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The text for reappraising a certain editor.
『BACHELOR』1992年7月号
マーティン・A・リー&ブルース・シュレイン『アシッド・ドリームズ』/第三書館★★★★
有川一芳『死体は商品』/データハウス★★★★
ルドルフ・シュタイナー『健康と食事』/イザラ書房★★
山口剛『エイズの真実』/集英社★★★★ ドラッグを意識拡大と捉えるユーザがいる一方で、それによって意識を支配しようとする政府側の思惑もあり、それを検証していったのが『アシッド・ドリームズ』。「ドラッグを語る上で不可欠な情報が多数収められている」と高く評価しつつ、「千の知識より1の快楽よね」と結論付ける姿勢が青山らしさ。葬儀屋と病院の内情暴露本『死体は商品』は「一家に一冊」と太鼓判。神秘思想家シュタイナー好きの青山だが『健康と食事』は点数控えめ。西洋栄養学と神秘思想のドッキングに矛盾しか感じなかった模様。『エイズの真実』は都立駒込病院の感染症科部長によるエイズの現場報告。患者達が絶望に落ちたりパニックになる様子などについて「同情されないっていうのは、実際、辛いよなあ」と感想を漏らしている。
『BACHELOR』1992年8月号
ガイ・グリオッタ&ジェフ・リーン『キング・オブ・コカイン(上・下巻)』/草思社★★★★
廣野隆憲『阿含宗の研究 桐山密教の内実』/東方出版★★★★
ロビン・ライト&ドイル・マクマナス『大潮流』/TBSブリタニカ★★
山本圭一『悪い歯医者』/データハウス★★★★ コロンビア最大のコカイン組織メジデン・カルテルに迫るルポタージュ本『キング・オブ・コカイン』は「読み応えたっぷり」で楽しんだようで、「経済失速と治安悪化の原因をドラッグに押しつけ、銃器は野放しという米政府の身勝手こそ非難されるべき、と思うのだが」とアメリカ批判をついでに書いている。『阿含宗の研究〜』は、教祖や幹部に対して批判しても信者は離れない、まず教養の欠陥と奇跡のトリックを指摘することが必要だとする真の宗教団体批判本。青山も「痛快也!」と絶賛している。ソ連崩壊、冷戦終結、エイズ蔓延などの世界情勢を取り上げた『大潮流』は“問題提起ばかりで答えのない”凡作として、「訳者の筑紫哲也さんもガッカリしたようで、後書きに言い訳めいたことを書いておられる。やれやれ」と流している。『悪い歯医者』は偏差値40でもなれてしまう医者=歯医者についての暴露本。「全国の虫歯野郎、必読だぜ!」とのこと。
『BACHELOR』1992年9月号
西部邁『正気の保ち方』/光文社★★★
大島清『ヒトは記憶するサルである』/飛鳥新社★★★
V・シムソン&A・ジェニングズ『黒い輪』/光文社★★★
東京公司編集『別冊宝島EX タイ読本 絶対保存版!』/JICC出版局(★なし) 『正気の保ち方』は本より書き手の西部邁について思うところがあるらしく、賛同できないしシンパシーもないのだが「それでもなお、僕が西部邁に惹かれるのは、その病的なまでの思索へのこだわりである」と、西部の考えるという行為については敬意を払っているようだ。猿学の第一人者による『ヒトは記憶するサルである』は記憶術本。「オプティミズムに基づく自己実現のノウハウも巧みに取り入れ、読むだけで元気が出てくる構成になっている」とオススメ。発売当時も話題になったオリンピックの内幕暴露ルポタージュ『黒い輪』は「僕の大嫌いなオリンピックをケチョンケチョンにけなしてくれたことに感謝の意を表し、取り上げた次第」だそう。『タイ読本』は青山編集の旅行ガイドブック。7月末発売です、と宣伝。ちなみに別冊宝島の基本定価は1100円だが、取材費がかさんだため1250円になった。
『BACHELOR』1992年10月号
チャールズ・リンドホルム『カリスマ』/新曜社★★★★★
リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』/紀伊国屋書店★★★★★
