『Crash』1987年3.6.7.12月号/発行=白夜書房
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(3)
引き続き一冊ごとに解説していってもいいのだが、長い連載であるし、抜粋の方がメリハリがつくと思われるので、重要そうなトピックのみ抜き出していく。
『Crash』1987年1月号
「“持つこと”と“在ること”の狭間に揺れる知の媒体──本」と題したコラムの書き出しが「本が売れない時代である」となっていることを、出版不況の現在から振り返ってどう捉えればいいのかわからないが、文末の「内容の優れた書物は、発行部数3千〜5千部と云うのが常識の出版界。私の単行本も、せいぜい8千部止まりだろうなぁ。まだ1冊も出してないけどさ……」という愚痴は面白い。優れた書物であり、かつベストセラーになった『危ない薬』で名を知られることになる青山の若かりし頃、といった趣がある。プロフィールには「2冊の単行本の〆切とたくさんの原稿〆切を、容赦なくやっつけて行く勇敢な奴」とあり、ゴーストライター仕事がこの時期に2冊まとめてあったということか。
『Crash』1987年2月号
この号では1986年の年間ベスト・ブック&ビデオを選出している中、ブック部門の2位の記述が興味深い。選ばれたのは鯖沢銀次『東京ひょっとこ新聞』(北宗社)であるが、その解説にこうある。「鯖沢氏は、私の師匠である。実際、氏から直接指導を受けた訳ではないが、この人の文章を目にする度に、私は「嗚呼、こんな面白い文章が物せたら…」と、思うのであった。昭和怒濤主義とでも称すべき、知的で下品なギャグの洪水。これ程笑える本は他にない」。そう、青山の特徴的な文体のルーツの一つがここで明かされているのである。専門的な知識を、冗談やネタを盛り込んでくだけた文体で書く、青山の文章に脳震盪をおこした人は、気にしてみるのがいいだろう。
『Crash』1987年4月号
自身が編集したコミック誌『カリスマ』創刊号を紹介。「まあ、とにかくだァ、貸本に毛の生えたような旧態依然とした少女漫画風常道怪奇コミックスだけは、作りたくなかったのだ。/恐怖を越え、覚醒となるような漫画は出来ぬものか!/志しだけは高かったんだけどねェ……。「オタッキーな人々(オタク族)向き」と云う、上司の命令があったもんだから、妙にアニメっぽくなっちまってねえ」とまたもや愚痴をこぼしている。ただ、発売前に書店注文が1万冊あったというから、それなりに店頭には並んだようである(売れたかは別として)。青山のオススメはしのざき嶺『悲しい浪漫西』と山野一『HOLY MEN RUN』の2つで、夏から月刊青年漫画誌創刊の予定もあった模様。
『Crash』1987年5月号
再び自身が編集した書籍を紹介。以前この連載でも少し取り上げた『グッバイ・ティーンズ』は、飛び降り自殺した姉妹が残した漫画作品と日記をまとめた本だが、これにからめて青山なりの「死」についての考えを少し披露している。「大戦後40年余を経て、医療施設、核家族化が進展した今日にあって、“現実の死”を目にする機会は、たいへん稀になっている。/しかし、それと反比例するかのように、写真雑誌、小説、映画、ビデオ等で、我々は、毎日浴びるように“死のイメージ”を虚体験している。果たして、我々にとって、死は、リアルたり得るか?」「彼女たちにとって、死は、現実世界から虚構世界へと通じる、変身の扉なのだ」「現在、子供たちの考える死と、大人の考える死との間には、相当の隔たりがあるような気がしてならない。どうだろうか?」。90年代の死体写真ブーム時に散々言われることになる言い回しではあるものの、80年代をさして言われる“軽さ”の表出としてとらえたい。
『Crash』1987年8月号
