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赤い首輪 
第2章 若妻・麻美【1】

著者=
小林電人


全ての国民は2年間、国に全てを捧げて奉仕する義務がある――。日本によく似た、しかし異なる某国で「奉仕者」の立場に転落した女たちが辿る、絶対服従の日々。飼育・調教が法律によって認められた世界で繰り広げられる、 異色エロティックロマン!
 
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第2章 若妻・麻美【1】


布団の上で穏やかな寝息を立てている我が子の寝顔を見ながら、市川麻美は哀しげに微笑み、そっとつぶやいた。

「祐美ちゃん、ちゃんとお父さんの言うことを聞いていい子でいるのよ」

今日は祐美の2歳の誕生日だった。そしてこれから2年間、麻美は祐美に会うことが出来ないのだ。

「大丈夫だよ。祐美はいい子だからな。いざとなったらお義母さんもいるし。お前は何も心配しなくていい」

祐美を覗き込んでいる麻美を、背後からそっと抱きしめたのは夫の義範だった。そう、娘だけではない。これからの2年間は夫とも会うことは出来ないのだ。

「義範さん。私、怖い」

麻美は義範の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。祐美が目を覚まさないように声を押し殺して。

「仕方ないだろう。これは国の決まりなんだ。つらいだろうけど2年間、歯を食いしばって耐えるんだ」

麻美と義範は高校時代にテニス部の先輩後輩として出会い、それから12年間、二人は常に一緒だった。いや、義範が兵役についていた2年間を除けば、だ。

義範が兵役から戻ってきて、二人はすぐに結婚した。義範が26歳、麻美が24歳だった。そして1年後に祐美が生まれた。

麻美の下へ「赤紙」が届いたのは、祐美が産まれて2カ月後のことだった。国民奉仕法では、母親が奉仕者として選出された場合、子供が二歳になるまで猶予が与えられることになっている。

祐美が2歳となった今日が猶予の最終日なのだ。明日から麻美は2年間、一切の人権を剥奪された奴隷として生きていかなければならない。

「私、町田屋さんの奴隷になるなんて、耐えられない。どうしてそんなことしなくちゃいけないの。ああ……」
「国が決めたことだ。あまり余計なことを言わないほうがいい」

つらいのは義範も同じだ。近所の肉屋である町田屋の主人が、以前から麻美を好色な目で見ていたことは知っていた。町田屋の主人が変態趣味を持っていることは町内では周知の事実だ。数年前に若い妻をもらったが、すぐに離婚したのは、夫の変態趣味に耐え切れずに逃げ出したのだと噂になった。

そんな男に愛する妻を差し出さなければならないのだ。あのでっぷりと太った醜い中年男に、麻美の美しい肉体が組み敷かれているところを想像すると、義範は身が切り裂かれそうな気持ちになる。

しかし、国民奉仕法を批判することは、許されないのだ。どこから話が漏れて、国の耳に入ってしまうかわからない。あらゆる発言の自由が認められている我が国だが、体制の批判だけは一切許されていないのだ。

どんなにつらくても、この2年間は死んだ気になって耐えなければならない。

「麻美……」
「義範さん」

二人は唇を合わせ、強く抱きしめあった。麻美の長い黒髪が揺れる。義範は、麻美のパジャマを脱がす。風呂上がりでブラジャーをつけていないので、豊満な乳房が露になる。ボリュームのある釣鐘型。授乳していた時には黒味を帯びていた乳首だが、もうずいぶん色素が抜けて、とても経産婦のものとは思えない。体のラインにも崩れは見られないし、妊娠線も残っていない。しかし、出産前と比べると、ぐっと女らしい肉づきとなっている。女性ホルモンが活発化したからだろうか。男なら誰でもむしゃぶりつきたくなるような肉体へと成長していた。

