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第8章 体育教師・けい子【4】

「本当に綺麗なおっぱいね。嫉妬するよりも、憧れちゃうわ」

玲子はそう言いながら、けい子の乳房を優しく揉んだ。すべすべとした少女のてのひらが、乳房を撫で回す。その絶妙な動きは、とても高校生の少女のものとは思えないほど、けい子の官能を刺激した。それは荒っぽいばかりだった長谷川の愛撫とは全く違った。

いけないと思いつつも、けい子は沸き上がってくる快感を押し殺すことは出来なくなる。

「あ、だめ……」

甘い声が漏れてしまう。

「ふふふ、パパよりも、いいでしょ? けい子先生は男なんかじゃ、本当に気持ちよくなれないんだもんね」
「ち、違うわ……」

認めたくなかった。けい子は自分は同性愛者ではないと思いたかった。ちゃんと男性に対して恋愛感情は持てるのだから、自分は普通なのだと。

そして、女性にのみ性欲を感じるという事実が、さらにけい子を頑なにさせていた。自分の中に、そんないやらしい気持ちがあることも認めたくないのだ。

しかし、玲子の愛撫はあまりにも巧妙だった。指の動きのひとつひとつが、けい子の性感帯を的確に刺激するのだ。

「ふふふ、もうこんなに硬くなっちゃってるよ、先生」

玲子の指先が、勃起した乳首をつまんだ瞬間、とんでもない快感が全身を貫いた。

「ああっ……」

両手首を天井から吊られた不自由な体を、けい子は激しくくねらせた。さっきまで、長谷川に何度となく絶頂を迎えさせられていたが、その時に覚えていた快感と、玲子から与えられる快感は全く違うことにけい子は気づいた。力ずくで無理矢理イカされる長谷川の愛撫に比べて、玲子のそれは体の、そして心の奥から快感が沸き上がってくるのだ。

決して玲子に対して恋愛感情を持っているわけではない。むしろ彼女に対しては嫌悪感と恐怖感があるくらいだ。それなのに、女性から愛撫されているという事実が、けい子の官能を燃え上がらせてしまうのだ。

玲子が乳首に舌を這わせたり、軽く噛んだりし始めると、その炎は一段と燃え上がる。もうまともに立っていられないほどだ。

「あっ、あっ、ああ〜ん」

もう耐えることも忘れて、けい子は悩ましげな声を上げてしまう。快感の波の中に理性がどんどん押し流されていく。

「ふふふ、本当に可愛いわ、けい子先生。でもおっぱいだけでこんなになってるんじゃ、アソコを責めたら、いったいどうなっちゃうのかしらね」

小悪魔のような笑顔で玲子は言う。それはけい子がもっとも恐れていることだった。すでにその部分からトロトロと熱い樹液が溢れ出しているのは自分でもわかった。こんなになっていると玲子に知れたら……。

教え子だった女生徒にここまで燃えさせられてしまっている羞恥と屈辱。この後、自分はどうなってしまうのかという恐怖。そして、快感への期待がけい子の心の中で膨れ上がっていく。

その時だった。コンコン、と調教室のドアを叩く音がした。

「ふふふ、来たみたいね。けい子先生がきっと会いたかった人よ」

玲子はけい子の顔を覗き込むようにして、意味ありげに笑う。そしてドアに向かって、大きな声で言った。

「いいわ、入って」

ドアが開いて、入ってきたのは、けい子の学校とも玲子の学校とも違う制服を着た小柄な少女だった。前髪を揃えて切った黒髪と、真っ白な肌、そしてあどけない表情が少女を年齢よりもずっと幼く見せていた。

「ひ、ひかりさん……」

けい子は信じられないという表情で、その少女を見た。半年以上前に、転校していった教え子の女生徒だった。そしてけい子と彼女の間には、忘れることのできない「事件」があったのだ。

「けい子先生……。会いたかったわ」

ひかりは、うっすらと涙を浮かべて、けい子を見た。全裸で天井から吊り下げられているという姿に驚いている様子はない。

「ふふふ、ひかりちゃん、先生のこんな姿、見たことなかったでしょ?」
「綺麗……」

ひかりは、吊り下げられているけい子に近づくと、その全身に視線を這わせた。

「だめ、見ないで……」

ひかりに生まれたままの姿を見られる羞恥に、けい子は身をよじった。長谷川と玲子にさんざん見られた身体ではあっても、また新たに元教え子に見られるのは恥ずかしい。

「ひかりちゃん。先生を好きにしていいわよ。そうしたかったんでしょ」

玲子に言われて、ひかりは少し悲しげな表情になって、顔を伏せる。

「でも……、そんなこと……」
「いいのよ、だってけい子先生は、私の奴隷になったんだもん。これから二年間、けい子先生は私の言うことなら、何でも聞くの。ひかりちゃんと愛し合いなさいっていったら、その通りにしないといけないの」
「でも……」

ひかりは、まだ目を伏せている。その態度に、玲子は少しいらついたようだった。声を荒らげて言う。

「早くしなさいよ。ぐずぐずしてたら、もうあなたを帰らせて、私ひとりのものにしちゃうわよ」

その声に、ひかりはビクっと肩をすくめる。怯えた表情で玲子を見る。

「はい……、わかりました」
「私がせっかくあなたのためを思って呼んであげたのに……。今さら恥ずかしがること、ないでしょ?」
「はい。ごめんなさい」
「じゃあ、先生ひとり裸にさせておいたら、可哀想よね。じっくり愛し合いたいでしょ。あなたも裸になったら」

