毎週日曜日更新!
The text for reappraising a certain editor.
ある編集者の遺した仕事とその光跡
『BACHELOR』1987年2月号 P113/発行=大亜出版
『BACHELOR』における青山正明 (3)
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
『BACHELOR』における青山正明(3)
引き続き『BACHELOR』を見ていく。1987年も書評「青山正明の焚書抗快」と連載「Flesh Paper」の二本立てで淡々と続いている。
『BACHELOR』1987年1月号
トマス・トライオン『悪魔の収穫祭』/角川書店★★★★
ダイヤグラムグループ『じょうずなワニのつかまえ方』/主婦の友社★★★★
レスリー・フィードラー『フリークス』/青土社★★★★★
坂下昇『オカルト』/講談社★★ 『『悪魔の収穫祭』は「派手さはない。しかし、それだからこそ、エピローグのオチが極め付きの衝撃となるのである」と普通の褒め書評。現在では書体+組み見本帳として有名な『じょうずなワニのつかまえ方』は、「ハウトウ企画が如何に現実性に乏しいものであるかを訴えているような印象を与えるアイロニックなこの大冊」と、『モンティ・パイソンズ・ビッグ・レッド・ブック』(表紙が青い本)を引き合いにだしながらジョーク本として高評価。『フリークス』は畸形の肉体にこれでもかとこだわった一冊で、「表層しか捉える事の出来ぬペダント、伊藤俊治と海野弘が関わった本は一切手にすまいと心に決めた私だが、どうもこの書物だけは例外のようだ」と皮肉交じりに絶賛。褒めが続くと思ったら最後の『オカルト』で「つまんないつまんないつまんないつまんない」と連発。「シュタイナーについて一言も触れぬ神智学の考察など誰が読むものか」とバッサリ。
『BACHELOR』1987年2月号
呉智英・鏡明他『本とつきあう本』/光文社★★★
紀田順一郎『落書日本史』/旺文社★★★★
ソーマ・ヒカリ他『マリファナ・ハイ』/第三書館★★★★★
青山正明他『スカトピア』/求龍社★★ 「三文ライターの寄せ集めにしては結構マトモ」と褒めてるんだかわからない『本とつきあう本』は、バラバラな論者達の中で「本を読もうよ!」という主張だけが共通項を持つ点を指摘し前向きに評価している。『落書日本史』は1967年に三一書房から出たものの旺文社文庫版。時代ごとの「権力に対する民衆の見解」を浮き彫りにする名作。マリファナ三部作の完結となる『マリファナ・ハイ』は、マリファナをレクリエーションで楽しむところに青山は好感を示した。『スカトピア』は自分も書いているのにボロクソ。「求龍社といえば、“編集者にもライターにもビタ一文支払わない”チープな本作りで有名な出版社。また、ここの社長がすごい。満面に笑みを浮かべながら、割れもしない手形を平気で人に押し付ける業界一のハッタリ男なのである」。
『BACHELOR』1987年3月号
アンナ・リバ『秘密の白魔術・黒魔術』/大陸書房★★★
ジョン・C・リリー『サイエンティスト』/平河出版社★★★★★
山野一『四丁目の夕日』/青林堂★★★★
深野晴美『風を越えて』/ワニブックス★★★ 植物と人間の関係を“祈り”で結ぶ『秘密の白魔術〜』は、内容説明以外ほぼ感想テキストがなく、無難な印象だったのだと思われる。「今世紀屈指の科学者」と持ち上げるジョン・C・リリーについては全面的に信頼しているようで、自叙伝『サイエンティスト』についても「並のSF小説の比ではない」と持ち上げ。その後長い付き合いとなる『四丁目の夕日』の山野一については「飽食の時代に於ける異端としての貧困。そう、エンターテインメントとしての徹底した悲惨追及なのである」と評価し、90年代に流行する“悪趣味”の本質をズバリ言ってしまっている。『風を越えて』は乳首と尻の割れ目が写ってるカットが一つずつのみというのに落胆。
