毎週土曜日更新!
Alice who wishes confinement
私の居場所はどこにあるの――女児誘拐の不穏なニュースを観ながら倒錯した欲望に駆られた女子高生が体験する、エロティックでキケンで悩み多き冒険。理想と現実の狭間で揺れ動く乙女心とアブノーマルな性の交点に生まれる現代のロリータ・ファンタジー。オナニーマエストロ遠藤遊佐の作家デビュー作品!!目が覚めて頭を起こそうとした瞬間、ひどい頭痛が走った。
――何これ、痛い……。
思わず頭を抑えようとしたけれど、できなかった。手ぬぐいで両手両足を縛られているからだ。声が出せないよう口には猿轡をかまされているようで、少し息が苦しかった。
目の前の風景は、見慣れた自分の部屋のものではない。私は一体どこにいるんだろう……。覚えている最後の場面は、そう、あの公園での小さなブランコに腰掛け携帯をいじっているところだ。
回らない頭をフル回転させて必死に考えると、20秒ほどで記憶はすべて出揃った。そしてまゆりはようやく悟った。
――私、拉致されたんだ……!
記憶がプッツリ途切れているところをみると、たぶんクロロホルムを嗅がされたのだろう。そう思うとひどい頭の痛みさえも嬉しくなってくる。
火曜日の深夜、こっそり家を抜け出したまゆりはタナベに教えた公園へと向かった。
住宅街にある小さな深夜の公園に到着すると、思ったとおり誰もいなかった。外は今にも雪が降り出しそうな寒さだ。まゆりはブルブル震えながら子供用の小さなブランコに腰掛け、タナベが現れるのを待った。しかし、恐ろしい監禁魔さんはなかなか出てきてくれない。
――うう、やっぱり厚手のタイツを履いてくればよかったかな……。
氷のように冷たくなった太股をさすりながら少し後悔した。優等生で、どちらかといえば流行よりも実用性を重視するタイプのまゆりは、普段こんなふうに太股があらわになる格好はしないのだが、今日は珍しくスカート丈をいつもより10センチ以上短くしている。藤原にそう指示されたからだ。
絶対領域のある女子高生とない女子高生じゃまったく別物だよ、サイヤ人とスーパーサイヤ人くらいの差があるからね! と藤原は力説した。それがどの程度の差なのかまゆりにはまったく分からなかったが、「ほら、同じパンツでもグンゼのデカパン履いてる子とTバック履いてる子じゃ全然違うでしょ」と言われて、なるほどと納得した。
彼に言わせると「とにかく絶対領域が見えてるのと見えてないのとでは女子高生としての価値がが全然違う!」んだそうで、その比率も「ミニスカートの長さを4とした時、絶対領域が1、ニーソックスの膝から上の部分が2.5というのが黄金比率。これだけは絶対に譲れない」らしい。
さすが将棋界一の“萌える男”だ。まゆりは藤原のいうとおりにたどたどしい手つきでスカートの丈を詰め、彼が匿名で送ってきたニーハイを身につけた。まるでコスプレのように。
しかし、こんな寒い日に生足を出した女子高生がガタガタ震えながら一人でぼんやり座っているのも不自然だ。まゆりは鞄から携帯を取り出し、かじかむ手でテトリスを始めた。こんなときにメールできる気やすい友達はもう何年もいない。
集中しやすいタイプの彼女はすぐにゲームに熱中し、自分の世界に入り込んだ。するといきなり背後に黒い気配が現れて……。
覚えているのはそこまで。気がついたら、こうして知らない風景の中にいた。
改めて部屋の中を観察してみる。六畳ほどの広さの古い洋間に、天井まである大きな本棚と小さなテーブル、そして今まゆりが寝かされているシングルサイズの安いパイプベッドが置かれている。それなりに生活感はあるがきちんと片付けられている。人見知りの独身男の部屋、そんな印象だ。
ここは寝室なのだろうか。
掲示板の書き込みによると、確かタナベの家は一軒家だったはず……そんなことを考えながらぐるりと部屋を見回すと、あるところで息が止まりそうになった。
壁際に男が立っていたのである。小柄なうえにあまり気配が無いので気付かなかったのだ。
「目が覚めたんだね」
そう言って近寄ってきた男を、まゆりはまじまじと見た。
そして、一瞬にして落胆した。男は、彼女の妄想に出てくるがっしりとした大男とは似ても似つかない風貌をしていたからだ。
――え、まさか、これ……?