義範は、別れを惜しむかのように麻美の全身に舌を這わせた。その優しい舌の感触は麻美の官能を狂おしいほどに燃え盛らせた。

「ああん、義範さん……」

義範の舌と指がどこに触れようと、それは強烈な快感となって麻美を痺れさせる。二人が始めて体を交えてから8年間。技巧に長けた訳ではない義範だったが、それでも麻美の肉体は十分に開花させられていた。

「すごいよ、麻美。もうこんなにびしょびしょになってる……」

そこに指を触れさせた夫が指摘する通り、麻美の秘裂からはとめどなく蜜があふれ、陰毛はぐっしょりと濡れていた。いや、その下のシーツまでも、それはしたたり落ち、はっきりと染みを作っていた。

「ああ、恥ずかしい……。電気を消して」

麻美は顔を真っ赤にしながら、義範に灯りを消すようにお願いした。人一倍羞恥心の強い麻美はセックスする時は、いつも照明を消してしまう。義範としては、その美しい体をじっくり眺めたいという欲求もあるのだが、明るいままだと麻美は恥ずかしさで緊張してしまい、セックスを楽しむことが出来なくなるのだ。それでも何度か試みたことはあったのだが、そのあまりに固い反応に、義範はあきらめた。セックスはやはりお互いが最高に感じられる状態でするべきだからだ。

「あっ、ああっ!」

暗闇の中で麻美が小さく叫ぶ。すぐ隣で寝ている祐美を起こさないように必死に声を押し殺しているのだが、それでも不意に秘唇を舐められた快感には堪えきれない。

義範の舌先が最も敏感な突起に触れると、麻美は体を激しく仰け反らせる。

「はあうっ」

もう2年間、義範と愛し合うことができないのかと思うと、より快感は強まるような気がした。いつもなら、恥ずかしくてあまり好きではないクンニリングスだが、今日はとことんまで感じてしまいたかった。

結局、麻美は珍しく舌で一度絶頂まで追い上げられてしまった。そしてその後は、自ら積極的に義範のペニスを口で愛撫した。フェラチオもあまり得意ではなかったが、今夜は別だ。夫の分身をとことんまで愛したいと思ったのだ。

テクニック的には稚拙なものだったが、それでも義範は危うく射精してしまいそうになるほど感じてしまった。

慌てて挿入する。もちろん正常位だ。義範の希望でその他の体位も試したことは何度かあったのだが、麻美の心理的抵抗が大きく、心から楽しめなかったので、いつしか正常位だけということになっていた。

それでも二人は十分に満足することが出来るのだ。二人で体をつなぎ、抱きしめ合うだけで、とろけるような快感があるのだから。

その夜、二人は二回愛し合い、そして抱き合いながら眠った。



「よく来てくれましたね、奥さん」
町田は満面の笑みで麻美を出迎えた。42歳のはずだが、髪の毛が薄く、てらてらと脂ぎった肥満したその外見は10歳くらい上の年齢に見える。

町田屋ミートショップは、この町の商店街では古くから営業している大きな店舗であり、不動産も多く所持し、相当な資産家という話だ。商店街組合の役員も勤め、町内では発言力も大きい。

しかし主婦たちの間では、町田の脂ぎったルックスが嫌われていた。また女性と見ると品定めするようにジロジロと全身を眺める目つきも非難の的だった。それでも、この町で生活するとなれば、町田屋ミートショップを利用するしかない。品質はよく、安いので肉屋としては一級品なのだ。

麻美も仕方なく町田屋ミートショップで買物をしていたのだが、その度に町田にいやらしい目で見られて閉口していた。

「いやぁ、今日もお美しいですなぁ、市川さんの奥さん。こんな美人と結婚した義範君が羨ましいですよ」

町田は麻美と顔を合わせる度に、そんなことを言う。地元の結びつきが強い町なので、町田は子供の頃から義範を知っているし、二人の結婚式にも町田は出席しているのだ。

主婦の間の噂で聞いたのだが、商店街組合の飲みの席で、町田が「市川の奥さんを一度でもいいからヒイヒイ言わせてみたい」と言っていたというのだ。それを聞いた時は、吐き気がするほど不快な気持ちになったものだ。なにしろ町田は、やっと手に入れた若妻が逃げ出してしまうほどの変態趣味の持ち主だと知っているからだ。それはどうやら縛ったり叩いたりして喜びを得るSM趣味というらしいが、性的な話が苦手な麻美にはよくわからなかった。とにかく町田が麻美に変態的な行為をしてみたいと言ったことは間違いないらしい。それ以降、麻美は極力、町田を避けるようにしていた。

