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The text for reappraising a certain editor.
『BACHELOR』における青山正明 (9)
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
1990年後半の『BACHELOR』誌の連載「青山正明の新・焚書抗快」を取り上げる。この時期は『季刊エキセントリック』の編集を行なっている頃だ。
『BACHELOR』1990年7月号
三村寛子『ビジネスマンの超意識革命』/駸々堂★★★
吉田暁『異文化コミュニケーションキーワード』/有斐閣★★★★
浅野八郎『電話と手紙の心理学』/日本実業出版社★★★
根本敬『怪人無礼講』/青林堂★★★★ 精神世界と企業の関わりに着目した『ビジネスマンの〜』は成功した企業のVIPの格言などをまとめた、ようするに自己啓発書の一種で、「記述の内容は大したものではない」が、現状を知るにはいいだろうとの無難なコメント。『異文化〜』は太平洋から大西洋まで100のキーワードで異文化コミュニケーションをまとめた一冊。青山は「とんだ拾い物」「脳味噌を持った人、全てに読んでいただきたい良書」と大推薦。手相・人相・姓名判断で一世風靡した浅野八郎の書き下ろし『電話と〜』は、役に立たないけど誰も浅野に系統だった専門書を期待してないからいいか、とユルユルに流している。根本敬に対しては「彼の作品に評論は無用」として、読むことのショックが書く動機を上回っているようだ。
『BACHELOR』1990年8月号
本山博『チャクラの覚醒と解脱』/宗教真理出版★★★★
H・J・ブルーメンタール他『タイムトラベラー 2038年』/東京図書★★★
ひろさちや『どの宗教が役に立つか』/新潮社★★★★
『警察の本』/三才ブックス★★★★ 日本に初めてチャクラを紹介した本山博の講演をまとめた『チャクラの〜』。青山は「4次元に始まり、エスパー、超能力、潜在意識、気と、密教のキーワードは移り変わってきたが、結局のところ、落ち着く先はチャクラであると、私は思う」と全面的信頼を隠さない。ただし覚醒と解脱は英会話より難しいそうだ。『タイムトラベラー2038年』はそのまま、2038年に発行されたタイム・トラベラーのためのガイドブック(という設定の本)で、タイムトラベル理論や史実への批判的記事の掲載によって統一感がそがれているのが残念な模様。『どの宗教が〜』は7つの宗教のうち日本人に合うのはどれか、を検討していく一冊。「物事に対する希望、欲望、執着を捨て去れ、と著者は言う。顕教、密教を問わず、これこそが、あらゆる宗教に共通する核なのだ」と真理を突いている点を褒めている。「ミニコミが下火となった現在、最も刺激的な雑誌と言えば『婦人公論』と『ラジオライフ』」とまで言う『ラジオライフ』の別冊である『警察の本』には「ネタを並べただけでも、わくわくしちゃうでしょ、ねっ」と太鼓判。
『BACHELOR』1990年9月号
『ユーロ・ロック集成』/マーキームーン社★★★★
山田塊也『アイ・アム・ヒッピー』/第三書館★★★
佐伯胖、佐々木正人『アクティブ・マインド』/東京大学出版会★★
A・ウィンター、R・ウィンター『頭の栄養学』/東京図書★★★★ 「この飽食の時代に独自の音楽を追及する奴なんて出るわけはないのである。ああ、昔は良かった」と嘆きながら『ユーロ〜』の出版についてプログレ・マニアとして感慨に耽る青山が面白い。『アイ・アム・ヒッピー』については「たいへん面白い読み物だった。いや、面白い読み物でしかなかった」と語り、ヒッピーになろうがなるまいが幸せとは心の持ちようであると真っ当な解説。体験的な知識と体験から還元されない知識を論じた『アクティブ・マインド』は東京大学出版会から出ていることも手伝ってか批判的。「自己啓発やニューエイジの書物の方が、検証こそ曖昧だが、よっぽど示唆に富んでいる。所詮、研究室勤めの輩など、この程度なのだ。やれやれ」。『頭の栄養学』は栄養素が脳に与える影響や相互作用など、脳と栄養の関係を解説した一冊で、青山は『ビタミンバイブル』『メガ・ニュートリション』『フードパソー』の三冊を比較対象に出しながら推薦。
