The text for reappraising a certain editor.
ある編集者の遺した仕事とその光跡
『BACHELOR』1985年9月号 P25/発行=大亜出版
『BACHELOR』における青山正明 (5)
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
順番が前後して大変申し訳ないが、現物が出てきたので今回は『BACHELOR』の1985年を見ていく。青山が『BACHELOR』に関わり始めたのはこの年からだと思われる。
『BACHELOR』1985年5月号 この号から青山は短期集中連載『「母乳愛」空論』を開始。マザコンだったという青山らしいフェティッシュな題材が、巨乳雑誌である『BACHELOR』にばっちりハマっている。内容は主に妊娠中の母乳の扱い方についてだが、「14〜15歳の処女に乳女の乳汁を含ませ、それを器に吐き出させる。処女の唾液の混ざった乳汁と云うのは、我々に、えもいわれぬ官能を与えて余りある」と、適度に気持ち悪いことを書いている。
『BACHELOR』1985年6月号 『「母乳愛」空論』第2回。この回のテーマは「人工母乳」、つまり粉ミルク。粉ミルクと哺乳ビンを数種類そろえ、どれが一番本物に近いかをレポートしている。どれも舌触りが本物には程遠いとしながらも「しかし、これだけ不備な点が有りながら、実際にそれを咥え、人工母乳を吸引してみると、たちまち見事に勃起したではありませんか!」と変態っぷりをアピール。アイドル・ポスターの乳首部分を切り取り、裏からゴム乳首を差し込んで吸うことを推薦している。
『BACHELOR』1985年7月号 『「母乳愛」空論』第3回。この回のテーマは「女性を妊娠させることなく母乳を滴らせる方法」。気になる方法はというと、プロラクチン(PRL)の分泌を促進させることで母乳が出ることから、薬剤か病気で“高PRL血症”にして異常分泌させようという不謹慎な展開。その他、「母乳愛」関係の推薦図書を挙げている。福田和彦著による『乳房の歴史』と『乳房の美学』、および伊藤俊治による『裸体の森へ』の三冊。
『BACHELOR』1985年8月号 『「母乳愛」空論』第4回(最終回)。引き続き薬剤による乳汁分泌をより具体的に解説。オマケに「ブック・レビュー/性活に潤いを」と題された書評コーナー。『NEW NUDE 2』(毎日新聞社)、『LIEBES LEBEN』(ROSWITHA HECKE)、『乳房の饗宴』(実業之日本社)の三冊。
『BACHELOR』1985年9月号
『ビートたけし『ビートたけしのダカーポ』/マガジンハウス★★★
『スクリーン臨時増刊 The Horror Movies』/近代映画社★★
佐野山寛太『広告化文明』/洋泉社★★★★
久保田競ほか『脳の手帖 ここまで解けた脳の世界』/講談社ブルーバックス★★★★★ 書評「青山正明の焚書抗快」はこの号から開始。記念すべき一冊目の『ビートたけしのダカーポ』だが、100字にも満たない文字数で「ゴーストライターじゃなくて本人が書いたところがすごい」ということしか言っていない。『The Horror Movies』はホラー映画マニアとしての矜持からか「入門書としてはイイ線いってるね。小・中学生の入門書としてはね(イヤミだよ)」と腐している。ちょうど最初の単行本になる予定だった『Horror Films』を編集中だったようだ。新宿紀伊国屋書店のカウンターに平積みにされていたという『広告化文明』は、広告論・写真論・アート論を事象で分析していく一冊で青山も気に入った様子だが、もっと分かりやすい本として『なぜなにキーワード図鑑』(山崎浩一/冬樹社)を推薦。『脳の手帖』は学者の文章スタイルが面白かったようで星五つ。
『BACHELOR』1985年10月号
野々村文宏『新人類の主張』/駸々堂★★★★
『心霊大百科』/KKワールドフォトプレス★★★★
『The Family of Woman』/The Putham Publishing Group★★★★★