『BACHELOR』1987年4月号
紀田順一郎『パソコン宇宙の博物誌』/河出書房新社★★★★
ファビアン・S・ジュラール『パゾリーニ』/青弓社★★★
山田裕二(奥田忠志)『マドンナ・マガジン』/さーくる社★★
『カリスマ NO.1』/文苑堂東京店★★★ 荒俣宏と並んで青山が最も尊敬する文筆家・紀田順一郎の『パソコン〜』は、パソコンとワープロの文化史における意味と可能性を検討する本で、「アドベンチャー・ゲームに頻出する“迷宮”なる概念が、日本では皆無であることの理由。ハッカー登場の必然性と西洋文化。データベース・システムの原型としての聖書、等々」と内容も興味深い。『パゾリーニ』はゲテモノ映画扱いされるパゾリーニが論じた「新しいファシズム/消費のファシズム」が究極の独裁形態であることを考察する本。『マドンナ・マガジン』は書評というよりこの時期流行っていたM本(もちろんSMのM)の流行について。青山が編集した漫画誌『カリスマ』は「志だけは高かったんですけどねェ」と毎度の自己評価。
『BACHELOR』1987年5月号
田中一京『新興宗教を告発する』/青年書館★★★
クライヴ・パーカー『ミッドナイト・ミートトレイン』/集英社★★★★
田中圭一『ドクター秩父山』/スタジオ・シップ★★★★
新井博子『グッバイ・ティーンズ』/文苑堂東京店★★★★★ この時期、いとうせいこうのテレビ番組から「87年のマイナー映画の動向をしゃべってくれ」と出演依頼がきたようだが、出演したのだろうか。『新興宗教を〜』については、救済された人も前より生活が悪くなった人もいるだろうということで「ハメられた信者の声を集めただけでは片手落ちだ」と宗教批判の難しさを語っている。モダンホラー小説『ミッドナイト〜』は残虐なスプラッター描写が「他の追随を許さぬオリジナリティと迫力に充ち満ちている」とのこと。漫画『ドクター秩父山』は「とにかく面白い!」「買いだね!」と素直に絶賛。青山編集の『グッバイ・ティーンズ』は自殺した12・18歳の姉妹の日記本で、「子供たちの自殺を真に理解する上で、これに優るテクストは存在しない」とまで書いている。これはつまり「TV、映画、雑誌等、イメージがリアリティを上回る昨今にあって、“死”は、リアリティからイメージへの門口へと変容しつつあるからだ」という視点で、自殺はもはや「逃げ道」ではない結論もありえるのだと指摘している。
『BACHELOR』1987年6月号
スワミ・ヨーゲシヴァラナンダ『実践・魂の科学』/たま出版★★★★
大東青龍『悪魔術活用法』/大陸書房★★★
電話フリーク研究会『電話裏マニュアル』/データハウス★★★★
ジョン・ミネリー『ザ・殺人術』/第三書館★★★★★ この月はいかにも青山っぽい出版社が並んでいる。『実践・魂の科学』はヨーガ教典の入門書で、「禁戒を実践する為には、職を辞し、他人に養ってもらうしかない」という聖者の本質をえぐった実践的手引き。『悪魔術活用法』は別に魔術本ではなくいわゆるライフハック本で、「サラリーマン向け啓蒙書にオカルトの装いを施し、悪魔術なるネーミングを以て青少年に買わせしめる…上手いなあ」との評価。『電話裏マニュアル』は盗聴やタダ電の話など、90年代に改造テレカで盛り上がる電話裏ネタ本のさきがけ。「幾分ネタを出し惜しみしている感は否めないが、ま、取次本でここまでやれば大したものだ」。『ザ・殺人術』はかつて変態雑誌『ビリー』にも若干翻訳が載った『HOW TO KILL』の全訳。書評は「良識なんて糞食らえ!」と結ばれているが、そのノリで本気で実行する人間が現れることについての想像力の欠如が『危ない1号』以降の青山の迷走につながっていると思う。
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
The text for reappraising a certain editor.