「総合誌、一般誌、エロ本の類は、もうダメだ。今、最も活気に溢れているのは、専門誌である。関心の無い向きには取っ付きにくいだろうが、読者対象を専門知識を持った者に限定しているだけに、内容のボルテージは並じゃあない」。ということで「痛快専門誌レビュー」として『ライダーコミック』(辰巳出版)を紹介。『ティーンズロード』よりも早かった暴走族/暴走族予備軍をターゲットにした専門誌で、青山はルポタージュと読者投稿欄がお気に入りだったようだ。青山の雑誌史観が垣間見える一面。
『Crash』1987年9月号
「痛快専門誌レビュー」第2回はラジオライフ別冊『ファミコン改造マニュアル』(三才ブックス)。また改造かという感じもするが、「近頃の子供はナイフで鉛筆を削れない……」という批判に対して「たわけ!削る必要がないから削らないだけではないか。近頃の子供は、半田鏝1つでファミコンを改造してしまうのだぞ!」と妙な希望を子供に託しているのが楽しい。その他、映画レビューで「ホーリー・マウンテン」を紹介。
『Crash』1987年10月号
「痛快専門誌レビュー」第3回は『カミオン』(芸文社)。アート・トラック、いわゆるデコトラ(デコレーション=飾り立てたトラック)専門誌である。ここでなぜこうした専門誌に惹かれるのかの回答が示されている。「アート・トラックになど関心がなくてもいい。この手のパワフル専門誌は、知識や興味なんていう些細な悟性を越え、必ずや我々に新たなる感覚、不思議な世界を体験させてくれる筈だ。/マニア──性へと向かわぬ欲望は、変態以上にアブノーマルなのである。だから、専門誌は面白いのだ」。
『Crash』1987年11月号
自身編集のコミック誌『阿修羅』を紹介。大変だったわりに報われないからか開口一番「もう、私は漫画本の編集などしないぞ!」。こうした雑誌を編集する時に想定しているのはやはり『ビリー』であったようで、「一時の『ビリー』(白夜書房)にはとうてい及ばぬものの、かなりのいかがわしさは達成し得たと思っている。お金が余ってたら、買ってね♥」と書いている。その他、『宝島』に映画「フリークス」のレビューを書いたら大分修正されてしまった話などに絡めて自主規制の話題。
ここでは最後に『Crash』1987年2月号掲載の1986年の年間ベスト・ブック&ビデオを、タイトルだけ抜粋しておこう。
BOOK
1.) C+Fコミュニケーションズ『パラダイム・ブック』(日本実業出版社)
2.) 鯖沢銀次『東京ひょっとこ新聞』(北宗社)
3.) レスリー・フィードラー『フリークス』(青土社)
4.) 『マリファナ・ハイ』(第三書館)
5.) 酒井傳大『魅惑の古代』(リブロポート)
6.) ジョン・C・リリー『サイエンティスト』(平河出版社)
7.) 藤丸哲雄・松村光生『ビデオで愉しむ未公開映画』(芳賀書店)
8.) ジョージ・マクドナルド『リリス』(筑摩書房)
9.) コリン・ウィルソン『ルドルフ・シュタイナー』(河出書房新社)
10.) 小野田大蔵『仙道の真髄』(白揚社)
VIDEO
1.) ロビン・ハーディー『ウィッカーマン』
2.) ジム・エイブラハム『トップ・シークレット』
3.) サラ・ドライバー『ユー・アー・ノット・アイ』
4.) ボリス・セーガル他『四次元への招待』
5.) バズ・キューリック『ケインとアベル』
6.) ジョー・ルーベン『ドリームスケープ』
7.) ゲイリー・A・シャーマン『ゾンゲリア』
8.) ジャック・カーディフ『悪魔の植物人間』
9.) シドニー・ルメット『評決』
10.) ジャン・クロード・ロード『面会時間』
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青山正明と「Flesh Paper」/『Crash』編(3)
引き続き一冊ごとに解説していってもいいのだが、長い連載であるし、抜粋の方がメリハリがつくと思われるので、重要そうなトピックのみ抜き出していく。
『Crash』1987年1月号/発行=白夜書房 |