『フィリアック』Vol.1/求龍社★★★★★★★★★★★★★★ 野々村文宏の最初の単行本『新人類の主張』については「冒頭の新人類仲良し3人組(田口賢司、中森明夫、野々村文宏)の座談会ページさえなければ、素晴らしいコラム集になっただろうに……惜しいぜ!」とのことで、新人類の名の下に行われる座談会が決まって「子供の頃の商品カタログと、表層文化の拙い分析、評論に陥ってしまう」のが嫌な様子。オカルト雑誌『トワイライトゾーン』の別冊で出た『心霊大百科』は、発行元KKワールドフォトプレスの前身が『エニグマ』や『UFOと宇宙』を出していたユニバース出版であることからもわかるように気合の入った一冊。「オカルトのオの字も分からない編集者が、下請けに作らせている『ムー』などより、ずっと真摯な誌面作り」と高評価。『The Family〜』は海外写真集で、「人間ならば絶対に見ておく価値のある」と大絶賛。『フィリアック』は自分編集の変態雑誌で星だらけ。読む限り隔月から月刊にする予定もあったようだ(実際は1号だけで外れてしまったが)。この号は他に「美しき快感エクボたる肛門を見直してみよう」という肛門論考を書いているが、写真は『フィリアック』の使いまわし。
『BACHELOR』1985年11月号
荒俣宏『帝都物語』1・2/角川書店★★★★★
きうちかずひろ『BE-BOP-HIGH SCHOOL』4/講談社★★★★
伴田良輔『独身者の科学』/冬樹社★★★
海野弘『モダンガールの肖像』/文化出版局★★★ 一応説明しておくが、この表紙は『BRUTUS』の当時の人気企画だった「裸の絶対温度」のパロディである。本題。『帝都物語』は荒俣宏のミーハーである青山は内容については当然高評価だが、「読み手に“夢と力”を与え得るという点では、まだまだ、コリン・ウィルソンの域には達していない。百科全書で終わっちゃダメ!」とも。意外なセレクトにも見える『BE-BOP〜』は、「良く掻きネタに供している」ことから選ばれた模様。『独身者の科学』は図版とテキストの構成に面食らいつつ、「そうか、これ、脳みそに効く炭酸飲料だったんだ。絡み合ったシナプスが、徐々に解かれ、いつしか私は持病の精神分裂が悪化していることに気付くのであった」と結論づけている。『モダンガールの肖像』は1920年代の女性像を追った一冊だが、青山はこれを著者による1920年代女性への片思い履歴書だと指摘し、「押し付けがましい女性論やアート論などより、ずっと真心が籠っていて親しみやすい」と意外な評価。この号は他に「擬似ペニスに弄ばれるオンナたちの歴史」と題した、キノコから電動バイブに到る擬似ペニス玩具コラムを寄稿。
『BACHELOR』1985年12月号
木元至『雑誌で読む戦後史』/新潮社★★★★
『The Horror Movies Part 2』/近代映画社★★★★
『月刊友情♥夢』11月号/若い根っこの会★★
飛鳥昭雄『超能力の手口』/ごま書房★★★★★ 『ダカーポ』での連載をまとめた『雑誌で読む〜』について、古雑誌をかき集めただけの本ではなく、生存する人々への取材が行われている生き生きとした読み物として高く評価している。ここで青山の雑誌論が展開されており、「事によっては、新聞などより正確に時の事実を伝える。新聞は、一方的な報道であり、雑誌は、送り手と受け手の共感に成り立つのだから」など、新聞よりも雑誌ジャーナリズムの力を信頼する旨がある。『Horror Movies』は前号の続き。知り合いが書いてるから酷評できないと素直に書いてしまっているのが、ある意味ひどい。「一作一作の紹介に、執筆者の思い入れが込められている。皆さん、勉強したんやなぁ」。『月刊友情♥夢』は“生きがいを探る人生誌”というキャッチコピーの集団幸福追求雑誌で、その路線に警鐘を鳴らしている。「幸福とは己れの足下に育てるものである。集団が幸福を追求するとロクなことはない。集団意志は、手の付けられぬ狂気へと陥りやすいのだ」。『超能力の手口』は偽物の超能力(手品)のトリックを暴く一冊。青山はここで、オカルトとは「大いなる逃避の場に他ならない」と言い切っており、「現実法則に支配されない神秘の世界は、正に格好の夢想の場であり、日常生活で規制され衰弱した意識に、無限の遊泳空間を与えるものである」と解説。これは晩年の精神世界への傾倒に通じるものがある。この号は他に『フィリアック』紹介記事や、編集日記が掲載されている。『Hey!Buddy』と『VIVIAN』が休刊したことで収入が10万円減ったという泣きが。
(続く)
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ばるぼら ネットワーカー。周辺文化研究家&古雑誌収集家。著書に『教科書には載らないニッポンのイ ンターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』など。なんともいえないミニコミを制作中。
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