毎週日曜日更新! あの日“アイツ”を追いかけた 全ての女子たちへ! 「腐った遺伝子」 第9回 文=早川舞 ←『ヴィンランド・サガ (5) 』 著者:幸村誠 税込み:590円 発行元:講談社 (Copyright(C)2002 Kodansha Ltd. All Rights Reserved. |
オタクのクセに「アフタヌーン(講談社)」の漫画にはハマらないことが自慢だった私ですが(半端な自慢だなぁ)このたび見事にやってしまいました。北欧ヴァイキングの歴史を描いた『ヴィンランド・サガ』がヤヴァイです。「略奪」とか「復讐」とか「寒い」とか「鉄の武器」とか「北欧」とか「イングランド」とか「ヴァルハラ」とか「目つきの悪い金髪美少年」とか、私の好きな単刀直入に攻撃的なキーワードがてんこもり(何なんだこの語彙の貧相さ……)で、あぁもうどうにでもして……。
もしこの作品を10年前に読んでいたら、確実に腐臭を撒き散らしていたと思います。というかまさに今、三十路突入後もこのためについうっかり冬コミに復活してしまいそうな勢いです。カップリングはトルフィン×クヌートで! アシェラッド×トルフィンとか、トルケル×トルフィンとかもいいかなぁと思ったんですが、トルフィンがかわいそうで見ていられないだろうなぁ。私も大人になって仏心がついてきてしまったらしいです。今回もわからない人にはまったくわからないスタートで大変恐縮ですが、はりきって参りましょう!
(前回からの続きです)
その後は男子中学生とは清い関係のまま何ごともなく、演劇もまぁまぁそれなりに活動してつつがなく高校卒業。そのまま浪人もすることなく晴れて大学進学となったのですが、ここから私の真のコスプレ人生が始まることになりました。
大学では合気道部に所属(※1)することになったのですが(勧誘してくれたお兄さんがかっこよかったから)、もちろんさわやかに運動部だけやっていられるわけがなく、『ホビ研』なるものにも入部。
ホビ研というのは「ホビーゲーム研究会」の略で、テレビゲームをはじめとしてアーケードゲーム(※2)、カードゲーム(※3)、テーブルトークRPGなどを部員同士で楽しむことを目的に作られた同好会でしたが、そういったオタ事の延長として、コスプレ好きな人たちも集まっていました。
同好の士を得て、また親元から離れて一人暮らしを始めた開放感もあって(※4)、コスプレは一気に身近なものになりました。
コミケ前に集まって「コスプレ合宿(不眠不休でみんなで衣装を作る)」をしたり、何人かでチームになってひとつの作品のいろんなキャラの役になってみたり、楽しかったなぁ。
今でも覚えているコスプレは、友人とやった『サムライスピリッツ』のナコルル・リムルル姉妹や(友人が衣装を作ってくれて、彼女はナコルル、私はリムルルをやりました!)、当時の彼氏とやった『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎・猫娘&『仏ゾーン』(※5)のセンジュくん・アシュラくんなんかですかねぇ。
←『サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣』
発売元:ポニーキャニオン
品番:PCCB.00200
税込:1,529円
(C) PONY CANYON INC.