「“持つこと”と“在ること”の狭間に揺れる知の媒体──本」と題したコラムの書き出しが「本が売れない時代である」となっていることを、出版不況の現在から振り返ってどう捉えればいいのかわからないが、文末の「内容の優れた書物は、発行部数3千〜5千部と云うのが常識の出版界。私の単行本も、せいぜい8千部止まりだろうなぁ。まだ1冊も出してないけどさ……」という愚痴は面白い。優れた書物であり、かつベストセラーになった『危ない薬』で名を知られることになる青山の若かりし頃、といった趣がある。プロフィールには「2冊の単行本の〆切とたくさんの原稿〆切を、容赦なくやっつけて行く勇敢な奴」とあり、ゴーストライター仕事がこの時期に2冊まとめてあったということか。
『Crash』1987年2月号/白夜書房 |
この号では1986年の年間ベスト・ブック&ビデオを選出している中、ブック部門の2位の記述が興味深い。選ばれたのは鯖沢銀次『東京ひょっとこ新聞』(北宗社)であるが、その解説にこうある。「鯖沢氏は、私の師匠である。実際、氏から直接指導を受けた訳ではないが、この人の文章を目にする度に、私は「嗚呼、こんな面白い文章が物せたら…」と、思うのであった。昭和怒濤主義とでも称すべき、知的で下品なギャグの洪水。これ程笑える本は他にない」。そう、青山の特徴的な文体のルーツの一つがここで明かされているのである。専門的な知識を、冗談やネタを盛り込んでくだけた文体で書く、青山の文章に脳震盪をおこした人は、気にしてみるのがいいだろう。
『Crash』1987年4月号/白夜書房 |
自身が編集したコミック誌『カリスマ』創刊号を紹介。「まあ、とにかくだァ、貸本に毛の生えたような旧態依然とした少女漫画風常道怪奇コミックスだけは、作りたくなかったのだ。/恐怖を越え、覚醒となるような漫画は出来ぬものか!/志しだけは高かったんだけどねェ……。「オタッキーな人々(オタク族)向き」と云う、上司の命令があったもんだから、妙にアニメっぽくなっちまってねえ」とまたもや愚痴をこぼしている。ただ、発売前に書店注文が1万冊あったというから、それなりに店頭には並んだようである(売れたかは別として)。青山のオススメはしのざき嶺『悲しい浪漫西』と山野一『HOLY MEN RUN』の2つで、夏から月刊青年漫画誌創刊の予定もあった模様。
『Crash』1987年5月号/白夜書房 |
再び自身が編集した書籍を紹介。以前この連載でも少し取り上げた『グッバイ・ティーンズ』は、飛び降り自殺した姉妹が残した漫画作品と日記をまとめた本だが、これにからめて青山なりの「死」についての考えを少し披露している。「大戦後40年余を経て、医療施設、核家族化が進展した今日にあって、“現実の死”を目にする機会は、たいへん稀になっている。/しかし、それと反比例するかのように、写真雑誌、小説、映画、ビデオ等で、我々は、毎日浴びるように“死のイメージ”を虚体験している。果たして、我々にとって、死は、リアルたり得るか?」「彼女たちにとって、死は、現実世界から虚構世界へと通じる、変身の扉なのだ」「現在、子供たちの考える死と、大人の考える死との間には、相当の隔たりがあるような気がしてならない。どうだろうか?」。90年代の死体写真ブーム時に散々言われることになる言い回しではあるものの、80年代をさして言われる“軽さ”の表出としてとらえたい。
『Crash』1987年8月号/白夜書房 |
「総合誌、一般誌、エロ本の類は、もうダメだ。今、最も活気に溢れているのは、専門誌である。関心の無い向きには取っ付きにくいだろうが、読者対象を専門知識を持った者に限定しているだけに、内容のボルテージは並じゃあない」。ということで「痛快専門誌レビュー」として『ライダーコミック』(辰巳出版)を紹介。『ティーンズロード』よりも早かった暴走族/暴走族予備軍をターゲットにした専門誌で、青山はルポタージュと読者投稿欄がお気に入りだったようだ。青山の雑誌史観が垣間見える一面。
