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【コラム】すあまにあ倶楽部 第17回 マニア倶楽部 前編 不定期連載
綿まで愛して!新世紀抱き枕系コラム!

すあまにあ倶楽部

第17回 マニア倶楽部 前編

文=
抱枕すあま
取材協力=三和出版『マニア倶楽部』編集部


←『マニア倶楽部04号(三和出版)』

ある日の夕方のこと。恵比寿のコンサートホールへ向かって歩いていると、突然、携帯電話のベルが鳴った。発信先を見ると、『マニア倶楽部(三和出版)』の女性編集者である山之内サチ隊長からである。
ついに、『すあまにあ倶楽部』などという、ふざけたタイトルのコラムを書いていることがバレたのかと、ビクビクしながら電話にでてみた。すると、意に反してクレームの電話ではなく、『マニア倶楽部』の撮影のエキストラとして参加して欲しいという内容であった。
どうせ、モノクロページの隅っこの写真を、三和出版の事務所でちょこちょこと撮影するのだろうと思い、二つ返事でOKした。しかし、これが大きな間違いだったのだ……。
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その日は会社を出たのが遅かったため、コンサートの開演まで時間がなく、詳細についてはメールで連絡して貰うことにした。コンサートが終わり、家に帰った時には、サチ隊長からのメールが届いていた。そのメールには、こう書かれていた。


すあま様 おつかれさまです。
○日はよろしくお願いします。
11時に××スタジオまでお願いします。
わからないときは電話をもらえれば、お迎えにあがります。
内容は、マニア倶楽部の巻頭グラビアです。
カメラマンは、杉浦則夫になります。

私の頭の中を、何度もこの言葉が駆け巡る。

カメラマンは、杉浦則夫になります。
杉浦則夫になります。
杉浦則夫……。

ちょ、ちょっと待って!
杉浦先生ですと!!
しかも、巻頭グラビア!!
ど、ど、ど、どうしよう……。



中学生の頃の私は、エロ本やビデオが買いたくても、お小遣いが足りなくて、なかなか買うことができなかった。身分証明書が必要なレンタルビデオは、もちろん利用できなかった。そのため、私が手に入れることができたのは、古本屋で200〜300円で売られていたSM雑誌だけだった。

『SMファン(司書房)』、『SMセレクト(東京三世社)』、『SMコレクター(サン出版)』、『S&Mスナイパー(ミリオン出版。昔はワイレア出版ではなかった)』、『SM秘小説(三和出版)』などなど。


「自分はSだ。アイツはMだ」などと、会話の中にSMという言葉が気軽に使われるようになり、一般社会に認知された現在よりも、あの当時は様々なSM雑誌が出版されていたのだ。まだまだ、『変態』という言葉に重みがあった時代である。SM雑誌などを読んでいることが親にバレたら、すぐに家族会議が開かれ、勘当されていたことだろう。

そんなSM雑誌を愛読していた中学生の頃の私が、杉浦氏のグラビアに惹かれていくのは、当然のことだった。いや、惹かれていったというよりも、大きな衝撃を受けたといった方がいいのかもしれない。SMという世界を、生まれて初めて教えてもらったのだから。

この頃のSM雑誌は、全体の8割近くを官能小説が占めていたように思う。そして、この官能小説こそが、私の想像力を豊かにしてくれたのだ。そのため、小説を読んだ後に杉浦氏のグラビアを見ると、縛られたモデルさんの足下に浣腸器が転がっているのを見付けるだけで、実際に浣腸をしていなくても、様々な妄想が楽しめたのである。このような、ちょっとした小道具が写り込んでいるのが、杉浦氏のグラビアの魅力であった。


光の差し込まない日本家屋。
煤けた梁。
すり切れた畳。
そして何より、本当に少女を監禁して、悪戯をしているかのような怪しい雰囲気。


杉浦氏のグラビアは、すべてが衝撃であった。性の知識に飢えていた中学生の頃の私は、いつしかSMの世界にのめり込んでいった。当然の如く、そのSMとは、杉浦氏が作り上げたSMの世界だったのである。だから、私の理想とするSMは、今でも杉浦則夫のSMなのである。現在の主流となっているハードなSMとは、まったく異なったものなのだ。おそらく、私と同様に杉浦則夫の世界こそがSMだと思っている人たちは、意外に多いと思うのだ。

