれは彼女を別の名前で知っていた。あの泣きぼくろ、間違いない。

美沙子だ。

(続く)

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10.01.18更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪
文=小林電人 |