『Crash』1987年9月号/白夜書房 |
「痛快専門誌レビュー」第2回はラジオライフ別冊『ファミコン改造マニュアル』(三才ブックス)。また改造かという感じもするが、「近頃の子供はナイフで鉛筆を削れない……」という批判に対して「たわけ!削る必要がないから削らないだけではないか。近頃の子供は、半田鏝1つでファミコンを改造してしまうのだぞ!」と妙な希望を子供に託しているのが楽しい。その他、映画レビューで「ホーリー・マウンテン」を紹介。
『Crash』1987年10月号/白夜書房 |
「痛快専門誌レビュー」第3回は『カミオン』(芸文社)。アート・トラック、いわゆるデコトラ(デコレーション=飾り立てたトラック)専門誌である。ここでなぜこうした専門誌に惹かれるのかの回答が示されている。「アート・トラックになど関心がなくてもいい。この手のパワフル専門誌は、知識や興味なんていう些細な悟性を越え、必ずや我々に新たなる感覚、不思議な世界を体験させてくれる筈だ。/マニア──性へと向かわぬ欲望は、変態以上にアブノーマルなのである。だから、専門誌は面白いのだ」。
『Crash』1987年11月号/白夜書房 |
自身編集のコミック誌『阿修羅』を紹介。大変だったわりに報われないからか開口一番「もう、私は漫画本の編集などしないぞ!」。こうした雑誌を編集する時に想定しているのはやはり『ビリー』であったようで、「一時の『ビリー』(白夜書房)にはとうてい及ばぬものの、かなりのいかがわしさは達成し得たと思っている。お金が余ってたら、買ってね♥」と書いている。その他、『宝島』に映画「フリークス」のレビューを書いたら大分修正されてしまった話などに絡めて自主規制の話題。
ここでは最後に『Crash』1987年2月号掲載の1986年の年間ベスト・ブック&ビデオを、タイトルだけ抜粋しておこう。
BOOK
1.) C+Fコミュニケーションズ『パラダイム・ブック』(日本実業出版社)
2.) 鯖沢銀次『東京ひょっとこ新聞』(北宗社)
3.) レスリー・フィードラー『フリークス』(青土社)
4.) 『マリファナ・ハイ』(第三書館)
5.) 酒井傳大『魅惑の古代』(リブロポート)
6.) ジョン・C・リリー『サイエンティスト』(平河出版社)
7.) 藤丸哲雄・松村光生『ビデオで愉しむ未公開映画』(芳賀書店)
8.) ジョージ・マクドナルド『リリス』(筑摩書房)
9.) コリン・ウィルソン『ルドルフ・シュタイナー』(河出書房新社)
10.) 小野田大蔵『仙道の真髄』(白揚社)
VIDEO
1.) ロビン・ハーディー『ウィッカーマン』
2.) ジム・エイブラハム『トップ・シークレット』
3.) サラ・ドライバー『ユー・アー・ノット・アイ』
4.) ボリス・セーガル他『四次元への招待』
5.) バズ・キューリック『ケインとアベル』
6.) ジョー・ルーベン『ドリームスケープ』
7.) ゲイリー・A・シャーマン『ゾンゲリア』
8.) ジャック・カーディフ『悪魔の植物人間』
9.) シドニー・ルメット『評決』
10.) ジャン・クロード・ロード『面会時間』
(続く)
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【プロローグ】 【1】 【2】 【3】 【4】 【5 】 【6】 【7】 【8】 【本文註釈・参考文献】
ばるぼら ネッ
トワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ
ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミ
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09.03.15更新 |
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