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The text for reappraising a certain editor.
『BACHELOR』における青山正明 (8)
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
引き続き、1990年前半の『BACHELOR』誌の連載「青山正明の新・焚書抗快」を取り上げていく。
『BACHELOR』1990年1月号
ハロルド・クローアンズ『なぜ記憶が消えるのか』/白揚社★★★★
江國滋『日本語八ツ当り』/新潮社★★★★
『映画の見方が変わる本』/JICC出版局★★★★
上野正彦『死体は語る』/時事通信社★★ 「私は、わけの判らない事や変なものが大好きである。猟奇事件、椿事、オカルト、奇人変人、変態、畸型、レベッカの顔、久米宏のイボ、内藤陳の歯……」という宣言からはじまる『なぜ記憶が消えるのか』書評。よい短編小説を読んでいるかのような症例の説明を評価している。言葉の良し悪しは主観によると断言しつつ『日本語八ツ当り』は青山の言葉の美意識とあっていたのか「本書を読んで、ひとり静かにカタルシスを味わっていただきたい」と推薦。『映画の見方が変わる本』は「JICC出版局No.1のパラノ野郎」こと町山智浩編集の映画ムックで、青山も寄稿している。青山は映画ライターを二種類のバカに分けており、「語学が得意な馬鹿(洋雑誌の引き写しと間抜けなインタビュー)」と「やたらにスタッフやキャストの名前、映画タイトルを記憶している馬鹿(どうしてあれほどの知識量がありながら、それが質へと変容しないのか不思議)」、このどちらでもない真の映画評論が『映画の見方が〜』に詰まっていると絶賛。医者が書いた『死体は語る』は「検死報告を一般向きに書き直しただけで、死者に対する著者の思いがひとつも伝わってこない」とガッカリ気味。
『BACHELOR』1990年2月号
極智新聞社会部『オウム真理教は狂気か!?』/オウム出版★★★
オルダス・ハクスリー『ルーダンの悪魔』/人文書院★★★★★
ヤトリ『超人類』/KKベストセラーズ★★★★
松村光生『グッドバイ・ロリポップ』/早川書房★★★★ 『サンデー毎日』のオウム報道への批判本である『オウム真理教は狂気か!?』の書評中、「宗教の目的とは、一にも二にも、人々の救済に尽きる。つまり、信者の多くが救われたと感じたなら、それでもうその宗教団体は、立派に任を果たしたことになるのである」としてマスコミの的外れな論点を批判。青山の宗教観が垣間見える。加えて宗教の問題は経理公開の免除と課税にあるとして、「マスコミは、個々の団体を誹謗する前に、ここらへんをしつこく攻撃すべきだ」と冷静なまとめ。小説家兼評論家ハクスリーによる、17世紀フランスの修道院の集団ヒステリーを描いた『ルーダンの悪魔』は星五つの大推薦だが、難解なのでハクスリー入門としては『永遠の哲学』か『知覚の扉』を読んだ方がいいとのこと。本名不明の著者による『超人類』は、その名の通り超人類の出現についての自説展開本。オカルト的な胡散臭い本であるとしたうえで、「少なくとも私は、ここに書かれたことの大半は事実だと思うし、ヤトリ氏の考えに共感を覚えるところが多かった」そうだ。ディック夏村こと松村光生の近未来ユーモア/ハードボイルド小説『グッドバイ・ロリポップ』は、表紙の「オタッキーなイラスト」以外は気に入った模様。
『BACHELOR』1990年3月号
高橋巌『現代の神秘学』/角川書店★★★★
『気は挑戦する』/JICC出版局★★★
真中史雄『ドラッグ 内面への旅』/第三書館★★★★
ニック・ハーバード『タイムマシンの作り方』/講談社★★★ 日本人智学協会会長・高橋巌の『現代の神秘学』はシュタイナー思想の解説書。「シュタイナー本人の書物より平明で、尚且つC・ウィルソンの著作のように頭でっかちではないので、とても重宝である」とあることから想像するに、青山のシュタイナーについての知識は高橋を経由したものと考えてよさそうだ。物質から精神へという世紀末らしいテーマ設定を持つ別冊宝島103号『気は挑戦する』は「この本を読んで得られるのは、知識と問題意識(理屈)だけなのである」と、別の本との併読を勧めている。ドラッグは自分でやるもので、他人の体験談を読んでも気持ちよくなれるわけなし、と言いつつ『ドラッグ 内面への旅』を書評する青山はジャンキーの鏡とでも言うべきか。相対性理論を論拠にした超光速/時空移動の研究本『タイムマシンの作り方』は、内容はよく判らなかったとしながらも、「量子論のオカルトにも似た破天荒ぶりには、強く心を引かれたのであった」と、目の付け所が違うというべきか何なのか。