ネット上では、私のような30代半ばの人たちから、すでに定年退職を迎えた人たちまでが、杉浦氏が昭和の時代に撮影したグラビアを肴に、モデルさんの名前や掲載雑誌名などについて、いまだに熱く語り合っているのだ。乳首の横のホクロを頼りに、名前の違うモデルさんが同一人物であるかを調べたりしている。

こんな話を杉浦氏にしたところ、

「面白いねぇ。『杉浦則夫緊縛桟敷』でも、いまだに昭和の時代の写真が人気あるんだよ」

と言いながら笑っていた。

私だけではない。みんな、あの頃の杉浦氏のグラビアから受けた衝撃が忘れないのだ。だから、いまだに昭和の頃のグラビアに夢中になっている。杉浦則夫は、我々にSMというものが何かを教えてくれた母なのである。今度会ったら、お母さんと呼ばせてもらおう。日本人が考える、SMというものを作り上げたのは、杉浦則夫であると言っても過言ではないのだから。

正直な話、モデルさんの容姿は、現在の方が遙かに優れている。ただ、あの頃の雰囲気を持ったモデルさんは、絶滅の危機に瀕しているといえる。都会に洗練された女性ではなく、隣に住んでいそうな、真面目で野暮ったい娘が。

古びた日本家屋に連れ込み、監禁して悪戯をしようとするには、顔見知りで何を言われても断り切れないような純粋な娘でなければ、リアリティがない。アイドルのような容姿ではなく、隣の家に住んでいそうな、近所で評判の気立てがよくて優しいお嬢さんが、杉浦氏のSMには似合うのだ。



↑杉浦則夫氏が撮影した石原めぐみちゃんの写真集『美少女SM(三和出版)』。杉浦氏に話を聞いたところ、ぽっちゃりした体型が嫌いだったので、最初は撮影を断っていたらしい。三和出版の方々の説得がなければ、この写真集は誕生しなかったのだ。


SMが大衆化しすぎたのも一因かもしれない。現在のモデルさんは、AVや雑誌でSMというものが、具体的にどういうことをするのかを知っている。自分がMであることを公言するモデルさんも多い。昔は、放尿シーンすら、なかなか見ることができなかった。それが、今では放尿はおろか、飲尿、浴尿、浣腸までが当たり前になっている。羞恥心のない放尿は、本当にSMだといえるだろうか。

しかし、昔のモデルさんは違ったのだ。今のように情報のない時代である。ヌードになるだけでも非常に恥ずかしいことなのに、変態行為を行なうSMという未知の世界へ、足を踏み入れているのである。これでは、昭和の時代と比べて、モデルさんの雰囲気に違いが出るのは、当然であろう。

昔のグラビアは、セーラー服も違った。スカートの丈も、もっと長かった。昔は、太い足を見られるのが恥ずかしいから、見られないように長い丈にしていたのだ。それが、いつの間にか脚が長く見えるという理由で、スカートの丈がどんどん短くなっていった。スカートの役割が、脚を『見られないため』から『見せるため』に変化したのだ。さらに、昭和の時代には、セーラー服の下に必ずシュミーズを着ていた。スカートを捲っただけでは、脚すら見られなかったのだ。

モデルさんの表情も、大きく様変わりしてしまった。いつの間にか、SMはハードな責めをするものとなり、モデルさんが大きな声で泣き叫ぶようになってしまった。昭和の時代は、まったく違っていた。そんなことをしたら、近所の人に変態的な行為が知られてしまう。そうなれば、お嫁に行けなくなる。だから、あの頃のグラビアでは、唇を噛みしめて声を殺している女性の苦悶に満ちた表情が見られたのだ。SM雑誌に掲載されていた官能小説は、SMにおける羞恥心の大切さを教えてくれた。そして、杉浦氏のグラビアを見て、羞恥心に身悶える女性の美しさを知ったのだ。