ある編集者の遺した仕事とその光跡
『BACHELOR』1987年2月号 P113/発行=大亜出版
『BACHELOR』における青山正明 (3)
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
引き続き『BACHELOR』を見ていく。1987年も書評「青山正明の焚書抗快」と連載「Flesh Paper」の二本立てで淡々と続いている。
『BACHELOR』1987年1月号
トマス・トライオン『悪魔の収穫祭』/角川書店★★★★
ダイヤグラムグループ『じょうずなワニのつかまえ方』/主婦の友社★★★★
レスリー・フィードラー『フリークス』/青土社★★★★★
坂下昇『オカルト』/講談社★★ 『『悪魔の収穫祭』は「派手さはない。しかし、それだからこそ、エピローグのオチが極め付きの衝撃となるのである」と普通の褒め書評。現在では書体+組み見本帳として有名な『じょうずなワニのつかまえ方』は、「ハウトウ企画が如何に現実性に乏しいものであるかを訴えているような印象を与えるアイロニックなこの大冊」と、『モンティ・パイソンズ・ビッグ・レッド・ブック』(表紙が青い本)を引き合いにだしながらジョーク本として高評価。『フリークス』は畸形の肉体にこれでもかとこだわった一冊で、「表層しか捉える事の出来ぬペダント、伊藤俊治と海野弘が関わった本は一切手にすまいと心に決めた私だが、どうもこの書物だけは例外のようだ」と皮肉交じりに絶賛。褒めが続くと思ったら最後の『オカルト』で「つまんないつまんないつまんないつまんない」と連発。「シュタイナーについて一言も触れぬ神智学の考察など誰が読むものか」とバッサリ。
『BACHELOR』1987年2月号
呉智英・鏡明他『本とつきあう本』/光文社★★★
紀田順一郎『落書日本史』/旺文社★★★★
ソーマ・ヒカリ他『マリファナ・ハイ』/第三書館★★★★★
青山正明他『スカトピア』/求龍社★★ 「三文ライターの寄せ集めにしては結構マトモ」と褒めてるんだかわからない『本とつきあう本』は、バラバラな論者達の中で「本を読もうよ!」という主張だけが共通項を持つ点を指摘し前向きに評価している。『落書日本史』は1967年に三一書房から出たものの旺文社文庫版。時代ごとの「権力に対する民衆の見解」を浮き彫りにする名作。マリファナ三部作の完結となる『マリファナ・ハイ』は、マリファナをレクリエーションで楽しむところに青山は好感を示した。『スカトピア』は自分も書いているのにボロクソ。「求龍社といえば、“編集者にもライターにもビタ一文支払わない”チープな本作りで有名な出版社。また、ここの社長がすごい。満面に笑みを浮かべながら、割れもしない手形を平気で人に押し付ける業界一のハッタリ男なのである」。
『BACHELOR』1987年3月号
アンナ・リバ『秘密の白魔術・黒魔術』/大陸書房★★★
ジョン・C・リリー『サイエンティスト』/平河出版社★★★★★
山野一『四丁目の夕日』/青林堂★★★★
深野晴美『風を越えて』/ワニブックス★★★ 植物と人間の関係を“祈り”で結ぶ『秘密の白魔術〜』は、内容説明以外ほぼ感想テキストがなく、無難な印象だったのだと思われる。「今世紀屈指の科学者」と持ち上げるジョン・C・リリーについては全面的に信頼しているようで、自叙伝『サイエンティスト』についても「並のSF小説の比ではない」と持ち上げ。その後長い付き合いとなる『四丁目の夕日』の山野一については「飽食の時代に於ける異端としての貧困。そう、エンターテインメントとしての徹底した悲惨追及なのである」と評価し、90年代に流行する“悪趣味”の本質をズバリ言ってしまっている。『風を越えて』は乳首と尻の割れ目が写ってるカットが一つずつのみというのに落胆。
『BACHELOR』1987年4月号
紀田順一郎『パソコン宇宙の博物誌』/河出書房新社★★★★