『BACHELOR』1990年4月号
吉福伸逸『トランスパーソナル・セラピー入門』/平河出版社★★★★
コリン・ウィルソン『形而上学者の性日記』/ペヨトル工房★★★★
斉藤清明『今西錦司――自然を求めて――』/松籟社★★★
山野一『ヒヤパカ』/青林堂★★★★ ニューエイジ関連思想書『トランスパーソナル〜』のトランスパーソナルとは、フロイトの精神分析、行動心理学、マズローの人間性心理学に続く第四の勢力である心理学。青山はかなり影響を受けており、効果絶大と褒めちぎっている。1965年に二見書房から出た『ジェラード・ソーム氏の性の日記』の新装版『形而上学者の性日記』については、ウィルソンの「意識の主体的拡大」については共鳴するものの、「彼の著作は金太郎飴なのであった」(=毎回内容が同じ)という微妙なコメント。『今西錦司〜』は「オタッキーなデータの羅列に閉口」と辛口だが、取り上げられている今西については「ニューエイジ、とりわけガイア思想の先駆けとして大いに評価されるべきだと、私は思う」と高評価のようである。不条理かつ畸形的世界が強烈な『ヒヤパカ』は、作者の山野一について「背も高く、かなりの2枚目である。決して儲けているようには見えないけれど(失礼)、何か相当のコンプレックスがあるのだろうなァ」と作者と作品の非一致を指摘。「芸術家にとって、私生活と創作活動は同一である必然性はない。明るさ至上主義の世の中に一石を投ずべく是非とも、がっぽり稼いでいただきたいものだ」。
『BACHELOR』1990年5月号
唐沢俊一『ようこそ、カラサワ薬局へ』/徳間書店★★★
五来重『遊行と巡礼』/角川書店★★★★
シャーリー・マクレーン『ゴーイング・ウィズィン』/地湧社★★★★
五島勉『1998年日本崩壊』/青春出版社★★ 薬の雑学本『ようこそ〜』はサブタイトルの「ちょっとあぶないクスリ通になる、まちの薬局完全攻略マニュアル」が引っかかったようで、「このヤワな内容はいただけない」「要するに、意識が低いんですな。この手の俗物オタク(重ね言葉?)に人類の未来を委ねるのは、無謀である。ジャンキーにでもなって、あっちの世界を見てきた方がいいんじゃない」と辛らつなコメント。ジャンキーからすると雑学ネタ程度では物足りないということか。「歩み」に信仰の原点を見出さんとする『遊行と巡礼』は難しくて一気に読み通すのがしんどいと弱気に。チャクラ/瞑想本『ゴーイング〜』は平易で読みやすく著者の姿勢も謙虚、とかなり褒めモードで、「この本は、多くの人に、精神世界の扉を押し開くきっかけを提供してくれるに違いない」と素直に太鼓判を押している。『1998年日本崩壊』は「オカルトの世界に詐欺師は多いが、こうも堂々とやられると、文句を言う気もなくなってくる」と呆れている。ただ、内容は「日本が沈没してしまうのではなく、経済的危機に晒されるのでは」というもののようで、だとするとバブル崩壊を予言したと言えなくもない。
『BACHELOR』1990年6月号
二澤雅喜『人格改造!』/JICC出版局★★★
渡瀬信之『マヌ法典』/中央公論社★★★
廣川洋一『ギリシア人の教育』/岩波書店★★★★
イアン・ウィルソン『死後体験』/未来社★★★★ 自己啓発セミナーの潜入ルポ本『人格改造!』は「面白い読み物であることは、保証しよう」と言いつつも、金さえ払えば誰でも体験し得る内容を「究極のサイコ・ノンフィクション」と銘打っていることについて「詐欺に等しい行為」とコメント。ヒンドゥー教徒の基盤『マヌ法典』自体については「共感を覚えることはできない」ようだが、金貸し、医者、武器売りなどが不浄な人間として例示されているのを読んで「やはり、職業に貴賤はあるのだ。金銭が倫理に優る時代こそ、この認識は重要である」と結論付けているのが面白い。教養の意味と必要性の根拠を古代ギリシアまで遡って論じる『ギリシア人の教育』の書評は「つまり、金儲けに役立つ知恵、職業上の専門知識等は、教養とは呼べないし、また、そんなものをいくら頭に詰め込んだところで、人として高まりはしないのである」と、かなりまともな感想を述べている。死後の世界を裏付ける証拠はひとつもないとする『死後体験』はそのショックな結論について「オカルト・ジャーナリズムの鑑」と絶賛。
(続く)
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09.11.15更新 |
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