映像作品で私が最初に衝撃を受けたのは、「アートビデオ」の『奴隷女高生(山下ひとみ)』である。それまでは、太った中年のおばさんが軽く鞭打ちされるようなSM作品しか観ていなかった。だから、SMって実際はこんなものなのだと、私は勝手に決め込んでいたのだ。しかし、『奴隷女高生』は違っていた。セーラー服を着た、いかにも清純そうな女子高生が、セーラー服を蝋燭で真っ白にされて、さらに容赦なく鞭打ちされていたのだ。あの頃は、おばさんにセーラー服を着せて、平気で女子高生だと言い張っていた時代である。すすり泣く山下ひとみ嬢の可憐な姿を観て、衝撃を受けないはずがないではないか。



↑『奴隷女高生(アートビデオ)』。名作中の名作です。


そんな『奴隷女高生』を作った「アートビデオ」の社長である峰一也氏は、『S&Mスナイパー』本誌のインタビューの中で、こう語っている。

「それまでSMとかって知らなかったし、興味なかったんだけど、刺激的ですよね。濡木痴夢男さんが縛るのとか見て。そういう現場でSMに目覚めたんですよね。自分でもやってみたくなるじゃないですか。それで、杉浦さんのライティングとか研究して、マネしてSM写真を撮るようになったんだ」
出展:マニアビデオの極北を目指して 【1】

つまり、「アートビデオ」には、杉浦氏の遺伝子が伝わっているのである。私は、知らないうちに、映像作品からも杉浦氏の影響を受けていたのである。

杉浦氏のグラビアは、モデルさんが愛おしい。狂おしいほどに愛おしい。ぎゅっと抱きしめたくなる。それが、杉浦則夫のSMであり、魅力なのだと私は思っている。だからこそ、いまだに根強いファンがいるのだ。

私が抱き枕フェチになったのも、杉浦氏の影響があったからに他ならない。合法的にセーラー服の少女を監禁して悪戯するには、抱き枕を愛するしか方法がなかったのだ。それに、どんなことをしても、抱き枕なら大声を出すことはない。時々、小さな声を漏らすことはあるのだが。

そんな私の性癖に大きな影響を与えた杉浦氏の撮影に、エキストラとして参加するのだ。撮影の前日は、ちょうど『S&Mスナイパー』の忘年会であった。しかし、私は飲み過ぎて撮影に集中できないといけないので、忘年会へ行くのをとりやめた。私だって、SMを仕事として生活している人間である。それくらいのプロ意識くらい持っている。もっとも、私には編集部から忘年会のお知らせが来なかったのだが……。

Special Thanks:杉浦則夫(杉浦則夫写真事務所)、山之内サチ(三和出版)

(続く)

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関連リンク

杉浦則夫緊縛桟敷
杉浦氏によると、以前アップされた画像でも、新たにフィルムをスキャンし直してアップすることがあるとのこと。昔よりもパソコンの操作に慣れてきたこともあり、再スキャンの画像の方が、自分の思い通りの色により近づいているそうだ。ちなみに、すあまも会員である。

三和出版
すあまさんがエキストラで出演している『マニア倶楽部05号』は、全国の書店で絶賛発売中です!!

アートビデオ


お知らせ

S&MスナイパーSNSに、『すあまにあ倶楽部』のコミュニティができました!! 誰も作ってくれないので、自分で作ったのですが……。

suama.jpg 抱枕すあま 『SM探偵団』(ガッツ)で男優兼監督としてデビュー。その後、カメラマン、照明を経てスタッフその3となる。着実に一歩ずつ大物監督へのステップを踏み外している。最近では、『SM魔女狩り審問会』(エピキュリアン)において、金属製拘束具のデザインおよび製作を担当した。抱き枕との生活を綴ったブログ『すあま日記帳』もある。
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08.01.31更新 | WEBスナイパー  >  コラム