まゆりがこれまで思い描いていたタナベは、屈強で自信満々でエロス漂う中年男である。だが、目の前にいる貧相な小男はどう考えても凶悪な監禁魔には見えない。
試しに、この男に監禁され性の手ほどきを受ける自分の姿を想像してみたが、どう考えてもしっくりこない。全裸のまゆりを無理矢理縛りつけるだけの力はなさそうだし、こんな自信のなさそうな小声で命令されたって「はぁ、何言ってんの?!」って感じだ。ああ、ダメだ。こんなご主人様じゃ、本気で抵抗すれば軽々逃げ出せてしまう。
あ、もしかしたらタナベ本人じゃなくてこの家の執事か何かなのかも! ……と、無駄なポジティブシンキングを試みてみたものの、むなしくなってすぐにやめた。事実を受け入れよう。この小男が“監禁したいご主人様のための掲示板”で監禁への熱い思いを語っていた、あのタナベなのだ。
現金なもので、がっかりしたら頭痛がぶりかえし、体中がじんわりと痛くなってきた。両手両足を縛った無理なポーズで寝かされていたせいだろう。痛みは、まゆりを夢の世界から引き戻す。数十日前、テレビで初めて『女児誘拐監禁事件』のニュースを見た時からずっと続いていた高揚した気持ちが、嘘のようにすーっと覚めていく。
そうしているうちに、なんだか無性に腹が立ってきた。
あんなに苦労して拉致されたのに、どうしてこんな目に会わなきゃならないの。まったくお門違いな言い草なのはわかっているが、そう八つ当たりでもしないと恥ずかしくていたたまれない。胸をときめかせながら監禁生活の準備をしてい自分の姿を思い出すと、あまりの浅はかさに逃げ出したくなる。
魅力に溢れた男の人がわざわざ私みたいな色気ゼロの小娘を監禁して面倒をみてくれるなんて、そんなうまい話があるわけないのに。なんてバカな私。
「こ、怖がらせてすまなかったね。どこか痛いところはない?」
おずおずと猿轡をはずす。
「嫌! こんなところにいたくない! 帰りたい……お願い、家に帰して!」
急に大声で叫んだのに驚き、タナベは慌てて頭に布団を被せた。こら、静かにしろ。静かにしろったら! まゆりは苦しさと腹立たしさで足をバタバタさせる。妄想の中のタナベならかよわい女子高生の一人や二人安々と抑えつけて恥ずかしい格好で縛り上げてしまうところだが、現実のタナベはあたふたと焦るばかりだ。黙らないと殺すぞ! 本気だぞ! そんな声も耳に入らないかのようにまゆりは暴れる。タナベはついに布団をはいで頬にビンタをくらわし、ひるんだ一瞬の隙をついてもう一度口に猿轡をかませた。
ようやく大人しくなったまゆりの子犬のような黒い目から涙が溢れ、ツルッとした赤ちゃんみたいな頬を濡らす。興奮したせいで白い頬がほんのりピンクに染まっている。
その顔にタナベはぼんやりと見惚れているようだったが、しばらくするとハッと我に返り、まゆりの頭にそっと手を載せると、
「早く落ち着いてくれよ。お願いだから」
と言って部屋を出て行った。
何よ、嫌な奴。人のこと拉致しといて偉そうに。帰りたい。帰りたい。帰りたい。まゆりはガムテープを貼られた口の中で呪文のようにつぶやき続けた。帰りたい、帰りたい、帰りたい、嫌な奴、帰りたい、帰りたい、帰りたい……。
しばらくすると少し気持ちが落ち着いてきた。
涙も乾いて冷静になったところで、まゆりはもう一度考えた。
あの家に本当に帰りたいのだろうか。そう自問自答してみた。
お父さんとお母さんはまるで私なんて家の中にいないかのようにふるまう。お姉ちゃんの彼氏は私の顔を見るたびニヤニヤ笑う。そのたびにまゆりのプライドは傷ついた。一体何度涙をこらえたことだろう。朝、楽しそうに登校する子供達の声で目覚める気持ち。「可哀想なのはあんたのほうよ」と言ったときの憐れむような富子の顔。どれも思い出すだけで胸がズキンとなる。
しかしまゆりにとって何よりも辛かったのは、一日がとてつもなく長く感じるのに、一ヶ月はあっという間に過ぎていってしまうことだった。景色は変わっていくのに私だけが一歩も進めない、あのいたたまれない感じ。
ううん、やっぱり嫌だ。もうあんな思いはしたくない。あんな場所には帰りたくない。ようやっと逃げ出したのだ。自分の手で。
まゆりはもう一度、殺風景な部屋の中を見回した。
思っていたような場所じゃないけれど、淀んだ時間の中で膝を抱えてじっとしているよりはマシかもしれない。そう思うとなんだかフッと心が軽くなった。
気がつくとひどい頭痛は消えていた。久しぶりに涙がポロポロ流れるほど泣いて疲れたのだろう、気が緩んだら急に睡魔が襲ってきた。
その夜、まゆりはここ数カ月なかったほどぐっすりと眠った。
(続く)
関連記事
赤裸々自慰行為宣言 遠藤遊佐のオナニー平和主義!
10.10.16更新 |
WEBスナイパー
>
監禁志願アリス
| |
| |