↑リムルルはいちばん右のキャラ。こんなロリ系のキャラ(ロリ系なんです)やってたなんて、私、勇気あったなぁ。っていうか若かったんだなぁ。年はとりたくないなぁ。
↑彼氏がやったセンジュくんのコスプレはオレンジ色の布を巻きつけるだけで済んだのですが、アシュラくんのほうが小道具が大変で……。腕に金属っぽいでかいブレスレットみたいなものを巻きつけているのですが、どうしてもこれぞ!というものを見つけることも作ることもできず、悩んだ挙句、東急ハンズで曲げられる細い水道管みたいなのを買って腕に巻きました。東急ハンズには足を向けて眠れません。
そう、当時私にはすでに彼氏がいたんです。
コスプレが身近・日常になったことで、今まで現実からはほど遠い存在だった狭間の世界と現実の世界の距離がぐっと縮まり、私はやっと自分の生身の体を使って物事に対応できるようになったのでした。
とはいうものの、それで妄想生活が終わったわけではありませんでした。相変わらずやおい漫画は買い続けており、当時は『仏ゾーン(センジュ×アシュラ)』とか、『忍たま乱太郎(土井先生×きり丸)』とか好きでした……て、なんてマイナーな。
『忍たま乱太郎』はNHKの真髄ここにありといった感じの完全お子様向け作品なんですが、設定や時代考証が子供向けとは思えないぐらいにしっかりしていたので、大人の妄想もできてしまったんですよ(誰に言い訳してるんだ私)。
もちろん大学生らしく性生活はちゃんと営んでいましたが、そこにやおい漫画が入り込んでくることはなく、きちんと区別して考えていました。
狭間の世界と現実の世界は以前よりずっと近づき、中には重なる部分も出てきたりして、私はそこをうまく利用していろんなことを器用にやりくりできるようになったけれど、逆にそれぞれの特性を隔てる境界線自体は前よりも分厚くなった、そんな感じがしました。
日常生活に性的なものが自然なものとして入り込んでくるにつれて、それはとりもなおさず性という概念を投影させる主体が妄想の中の誰かではなく、他ならぬ自分自身になることですが、私はやおい本を読むことに以前よりも抵抗がなくなってきました。
以前はそれでも、好きながらも多少のためらいはあったのです。それが、実際に自分が特別ではないものとして体験することで(そりゃ体験した穴の種類は違いますけど)、いっきにその行為の希少性や、それゆえのありがたみがなくなったわけです。
境界線が分厚くなったというのは、その行為が「手元に降りてきた」ことで否応なく、やはり私はあちら側、つまり理想の世界ではない、やはり現実寄りの狭間にいるしかない人間だということがわかったということです。
理想の世界は、以前は私がセックスを特別なものだと思うことで、その神性を保っていました。しかし自分がいかにセックスを日常に取り入れたところで、そちらの世界に近づけるわけではない。同じことをしてはいても、決して同じ世界にはいないのです。 近づいただけ、壁の分厚さがよく見えるようになってしまった、とでも言えばいいのでしょうか。
コスプレには、一瞬だったけれどこの分厚い壁を打ち消してくれることがありました。それはハレの日であることを表す祭りのようなものだったといってもいいかもしれません。現実や、現実寄りの狭間の世界がケの日(日常の日)だとしたら、理想の世界はハレの日。そしてハレの日を呼び寄せるのに、コスプレよりも効果があったのが、SMでした。
その感覚は、今でも私の中にあり続けているような気がします。
※1 こんないい加減な理由で始めたわりには大学在学中ずっとやってしまったおかげで、その後SMでの得意プレイのひとつになりました。密着したりするわけではないので不人気でしたけど。ちなみに二段まで取りました。
※2 ゲーセンにあるゲームのこと。
※3 当時は「マジック・ザ・ギャザリング」が流行っていました。私はやらなかったけど。
※4 どのぐらい開放感を感じていたかというと、ついつい頭を丸坊主にしてしまったぐらいです。要するに大学デビューです。本当はスキンヘッドにしたかったんですが、寒いらしいと聞いたので止めました。が、坊主も十分寒かったです。帰省したらおばあちゃんが泣きました。
←『仏ゾーン 1』
著者:武井宏之
税込:630円
発行元:集英社
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.
※5 『シャーマンキング(集英社)』でブレイクした武井宏之の初期の作品。仏同士が必殺技を出し合って戦ったりする、仏教の教えに背きまくっている漫画。別名・恐山アンナ3部作第2部(勝手に命名)。虫も殺さぬ顔をした千手観音のセンジュくん(画像のキャラ)が無邪気に阿修羅王のアシュラくんをアレしてる的な内容のやおい漫画が多かった気がする。
早川舞 世界、特にヨーロッパのフェティッシュ・カルチャー関係者との交流も深い、元SM女王様フリーライター。だが取材&執筆はエロはもとよりサブカルからお笑い、健康関係まで幅広く?こなす。SMの女王様で構成されたフェミ系女権ラウドロックバンド「SEXLESS」ではボーカルとパフォーマンスを担当。
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07.12.02更新 |
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