毎週日曜日更新、新連載第2回! あの日“アイツ”を追いかけた 全ての女子たちへ! 「腐った遺伝子」 第2回 文=早川舞 ←「アニメージュ」 2007年11月号 10月10日発売 620円(税込み) 発行=徳間書店 Copyright(c)2007 Tokuma-shyoten.ltd ALLRIGHT RESERVED |
「アニメージュ」最新号。
今や「世界の」富野由悠季(ガンダム生みの親)が、中学1年生の「部活は絶対にやらないといけないの?」という質問に1ページかけて丁寧に答えている(写真つき)。これが私の青春とともにあった雑誌だということを誇りたい気分になった。
感慨に耽りながらページをめくっていると、なんと『銀河英雄伝説』20周年記念メモリアルDVDボックス発売の記事が見開き2ページも! ラインハルトとキルヒアイスでもやったなぁ(何を)。ちなみに下に写っている白いつんつんしているのはうちの愚猫。のひげ。
前回からの続きです。前回の記事を読む>>>
私は何かに弾かれたように、その聖闘士星矢やおいアンソロジー本、『メイドイン聖矢』に飛びつきました。猛然と襲い掛かってくる便意があるにも関わらず、です。当時の私がどれほど『聖闘士星矢』に飢えていたか、そのほんの一端でもおわかりになっていただけるでしょうか。
かくしてここに、小学校5年生の女の子が脂汗を流して股間(肛門寄り)を押さえながら、血走った目でやおい本を読み耽るという、マニア垂涎のすごい絵ヅラが完成するに至ったわけですが、この絵ヅラについては言及しないでおきましょう。話が脱線してしまいますからね。
ページをめくっていくにつれ、私は眩暈を感じ始めました。当時私は、「その行為」について、一応の知識だけはありました。クラスの早熟な女の子が、みんなに言って回っていましたから。
ですがもちろん、私の知っていた「その行為」は男女がするもので、目の前で展開されているように、男と男がするものではなかったのです。
それは驚くべきものでした。しかし、嫌悪感を抱くまでには至りませんでした。それほどまでに私は、満たされていなかったのです。口に入るものなら何でもいいとばかりに、私はむさぼりました。気がつくと、股間を押さえたままの情けない姿で、私は最後まで本を読み終えていました。便意はいつの間にか消えていました(もらしたわけではない)。
買ったばかりの「アニメージュ」を抱えて家路を急ぐ私の脳裏から、先ほどの漫画で展開されていた性描写の数々は消えることがありませんでした。それどころかまるで絡みつくように、頭の中をリフレインするのです。それがいけないことだとは、何となくわかっていました。だから、正直「アニメージュ」よりもずっと惹かれましたが、買っては帰りませんでした。
ですが、何日経ってもその絵が頭から消え去ることはありませんでした。数日後、私は本屋でその本を手にレジに向かっていました。
家の誰もいない部屋で改めて読みなおすと、その本はあっという間に私を魅了しました。私の好きな緑色の髪の男の子があられもない姿で実の兄に犯されながら、それでも「愛しているよ、兄さん」なんて甘い言葉を口走っているのです。何ということでしょうか。私はすぐに、それがアニメの製作者でも漫画の原作者でもない、私と同じようないちファンの女性が描いたものだと知りました。私は、なけなしの小遣いを使って、そういった本を少しずつ集め始めました。
↑著作権の関係でモザイクをかけましたが、どちらにしろトゥーマッチセクシャルな内容です。
春が過ぎて学年がひとつ上がった頃には、部屋の書棚にはその手の本が目立つようになりました。よく親に見つからなかったものだと思うのですが、親もまさか子供向け漫画のタイトルが書かれた本の内容がきわどいセックスシーンばかりだとは思わなかったのでしょう。
そのうち、やおい本は私にとって原作やアニメでは埋められない心の隙間を埋めるツールであると同時に、それ単体でも楽しめるものになりました。『聖闘士星矢』と並んで売られていた『キャプテン翼』のやおい本を理解したいばかりに、初めて原作を読んでみたりもしました。もう順番がしっちゃかめっちゃかです。
今、考えると私のSM観はほとんどこの時期に形作られたもののような気がします。性の何たるかもよくわかっていないうち、当然、経験もないうちに、いきなり大量のやおい漫画を読んでしまったということが、私がその後SMに向かっていったひとつの大きな原因であることは間違いないと思います。何がよくて何がいけないのかすら、まだはっきりわかっていない頃ですから。もちろん「何となくいけない気がする」ということは感じていましたが、心理学的にも、目の前に示されるものはとりあえず全部受け入れてしまうとされる年齢です。
やおいではヤル役の男の子を「攻め」、ヤラれる役の男の子を「受け」と呼ぶのですが、もうその呼称からしてすでにSMであり、やっていることもなかなかハードです。拘束、緊縛、言葉責めは当たり前、噛んだり引っかいたり切ったり殴ったりもオプションで頻繁に登場するし、そして極めつけは(当然と言えば当然なんですが)アナルを犯される。
例として、この連載のためにわざわざ山深い実家から持ち帰ってきた(持ち帰ってきたのか!ていうかまだ持ってんのか!! )同人誌の中の1冊から、それらしい言葉を抜き出してみましょう。
「その絡みつく軟弱な小宇宙(と書いてコスモと読む。人体のエネルギーみたいな意味)は何だ。それほどこの俺に抱かれたいのか。欲しいのならくれてやるぞ」
「違う!」
「何が違う。シベリアでずっと俺を呼んでいただろう」(顎を押さえつける)
「一輝(人名)、やめろォォォ!!」
バサ……(効果音)
「車の中っていうのもたまにはいいな。俺の目をまっすぐ見ろ」
グイッ、ズッ!(効果音)
「あ……イッ……!!、ハァ、ハァ……」
……もう書いていて死にたくなってきました。人が恥で死ねるなら、今、私は確実に息を引きとったところでしょう。
←『聖闘士星矢 聖闘士聖衣神話 アンドロメダ瞬(最終青銅聖衣)』
発売日:2006年8月下旬
価格:3,990円(税込)
対象年齢:15才以上
販売元:株式会社バンダイ
(c)車田正美/集英社・東映アニメーション
(c) BANDAI CO. , LTD. 2007
↑私の初恋の人……まさか、こんな形で再会することになろうとは。
SM雑誌のインタビューなんかでは格好つけて「SMに興味を持ったきっかけは谷崎潤一郎です。影響受けてます」なんて言ったりしていた私ですが、あほかっつーの。何だかんだ言ってやっているプレイは、小学生のときに読んだ“一輝×氷河(やおい界において、×は恋愛・性的関係が発生していることを示す。一般的に前に来るのが攻め、後ろに来るのが受け)”だったり、“小次郎×若島津”から全然抜け出せていなかったりするのです。
早川舞 世界、特にヨーロッパのフェティッシュ・カルチャー関係者との交流も深い、元SM女王様フリーライター。だが取材&執筆はエロはもとよりサブカルからお笑い、健康関係まで幅広く?こなす。SMの女王様で構成されたフェミ系女権ラウドロックバンド「SEXLESS」ではボーカルとパフォーマンスを担当。
Reverse Dead Run |
07.10.14更新 |
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