The text for reappraising a certain editor.
ある編集者の遺した仕事とその光跡
『BACHELOR』1987年11月号 P111/発行=大亜出版
『BACHELOR』における青山正明 (4)
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
引き続き『BACHELOR』誌を見ていく。今回は1987年後半である。
『BACHELOR』1987年7月号
現代新書編集部『書斎 知的空間の創造』/講談社★★★
清水清太郎『武田久美子写真集』/ワニブックス★★
坂村健『TRONで変わるコンピュータ』/日本実業出版社★★★★
スティーヴン・キング『スタンド・バイ・ミー』/新潮社★★★ 『書斎』は「今更著名文化人を引っぱり出し、書斎について書かせたところで、全く新鮮味はない」と言いつつ、頻繁に出てくるクーラー批判(この頃流行した『知的生産の方法』でクーラーのある快適な書斎が知的生産に必要とあった)は気に入った様子。『武田久美子写真集』はビニールパックされていたことに期待して裏切られたことから低評価。『TRONで〜』は元プログラマーとして取り上げないわけにはいかんという具合。文中「最近やっとパソコンを購入した」とある。キングの半自伝的小説『スタンド・バイ・ミー』は相性が良かったのか「未だに小学生のようなタラタラした生活を送っている私でさえも、読み進むにつれ、淡い春愁が胸に込み上げ、切ない気分になった」となかなかの評価。映画との相違点についても言及。
『BACHELOR』1987年8月号
ジョエル・デイビス『快楽物質エンドルフィン』/青土社★★★★
竹内均『頭をよくする私の方法』/三笠書房★★★★
広瀬隆『危険な話 チェルノブイリと日本の運命』/八月書館★★★★★
井上幸彦『ゾフィー』/桜桃書房★★★ 脳内麻薬と呼ばれるものの科学的証明がエンドルフィンやエンケファリンの存在であるが、『快楽物質エンドルフィン』は悲しみや喜びが脳内物質の化学変化の所産であることを解説した本。「ドラッグは引き金でしかない」とは青山の弁。『頭をよくする〜』は東大名誉教授、代ゼミ校長、NHK教育テレビ講師などを務めた竹内の秘訣を解説した本だが、なんとその秘訣が「勤勉」であることを“近頃では珍しい豊かで本質的な「修身」である”と高評価。『危険な話』は原発の恐怖を煽った有名な本で、青山も反原発派であることからベタ褒め。『ゾフィー』は青山も少し関わっているスカトロ雑誌。それはどうでもよく、「ここ2〜3年、破天荒なパワーを感じさせる雑誌を見かけない」から始まるレビューに青山の雑誌史観が短いが示されているのが面白い。
『BACHELOR』1987年9月号
スティーヴン・キング『デッド・ゾーン』/新潮社★★★★
田中康夫『フェティッシュ考現学'87』/朝日新聞社★★★★
いがらしみきお『ぼのぼの』/竹書房★★★★
後藤久美子『ゴクミ語録』/角川書店(星ナシ) 前回気に入った様子のキングの新作『デッド・ゾーン』は「映画を観ている人は、無理して小説を読む必要はない」とのこと。『朝日ジャーナル』誌での連載をまとめた『フェティッシュ考現学』は“利己主義で瑣末主義のヤスオちゃん”こと田中康夫のネチネチした筆致に好感を持ったようだが、「非難中傷というのは、誰が書いても面白くなるもので、ことさら本書の内容が優れているとは思わない」とも。4コマ『ぼのぼの』は「“意外なオチ・破天荒な内容”という旧来の作風を完全に捨て去り、“荘子にも似た極究のほのぼの”なるコンセプトで押し通している。休筆直前のネタ不足を突き進め、虚無の境地にまで達したいがらしギャグ。こいつはスゴイ!」と大絶賛。オチにあたる『ゴクミ語録』は星すらついてない最低評価で、「見るからに生意気そうだな。鼻の下にヒゲが生えてるよ」などボロクソに書いている。