ファビアン・S・ジュラール『パゾリーニ』/青弓社★★★
山田裕二(奥田忠志)『マドンナ・マガジン』/さーくる社★★
『カリスマ NO.1』/文苑堂東京店★★★ 荒俣宏と並んで青山が最も尊敬する文筆家・紀田順一郎の『パソコン〜』は、パソコンとワープロの文化史における意味と可能性を検討する本で、「アドベンチャー・ゲームに頻出する“迷宮”なる概念が、日本では皆無であることの理由。ハッカー登場の必然性と西洋文化。データベース・システムの原型としての聖書、等々」と内容も興味深い。『パゾリーニ』はゲテモノ映画扱いされるパゾリーニが論じた「新しいファシズム/消費のファシズム」が究極の独裁形態であることを考察する本。『マドンナ・マガジン』は書評というよりこの時期流行っていたM本(もちろんSMのM)の流行について。青山が編集した漫画誌『カリスマ』は「志だけは高かったんですけどねェ」と毎度の自己評価。
『BACHELOR』1987年5月号
田中一京『新興宗教を告発する』/青年書館★★★
クライヴ・パーカー『ミッドナイト・ミートトレイン』/集英社★★★★
田中圭一『ドクター秩父山』/スタジオ・シップ★★★★
新井博子『グッバイ・ティーンズ』/文苑堂東京店★★★★★ この時期、いとうせいこうのテレビ番組から「87年のマイナー映画の動向をしゃべってくれ」と出演依頼がきたようだが、出演したのだろうか。『新興宗教を〜』については、救済された人も前より生活が悪くなった人もいるだろうということで「ハメられた信者の声を集めただけでは片手落ちだ」と宗教批判の難しさを語っている。モダンホラー小説『ミッドナイト〜』は残虐なスプラッター描写が「他の追随を許さぬオリジナリティと迫力に充ち満ちている」とのこと。漫画『ドクター秩父山』は「とにかく面白い!」「買いだね!」と素直に絶賛。青山編集の『グッバイ・ティーンズ』は自殺した12・18歳の姉妹の日記本で、「子供たちの自殺を真に理解する上で、これに優るテクストは存在しない」とまで書いている。これはつまり「TV、映画、雑誌等、イメージがリアリティを上回る昨今にあって、“死”は、リアリティからイメージへの門口へと変容しつつあるからだ」という視点で、自殺はもはや「逃げ道」ではない結論もありえるのだと指摘している。
『BACHELOR』1987年6月号
スワミ・ヨーゲシヴァラナンダ『実践・魂の科学』/たま出版★★★★
大東青龍『悪魔術活用法』/大陸書房★★★
電話フリーク研究会『電話裏マニュアル』/データハウス★★★★
ジョン・ミネリー『ザ・殺人術』/第三書館★★★★★ この月はいかにも青山っぽい出版社が並んでいる。『実践・魂の科学』はヨーガ教典の入門書で、「禁戒を実践する為には、職を辞し、他人に養ってもらうしかない」という聖者の本質をえぐった実践的手引き。『悪魔術活用法』は別に魔術本ではなくいわゆるライフハック本で、「サラリーマン向け啓蒙書にオカルトの装いを施し、悪魔術なるネーミングを以て青少年に買わせしめる…上手いなあ」との評価。『電話裏マニュアル』は盗聴やタダ電の話など、90年代に改造テレカで盛り上がる電話裏ネタ本のさきがけ。「幾分ネタを出し惜しみしている感は否めないが、ま、取次本でここまでやれば大したものだ」。『ザ・殺人術』はかつて変態雑誌『ビリー』にも若干翻訳が載った『HOW TO KILL』の全訳。書評は「良識なんて糞食らえ!」と結ばれているが、そのノリで本気で実行する人間が現れることについての想像力の欠如が『危ない1号』以降の青山の迷走につながっていると思う。
(続く)
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/
09.09.27更新 |
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