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The text for reappraising a certain editor.
こじままさきインタビュー part3
21世紀を迎えてはや幾年、はたして僕たちは旧世紀よりも未来への準備が整っているだろうか。乱脈と積み上げられる情報の波を乗り切るために、かつてないほどの敬愛をもって著者が書き下ろす21世紀の青山正明アーカイヴス!
■鬼畜ブームと青山正明
――青山さんとのやり取りで覚えてることがあれば教えていただきたいんですが。
こじま:鬼畜ブームのときに『SPA!』が鬼畜特集を組みましたよね。それのインタビューを受けた直後に本人から聞いた話なんですが、『SPA!』的には村崎百郎さん的な鬼畜キャラを期待してたらしいんですよ。そうしたらものすごく普通の、インテリジェントな人だから、予定していた見開き2ページを埋めるのは無理だと判断したらしくて。「小さなコラム扱いになっちゃったんだよねー」って話してたのが一番印象に残ってますね。本当に常識的で穏やかないい人なんですよ。どちらかというと気弱で温厚で。
――書いてることと本人のギャップが激しいらしいですね。
こじま:完全に上から目線で、バカを鼻で笑ってる立ち位置の原稿が多いじゃないですか。でも実際に会った初対面の人には絶対それを匂わせない。愛されキャラなんですよ。なかなかいないですよね、そういう人。あと大好きな話があって、これも本人から聞いた話なんですけど、データハウスの社員的な立場になった時、自宅がある横浜から、データハウスがある西新宿まで、1時間くらいかかるんですよね。それであと会社まで15分くらいの道を歩いてたら、「いやー今日は無理だ」って。あと7分ですよ、帰っちゃったという。1時間かけてきて、あと7分なのに、「無理だ」って。この話大好きなんですよ。
――すごいですね(笑)。
こじま:笑ってますけど、俺はこの話はすごく実感として分かるんですよ。どう言えばいいかな、ソフトクリームを食べてる最中に、ベチャッと下に落ちたのをふきんで拭くのは面倒くさくないんだけど、口の周りにベタベタついたのをハンカチで拭くのは面倒くさい。そういう時間とか手間じゃない、自分にとってこっちができない、っていうのがあるんです。それは行けないよね、って思った。
――ものすごく本質が表われている話です。そうやって徐々に表舞台に姿を見せなくなって、インターネットが盛り上がる前に青山さんは消えてしまったので、いたら何やってたかなというのは時々考えます。
こじま:昔はネットがなかったから、すべての情報には希少価値があって、ゲスなもの、社会から隠されてるものは人気が出た。でも本人がそういうのが本心から好きだったとは思えないんです。比喩に出すんですが、人前で「てのひら」って言っても反応しないけど、「チンコ」「ケツの穴」っていうと反応するじゃないですか。それだけだと思うんですよね。僕はそれだけなんです。社会が隠そうとしてるものを表に出すから面白かっただけで、そのものに対する興味が、ってなるとそんなでもない。グロ画像をネットで自由に見られるような時代になったら、もう何の興味もないってことだと。
――鬼畜とか死体とかには自分はもう飽きてる、とは語っていました。
こじま:まあマスコミもうまく使ったなって思いますよ。死体や畸形をそのまま取り上げるのはまずいけど、そういうのを面白がってるヤツがいますよ、って紹介できたから。いやいや自分たちじゃなくてこいつらがね、って言い訳がないと『SPA!』とかは取り上げられないと思うんで。悪いわけではないですけど、そういう構造が見える。
■時代で消費されるようなものは作ってない
――訃報はどこで聞いたんですか?
こじま:共通の知り合いに葬式へ誘われたんで、その人から聞いたかな。でも断わりました。死んだら終わりじゃないですか。葬式に行っても辛気臭いだけだし、すごく好きだったし、シンパシーを感じてたんで、だから。『自殺されちゃった僕』も読んでないんですよ、一生読まないと思うし、もう終わったんだからいいじゃんって感じが俺の中にはあって。なんかやっぱり、あの人があの齢で死んだのはちょっと悔しいんですよね。ずっと大変そうだったから。でも死んじゃったら楽そうだし。ふざけんなよ、って感じですね、死んだことに関しては。すごく近いものを感じてた分、最終的に死を選んだというのが他人事じゃなくて、そういう意味を含めて。いろんな意味でふざけんなって。
――青山さんに自殺願望はあったと思いますか?
こじま:死にたくなかったと思いますよ、生に執着があっただろうし、自殺願望もなかったって言い切れます。鬱的なものと、バッドトリップがリンクしちゃったんじゃないですかね。もうちょっと見てみたかったですよね。何かやるのか、ダメになって一生ずるずる終えるのか。死んじゃダメですよ、傍から見るとかっこいいし、カート・コバーンみたいになっちゃうじゃないですか。それは偶像として完璧すぎてダメでしょ、って。
――それだけ大きい存在だったんですね。
こじま:大きかったですね、自分の中では。ただ、永山薫さんのインタビューに共感したんですが、死んだせいで虚像が一人歩きしてますけど、実際、言ってることは最高に面白いんだけど、何も作ってないんですよね。『危ない1号』も編集長ではあるけど、実作業はだいたい違う人だし。だからものすごく魅力的な、何もできない能無し。僕は大好きなんですよ、超影響を受けたし。でも何か評価できるかというと、それはないんじゃないかと。おこがましいことを言うんですけど、努力して頑張って90点をとる人よりも、本当は100点とれるけど何もしないで0点をとる人のほうが、僕は魅力的だと思うんです。その意味で青山さんは本当に魅力的な人だった。あのポジションと斜めってる視点にシンパシーはすごくある。でも祭り上げるものではない。
――亡くなってからもうすぐ十年経ちますが、現在も青山さんの名前に触れる人は当時を知っている人だけで、いま若い人が青山さんに触れる機会はゼロだと思うんです。
こじま:ゼロでしょうね。でも彼についての評価は、あの時代だったからってことはないと思いますよ、今読んでもクオリティはあるし、時代で消費されるようなものは作ってない。時代のあだ花と言われるのは心外です。でも説明は難しいですね、知らない若者に。
――そういう人に、名前と文章に触れるきっかけを少しくらい与えられたらと思います。
こじま:この青山正明連載っていうのはここで完了ってラインはあるんですか?
――明確なラインは考えてません。
こじま:この企画に青山正明がかんでたら何をするか、すごくいいのを考えたんですよ。確実にやるのは、イタコに青山正明呼んでもらって本人インタビュー。これでしょ。
――(爆笑)。
こじま:昨日思いついて、本人がいたら絶対やると思った。別に恐山に行かなくていいんですよ、脳内でテキトウに書けば。やりそうですよね。だから、もし終わる時は、それで。
文=ばるぼら
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「www.jarchive.org」 http://www.jarchive.org/
10.06.13更新 |
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