『BACHELOR』1987年10月号
岸田秀『嫉妬の時代』/飛鳥新社★★★
吉福伸逸『トランス・パーソナルとは何か』/春秋社★★★★
『現代人物情報源』/講談社★★★
佐藤滋子・岡本ゆり『初潮のほん おんなのこ物語』/小学館★★★ この回から半年以内に出た本に変更。『嫉妬の時代』は「分析だけで、対策を放棄してしまっている」と前半の嫉妬解説についてのみ評価。『トランス〜』を青山はなかなか重要視しており、心理学の流れを4つのエポック(フロイト精神分析学、ワトソン&スキナーの行動主義心理学、マズローの人間心理学、トランスパーソナル心理学)で解説しながら推薦。5000人のプロフィールが載った『現代人物情報源』は「私のようなミーハー物書きには好都合の資料ではある」と微妙な言い回し。小学5年生女子の初潮を漫画にした『初潮のほん』については「シミだらけの黒いチンチンをとがらせながら、舐め回すように読み進んでしまいましたわ」と期待通りの読み方。最後に『精通のほん おとこのこ物語』を提案するも「正しい陰茎の握り方とか、後始末の方法とか……。誰も買わねーか……」と自己完結しているのが笑える。
『BACHELOR』1987年11月号
『阿修羅』/大正屋出版★★★
荒俣宏・鎌田東二『神秘学カタログ』/河出書房新社★★★★
『FIT 健康実用大字典』/学研★★★★★
鈴木ひとみ『気分は愛のスピードランナー』/日本テレビ★★ 『阿修羅』は青山編集の漫画誌だが、「漫画はもうやめます。作家が、私の思う通りに描いてくれないから」とぶっちゃけた感想を漏らしている。『神秘学カタログ』はタイトルの「カタログ」が気にくわなかったようで、『対談──神秘学の現状と可能性』だったら許せるとの旨。『FIT』は「これ1冊で健康本は充分」「病気を治す時代から、健康を保つ時代に移行しつつある現在、一家に一冊必携の事典と言えよう」と大プッシュ。『気分は愛の〜』は交通事故で下半身不随者になってしまった、元準ミス・ユニバースの25歳女性の2冊目の著書。テレビドラマ化されたり、講演会を行なったりと、当時ずいぶん話題になった著者だが、青山は「構成・文体があまりに“感動の定石”通りなので、私はかえって全く感動することができなかった。それに性生活に関する記述がたった一行ってのは悲しい」と冷めた視点で読んだようである。
『BACHELOR』1987年12月号
『盗聴のすべて』/三才ブックス★★★★
D・ノーマン『図説 恐竜入門』/大日本絵画★★★★
よしだけん『飲めない族』/日本テレビ★★★
『ペントハウス 11月号』/講談社(星ナシ) コーナー名がなぜか「青山正明の新・焚書抗快」と、内容は変わった様子がないのに“新”になっている。タイトル通りの『盗聴のすべて』は盗聴に関するあらゆるデータを網羅した本。『図説 恐竜入門』は恐竜のイラスト本で、素晴らしい本だと絶賛しているが、それより「私は、深海魚とか昆虫とか軟体動物とか奇形児とか妻とかが大好きである。ついつい、不気味な外観に惹かれてしまうのだ」という書き出しが面白い。酒を飲めない下戸の叫びを一冊にした『飲めない族』は、下戸の青山にとってはある種の代弁であるはずだが「上戸は、こんな本読まんだろうなあ」とあきらめムード。なぜ『ペントハウス』11月号を取り上げているのかといえば、特集「大研究 日本の王者・慶応大学 結婚も金も出世も慶応大学だけがモテている」に登場する慶応OBに腹を立てまくっているせいで、「焚書せよ!」と暴走気味。
(続く)
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/
09.10.04更新 |
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