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The text for reappraising a certain editor.
『シティロード』における青山正明
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
『BACHELOR』が連続したので別の話題を挟む。今回取り上げる『シティロード』は、都内ではよく『ぴあ』と比較された、コンサートや映画の上映スケジュールなどを載せた総合情報誌。1971年から1994年まで発行されていた。発行は1992年にエコー企画が倒産し、西アドが引き継いだ。本連載第13回でも少し紹介した。
当時の若者の間では『ぴあ』よりも『シティロード』の方が人気が高かった印象がある。それは主にスケジュール情報以外の、各種ページのツボをおさえた編集方針にあった。一癖あるインタビューの人選、紹介する音楽・映画・書籍の選出センス、自主制作にまで目を向けるきめ細かさなどは、最大公約数的な『ぴあ』にはないサブカルチャー的志向性だった。青山も何度か名前を挙げている。
「私は『シティ・ロード』派である。ほとんどの原稿が、主観で書かれているからである」(『Crash』1990年3月号)
「僕が思うに、『シティ・ロード』の映画欄やCDレビューって、専門誌よりセンスがいいんですよね。例えば、デッド・カン・ダンスとかマギー・ライリーとかのアルバムを大推薦するロック情報誌なんてあると思います?」(『Crash』1992年12月号)
青山はこの情報誌で「せっかくディスク、だったらディスク」というLDレビューを連載しており、ここでは手元にある1989年9月号〜1990年3月号を紹介する。決して長くないコラムなので、内容説明というよりは、その作品と自分の関係性に重きを置いたテキストが多い。
『シティロード』1989年9月号
▼『キンクス・ストーリー1964-1984』(パイオニアLDC)
キンクスはビートルズ、ローリング・ストーンズ、フーと並んで語られる60年代イギリスを代表するロック・バンド。コラムでは青山がキンクスを初めて耳にした時の思い出を語っている。いわく1973年に青山が好きだったアリス・クーパーが、インタビューで「(キンクスの)『ユー・リアリー・ガット・ミー』でロックに目覚めた」と語っていたことが出会いだったとのこと。
『シティロード』1989年10月号
▼『イレ・アイエ/デビッド・バーン』(パイオニアLDC) トーキング・ヘッズのデビッド・バーンのLD・CDV・CDの豪華3点セット。デビッドについて青山はこう書く。「インテリも2つあって、ひとつは、常に自信満々で、己れの道をまっしぐらに突き進む“完璧なインテリ”。もうひとつはついつい立ち止まって「僕、このままでいいのかな」なんて考え込んでしまう“半端なインテリ”。ハーバード大学卒だか中退だか知らないけど、デビッド・バーンは、間違いなく半端なインテリ、ナイーブな人である」。
『シティロード』1989年11月号
▼『栄光のグラム・ロック』(東芝EMI) T・レックス、スレイド、スイート、アリス・クーパーなど、70年代前半に大きなブームとなったグラム・ロックというジャンルを代表するミュージシャンの映像集。70年代初頭に“横須賀市立鶴久保小学校6年7組のロック博士”と呼ばれていたほどの青山に(本当か?)、そのド派手で強烈な印象は少なからぬ影響を与えたようだ。「ポップ・シーンに於て、初めて性差をぶち壊したことは、大いに評価されるべきだと思う」。
『シティロード』1989年12月号
▼『世界の車窓から(2)』(創美企画) ゆったりとした何もない旅の映像集。1000万人を超える海外旅行者が出ていた当時のバブル景気の中で、文化人から批判の的となっていた“買い物ツアー団体”に対する冷静の見解を提示している。「たかだか1週間のバカンスとなれば、短期決戦集中浪費型贅沢三昧旅行になるのは当然のこと。1ヶ月近く休みがとれる欧米人と比較するのは馬鹿げている」「「あたしたち、馬鹿じゃありませーん!」のOLだって、1ヵ月も休みをくれてやれば、きっとこうした“何もしない旅”をするはずだ。だって、1ヶ月も毎日、買い物なんてできないでしょ」。
『シティロード』1990年1月号
▼『インモラル物語2(未)』(ポリドールビデオ) 16世紀ローマ、19世紀、現代のパリの3つの時代を舞台とするエロス・オムニバス映画。下半身に直結するエロと、もやもやしたエロスを比較し、後者が不当に低い評価(中途半端、刺激が少ない等々)を受けていることに対し、苦言を呈している。「性という最も卑近かつ強烈な快楽を通し、権力への不満、不必要なタブーの排除、新しい人間関係のあり方等を提示する。サド然り、アポリネール然り、バタイユ然り。あのもやもや感は、人が自由への衝動に半ば目覚めた証なのである」。
『シティロード』1990年2月号
▼『バロン』(RCAコロンビア) 『未来世紀ブラジル』から4年ぶりだったテリー・ギリアム監督の作品。ここでは青山の持論が展開されている。「極端なことを言えば、映画にはストーリーもスターも必要ない。只々、映像が強烈なインパクトを生み出してくれれば、それでいい。終生忘れ得ぬシーンが、ひとつでもあれば十分である。シュタイナー言うところのロゴス体験というやつだ」。このロゴス体験を久々に味わわせてくれる“空前絶後のほら吹きファンタジー”として推薦している。
『シティロード』1990年3月号
▼『ナタリーの朝』(パイオニアLDC) フレッド・コウ監督の同名小説の映画化。青山は小学3年生の時にテレビで見た『奇跡の人』でヘレン・ケラー役を演じていたパティ・デュークに熱を上げた経験があり、この『ナタリーの朝』でブスの主人公役を演じているのを観てなんとも言えない気持ちを味わったという。しかし映画に対する評価は高く、曰く「知名度こそイマイチだが、出来栄えは『…YOU…』や『いちご白書』に必肩すると、私は思っている」。
(続く)
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10.01.10更新 |
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