ローレンス・カーニアック『素晴らしきハッシシ』/第三書館★★★★★
足立恒雄『無限の果てに何があるか』/光文社★★★ 一年に一冊あればいい程度の五つ星が、この回ではなんと三連続である。『カリスマ』は、第三世界のシャーマン、ナチス、マンソン、人民寺院など、社会学的見地から“カリスマ”の本質に迫った一冊。カリスマ自体ではなく、カリスマとの交感を求め集まる個人の心に焦点をあてており、「アイヒバウムの『天才』に並ぶ名著なり!」と絶賛。1991年に話題を呼んだ竹内久美子『そんなバカな! 遺伝子と神について』に“利己的遺伝子”(ミーム)が登場し一躍ブームになったことから、青山も改めて『利己的な遺伝子』(発売1991年、原著は1976年)をここで取り上げている。「生物はみな、遺伝子の乗り物に過ぎない」とする画期的な生物学で、青山も当然太鼓判。世界各国のハッシシの特色・製法を網羅した『素晴らしきハッシシ』の原著は1979年8月発行で、青山のタネ本の一つだったもの。待望の邦訳だったといえる。高校・大学生向けの基礎数学の教養本『無限の果てに〜』は、大学院でようやく学べる“経済・思想の根幹にある数学の醍醐味”を一足先に解説した良書。
『BACHELOR』1992年11月号
ジェイムス・グリック『カオス』/新潮社★★★★★
清水芳見『アラブ・ムスリムの日常生活』/講談社★★★
N・ミクルホ=マクライ『ニューギニア紀行』/中央公論社★★★★
鎮痛剤・オピオイドペチプド研究会『オピオイド』/化学同人★★★ 無秩序と偶然と思われてきた現象を科学的に捉える『カオス』。青山は「量子力学を過去へと葬り去り、産業革命以来再び科学が宗教になる可能性を予感させる」大傑作と高く評価している。『アラブ・ムスリムの日常生活』は書名そのまま、経済や政治ではなくムスリムの日常を二つの家庭を通して描いたもの。「売春やドラッグに関しても、一言ぐらいは触れてほしかったなァ」。ロシアの文化人類学者が100年以上前に書き記したパプアニューギニアの記録『ニューギニア紀行』は「神話のごとき不思議な読後感が魅力です」と推薦。脳内麻薬様物質オピオイドについての『オピオイド』は執筆中の『危ない薬』の参考にと手に取ったようで、「正直言って、理系の専門書を読了したのは生まれて初めての経験です」と、疲れ果てた感想を漏らしている。
『BACHELOR』1992年12月号
田嶌誠一『イメージ体験の心理学』/講談社★★★
リチャード・セヴェロ『リサ・H』/筑摩書房★★★★
広野伊佐美『幼児売買』/毎日新聞社★★
安原顕編集『リテレール2』/メタローダ★★★ 想像力の可能性を心理学的見地から概説した『イメージ体験の心理学』は“非常によくできた”入門書と素直に褒めている。『リサ・H』はエレファント・マン病(レックリングハウゼン病、神経線維腫症)と戦う少女リサ・Hのドキュメンタリー。青山は『ローラ、叫んでごらん』と並べて「衝撃でありました」とのこと。『幼児売買』は養子縁組組織の実態追跡ルポタージュ本。「正義を振りかざしての糾弾という、あまりにありふれた物言いには、正直ゲンナリしてしまった」「養子とは名ばかり、実際は売春婦や肉体労働に従事させられる子がたくさんいる!」「それが、どうした。どうせ祖国にいたって同じことじゃないか。人身売買がなぜ悪いんだろう?」と、あくまで現実的に考える青山とは相反する本といえる。季刊書評集『リテレール』は内容もさることながら、編集者による巻末のノートが「執筆者に対する愚痴の羅列でとても愉快」とお気に入り。
(続く)
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「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/
10.01.03更新 |
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