ひかりは、少しだけ唇を噛んでうつむいていたが、やがて力なく頷いた。

「はい」

制服を一枚一枚脱いでいく。高校二年生というには、ずいぶん華奢な身体が露になっていく。胸もほとんど膨らんでおらず、腰回りの肉付きも貧弱だ。まるで少年のような身体つきだった。

下着だけの姿になると、ひかりは玲子を見た。玲子が頷くと、ひかりは諦めたようにブラジャーのホックを取り、そしてショーツを下ろした。

「ひかり、さん……」

全く状況が飲み込めないままに、二人のやりとりを見ていたけい子だったが、ひかりが自分の前で全裸になると、思わず顔を赤らめて目を逸らした。

ひかりは恥ずかしそうに胸と股間を手で隠している。

「さぁ、私のことは気にしないで、先生と愛し合いなさいよ。ずっと夢見てたんでしょ」
「は、はい……」

ひかりは、おずおずとけい子に近づいていく。

「ひかりさん、何を……」

けい子のその口をひかりの唇が塞いだ。

それは半年ぶりの感触だった。あの時の記憶が一気に蘇ってきた。


少し前から、真島ひかりの様子がおかしいことにけい子は気づいていた。ひかりは、これまであまり接点のない安藤玲子たちのグループと一緒にいることを見かけることが多くなっていた。少なくとも居心地がよさそうには見えない。どうも無理矢理つきあわされているようなのだ。はっきりと、いじめの現場を見たわけではないが、その徴候は感じられる。けい子は、注意してひかりの様子を見ていた。

そしてある時、進路相談という名目で、放課後にひかりを相談室に呼び出して、話を聞くことにした。

殺風景な相談室のテーブルの向こう側に座っているたひかりは、可哀想になるほど緊張していた。ただでさえ、華奢で幼く見えるひかりだ。けい子は、なんだか自分が彼女をいじめているような気になってしまう。

「そんな、緊張しなくていいのよ、真島さん。ちょっとお話を聞きたいだけなんだから」
「は、はい……」

ひかりは怯えた小動物のような態度のままだった。けい子は肩をすくめた。

「最近、安藤さんたちとよく遊んでいるみたいだけど……」

玲子の名前を聞いた途端に、ひかりはさらに怯えたような表情になった。これは、何かあるな、とけい子は直感した。

「もしかして、無理矢理つきあわされたりしてるんじゃないの?」
「い、いえ、違います」

ひかりはすぐに否定した。しかし声が震えている。何もない者の態度ではない。

「大丈夫、先生にだけ教えてちょうだい。もし、安藤さんたちに何かされてるんだったら……」
「何もないです。本当です。玲子さんは、私が引っ込み思案だから心配してくれて、仲間に入れてくれてるんです」

それ以上の介入を拒むような頑なな表情だった。これはもう少し、自分を信頼させないといけないな、とけい子は考えた。大人しく目立たないひかりとは、これまでちゃんと話したことが、あまりなかった。

まずはリラックスさせて、信頼関係を築いてからだ。そう考えたけい子は立ち上がって、ひかりの隣の椅子に座った。椅子は並んでいるので、二人は身体が少しくっつくほどに接近した。

女の子らしい汗の甘い匂いがした。トレードマークのジャージ越しに、けい子はひかりの体温を感じた。

一瞬だけ「この子、可愛いな」とけい子は考えてしまう。けい子は、妄想の中で線の細い年下の女の子に責められるのが好きだった。今まであまり気にしていなかったけれど、ひかりはそんなタイプだ。

しかし、けい子は慌ててその考えを振り払う。一瞬でもそんなことを想像してしまった自分は聖職者として失格だ。なんて不謹慎なことを考えてしまったのだろう。

そう自分を責めていた時だった。ひかりが自分の顔を覗き込むようにして見ていることに気づいた。自分の卑猥な妄想を見透かされているかのようで、ドキリとした。

ひかりは、潤んだ目でけい子をまっすぐ見ていた。

「な、何? 真島さん……」

ひかりは黙ってけい子を見つめる。けい子はたじろぐ。喉がカラカラになってしまう。

しばらくして、ひかりが口を開く。

「先生……」

その一瞬後、ひかりはけい子に抱きついてきた。そして、唇を合わせて来たのだ。

「?!」

一体何が起きたのか、けい子はわからなかった。目を丸くして呆然とするけい子を、ひかりは強く抱きしめ、唇を押し付けてくる。柔らかく、なめらかな感触だった。

それまでに何人かのボーイフレンドのいたけい子には、キスの経験も何度かあった。しかし、それはけい子に嫌悪感をもたらすだけの行為だった。男の唇は、なんだか不快な感触で、むさくるしい匂いも嫌だった。いつも、相手が強引に迫ってきて、それをけい子が拒む。そんなことが繰り返された。だから、男性とそれ以上の行為をするなど、全く考えられもしない。それはどんなに好きな男性が相手でも同じだった。男性と身体を触れ合わせるのは、たまらなく嫌だったのだ。

それに比べて、ひかりの唇はなんて素晴らしい感触なんだろう。それはけい子の身体にとろけさせるような快感をもたらした。無意識のうちに、けい子の唇は開いて、ひかりの舌を受け入れてしまう。そして、舌と舌が触れ合う未知の快感がけい子を襲った。

「あ、あ……」

男には絶対許したことのないディープキス。混乱しつつも、けい子は全身の力が抜けてしまい、もうひかりに逆らえない状態になっていた。

(続く)

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10.11.15更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪
文=小林電人 |