それほど毛嫌いしていた男に、これから2年間奴隷として仕えるのだ。どんないやらしいことをされても耐えなければならない。麻美は自分の運命を呪う。

しかし、町田からすれば夢がかなったのだ。これから憧れの美人妻を好き放題にできるとなれば、嬉しくないわけがない。麻美が奉仕者となると聞いた時は、天にも昇る気持ちだった。金には糸目を付けずに入札に挑み、見事に麻美の主人となる権利を獲得した。

「これから2年間、よろしくお願いしますよ、奥さん」

町田は清楚な白いワンピース姿の麻美の全身を上から下までじっくりと眺めた。そのいやらしい視線に、麻美は身震いする。
「これから私は町田さんの奴隷となるのです。奥さんではなくて麻美と呼び捨てにしていただいて結構です」

麻美がそういうと、町田はちょっと驚いたような表情をしたが、すぐにまた脂ぎった笑顔に戻る。
「ああ、そうですねぇ。でも、なかなかすぐには変えられないものでね。それに奥さんと呼んだほうが私にはしっくりくるなぁ。しばらくはそう呼ばせてもらいますよ。ただし……」

町田の顔から笑いが消えた。ぞっとするような冷酷な表情になる。町田のそんな顔を見るのは初めてだった。

「私のことはご主人様と呼んでもらいますよ。そして私の命令には絶対服従。いいですね」
「は、はい。よろしくお願いいたします、ご主人様」

麻美は床の上で土下座をする。もうこの男の奴隷として過ごすことは避けられないのだ。それならば素直に運命に従うつもりだった。

「いい心がけですね、奥さん。それじゃあ、さっそく奴隷の証をつけましょうか」

町田は赤い革製の首輪を取り出した。

奴隷であることを証明する赤い首輪。これをつけている間は、一切の人権を剥奪されてしまうのだ。

「ああ……」

鈍い金属と共に麻美の首に赤い首輪がロックされた。これから2年間、これは外れることはないのだ。麻美は思わず哀しみの声を漏らした。

「さて、これで奥さんは正式に私の奴隷となったわけだ。さっそくですが、奥さんがこれから過ごす部屋に案内しましょうか」

丁寧な口調でそう言いながらも、町田は麻美の首輪から伸びている鎖を引っ張り、家畜を誘導するかのように、家の奥へと連れて行った。

町田屋ミートショップの店舗と隣接して建てられている町田の自宅は、旧家らしい大きな木造家屋だった。町田はこの家で、老母の佐知子と二人で暮らしている。佐知子は今は不在のようだ。
「さぁ、こちらですよ」

屋敷の奥まったところに古びた木製の扉があり、それを開くと、地下へ続く階段あった。

「もともとは防空壕として作られたみたいなんですけど、戦後は倉庫として使われていてね」

麻美は町田に鎖で引かれながら、薄暗い階段を降りていく。不安そうな麻美の表情をちらりと見て、町田はニヤリと笑った。

「私の代になってから、ちょっと改造したんですよ。私の趣味を楽しめる空間にね」

そこは10畳ほどの部屋だった。壁は一面鏡張りになり、麻美が見たことのない奇妙が器具がいくつも並んでいた。

「ここは?」

麻美は本能的にそこが恐ろしい目的で作られた部屋だということを感じた。

「ここが奥さんの部屋ですよ。いや、正式言えば、奥さんを辱めるために作られた部屋です。ふふふ……」

(続く)


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09.08.31更新 | WEBスナイパー  >  赤い首輪
文=小林電人 |