『BACHELOR』1990年10月号
井尻千男『玩物喪志』/サイマル出版会★★★★
能登路雅子『ディズニーランドという聖地』/岩波書店★★
吉永良正『ウィルスが「人間」を支配する』/光文社★★★
アメリカ政府『テロ白書』/大日本絵画★★★ 日本型消費社会の批判的論考集『玩物喪志』は青山も「深い洞察に基づく論説が数多く提示されている」と褒めちぎり(ただし第二部は読む価値なしとのこと)。相対主義と陳腐化による悪影響をズバリ読み解いていることがよかったようである。『ディズニーランド〜』は「本書にはホントがっかりした。題名に偽りあり!」として、読む価値があるのは最後の二項(フランスのDL反発、マエリカのDLタブー)のみとウンザリモード。『ウィルスが〜』は内容の説明でほとんど埋まって感想がほとんどない。文末に申し訳程度に「入門書としては、ちと高度です。はい」。『テロ白書』については「今、最もトレンディな恐怖は、ウイルスとテロリズムです……」「一般教養には役立つかもね」と無難な点数。
『BACHELOR』1990年11月号
マリアンヌ・シンクレア『ハリウッド・ロリータ』/JICC出版局★★★★
ジ・アース・ワークス・グループ『地球を救うかんたんな50の方法』/講談社★★★★
尾山力『痛みとのたたかい』/岩波書店★★★★
T・G・E・パウエル『ケルト人の世界』/東京書籍★★★ 『ハリウッド〜』はD・W・グリフィスからブルック・シールズまで、ハリウッドとニンフェットの関係を資料で紐解くレポート書で、青山も「ケネス・アンガーの『ハリウッド・バビロン』を上回る、スキャンダラスで示唆に富んだ珍無類の裏ハリウッド・レポート」と絶賛。環境破壊に対する易しい啓蒙本『地球を救う〜』も「翻訳に際して国内のデータも加筆、実用性は充分だ。是非、一家に一冊!」と強くお薦め。『痛みとのたたかい』は痛み自体より原因を取り除こうとする日本の医療の「原因療法は対症療法に優る」という思想とは相反する、とりあえず痛みを取り除きたい時の治療法・克服方の歴史と現状の概略本。「かく言う私も、ここ10年、周期的にやってくる片頭痛に悩まされ続けている。脳波を調べても、原因は分からず終い。アングラ界のシモーヌ・ヴェイユだ、なーんてね」。『ケルト人の世界』は1958年に著されたケルト人研究のバイブルの待望の翻訳だが、「入試解答のような直訳だけはいただけなかった」と訳出に不満があったようだ。
『BACHELOR』1990年12月号
フィリップ・ゴールドバーグ『直観術』/工作舎★★★★
デービッド・ダーリング『ディープ・タイム』/TBSブリタニカ★★★★
岩井宏實『図説 日本の妖怪』/河出書房新社★★
渡辺利夫『アジア新潮流』/中央公論社★★★★ 『直観術』は、直観という非合理的な感性を科学的に定義してしまおうとする一冊で、直観を鍛えるテクニックなどの実践まで載った、ある意味で奇書。青山は「何度もパラドックスに陥りそうになりながら、どうにか仮説めいた処迄辿り着く件は圧巻である」と驚きを隠さない。ビッグバンから宇宙の末期まで綴る宇宙叙事詩『ディープ・タイム』については「ハッパでキメて読むと、飛べますよ」と独特の推薦をしている。『図説 日本の妖怪』は「小松和彦が大塚英志に成り下がり…図版だけが取り柄の陳腐な妖怪論集」「好奇心をそそる記述には一行たりともお目にかかれなかった」と斬り捨て。世界の牽引役はアジア諸国しかないという、まるで最近の日本政権のようなことが書いてある未来グローバル本『アジア新潮流』は、普段かかわりのない分野だからか「大変興味深い」と素直に読んでいる……と見せかけて文末が「うん、やっぱ、これからは東南アジアだよなぁ」と、何も変わってない。
(続く)
※作者都合により、来週は休載させていただきます。
次回の掲載は12月6日(日)の予定です。
※作者都合により、来週は休載させていただきます。
次回の掲載は12月6日(日)の予定です。
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09.11.22更新 |
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