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↑今日も酔っ払ってカラオケでご満悦。少年になりたかったのにいつの間にかふたなりになってしまった女王様。まぁひとことで言うと、結局この連載はそういう話なのでした。(photo by TAKU)

毎週日曜日更新!
あの日“アイツ”を追いかけた全ての女子たちへ 「腐った遺伝子」  最終回
文=早川舞

えっと、すみません。

しょっぱなからなぜ謝っているかと申しますと、私、早川舞、この連載を終了することになりました。突然のお知らせとなってしまい、申し訳ございません。


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もっとも大きな理由は連載を続けるにつれ、徐々に膨らみ続けてきた違和感にございます。「私って、週刊でこういうテーマの記事を書けるほど、もうオタクじゃないなぁ」、と……。

かつて腐女子だった少女がいかなる変遷を経てSMの世界へ足を踏み入れ、そして、その世界でいかにかつての世界で得たアドバンテージを生かして(または足を引っ張られて)活動してきたか……これは一般に向けて語る価値のあったことだったのではないかと自負しております。

今までオタクとSMの関連性を、筆者自身が主体として語ったものは、少なくとも私の知る限りではありませんでした。SMの誰も気がつかなかった面、気がついたとしても誰も語らなかった面に、自分自身の経験を証拠として引っ提げスポットを当てたという意味では、ここ、WEBスナイパーで語るに然るべき内容だったと思います。

いや、本当は私は、過去をすべて語り終え、現在に話題の軸を置き始めた時点で、わずかながらも確実にあったその違和感に、気がついていました。それを見ないでいよう、知らないふりをしようとしているうちに、その違和感は取り返しがつかないぐらいに大きくなってしまったのです。

なぜ私は違和感を、見て見ぬふりをしようとしていたのか……。

それは、過去の私のゲロみたいな独白(いや、本当にゲロの話満載だったわけだが)を思いのほかたくさんの人に面白い、興味深いと言ってもらえて(わざわざ会いに来てくれた方もいるぐらい!)本当に嬉しかったし救われた気がしたし、天下のWEBスナイパーに連載を持っているということでライターとしての虚栄心も満たせたし、定期的に入ってくる原稿料もわりとよかったし(そもそもフリーランスとして生計を立てている人間が「やればできなくもないかなぁ」って仕事を断るというのは結構な「エライこと」ですよ)、要するにいろんな意味で手放すのが惜しかったし怖かったんです。

でも、手放すべきものは、手放すべきときにちゃんと手放さないと、後でもっと大きなものを手放さなくてはならなくなる。そのことを本当に、痛感しました。どう考えても「署名記事で、しかも顔まで出して書いててそりゃヤバいだろ」って終わり方ですもん。

でも、編集部のIさんとこの企画の進行について打ち合わせをしているうちに、名前と顔を出している以上は、自分がつまらないものと思うものは書いてはいけないのだと気がつきました。それが名前と顔を出している意義なのではないかと。興味を持てないものを書くときには、本当は顔も名前も出しちゃいけないんです。もう私、このテーマで何とか立て直して、面白いこと、価値のあることを書ける自信がないです。



そんなわけで広げた風呂敷を畳む作業を、今までの振り返りを以って、本日は行ないたいと思います。

そもそも私のオタ化は、小学生時代、たまたまやおい本を手にしてしまったことで発動した「今、ここではないどこか」「今、ここにはない何か」、言い換えれば「理想の世界」とでもなるでしょうか……への憧れが発端でした。

目の前にいる同じクラスの小汚ねぇ男子ではなく、「そちら側」に行くことの叶わない、手も届かない、そして自らの女という性が異物であると認識せざるを得ないときすらある世界のほうをより強く望んでしまった。その埋め合わせをするために、私は、今まで書いてきたような生き方……その世界への渇望がねじれて発生した自己顕示欲と、さらにそこから発生した摂食障害に振り回されながらも、何とかそれを逆手にとった生き方をしてまいりました。詳しくは連載本文をお読み下さい。投げっぱなしでごめん。いやー、生きていることが猛獣使いみたいな人生でした。あ、いやまだ終わってないけど、人生。

でも、埋め合わせもまだ終わっていないようにも感じます。一時期に比べればだいぶペースが落ちてきて、猛獣のリズムや性格もつかめてきて、だいぶマシになってきたというだけの話です。まぁきっと、一生埋め合わせなんてできないのでしょうね。


その埋め合わせ作業をしている間に見つけたのが、SMでした。SMは今までそれしか知らなかった「視覚的なファンタジー」を埋めてくれるだけでなく、「思想」や「生身の人間の感情」や「アイテム」や「特定の素材や部分への嗜好」などといった肉の匂いのする厚みがあったため、今までしがみついていたオタ文化や腐女子文化よりも、私により現実感を与えてくれました。


つまり、私は生まれついてのSM好きというわけではありません。人生を振り返ってみりゃあ、そりゃあそれっぽい出来事もありましたけども、今考えるとべつにそれがSM好きに結びついていたとかいうこともありません。私がSMに目覚めたのは、オタクであることを通ってきたからです。それがなければ私はSMなんて、言葉しか知らないままで過ごしていたでしょう。


私にはそもそも上記した「理想の世界」を求めたいというベースがあって、SMというものは、どうやらそのあたりに近いところにあるもののようだと思ったから、とりあえず飛びついただけなのです。ちなみにMじゃなくてSだったのは、Sのほうがより私のファンタジーに近かったからです。あと、誰かに叩かれたり罵られたりするのは単純にムカつくなぁと思ったからです。


あ、でも今はすっかりSに成り果てたと思っています(笑)。性的な嗜好を始めとする人間の嗜好というのは、特に女性の場合は経験の量によって決まるところがあるそうです。女性がセックスすればするほどイキやすくなる、気持ちよくなるというのはこの理屈によるものだそうで。嘘か本当か知らないけど。

自分の責めでM男が気持ちよさそうな顔をしているところを何年も見てきた私にとって、それはいつの間にか自分にとっても本当に気持ちいいことになりました。洗脳? 上書き? いや、進化と言ってほしい!


話が少々飛びましたが、もう何度も申し上げてまいりましたけど、そういう意味でも私のSMにおけるメンタリティは、わりと女装子に近いのではないかと思うのです。女装子もSMうんぬんというより、まずは女としての理想像や理想のシチュエーションみたいなものがあって、自分がその像を演じられる場所がたまたまSMだったという人が多いのではないでしょうか。まぁ女装子でSMしない人もわりとおりますので、全員ではございませんが。


あとは、ジェンダーの問題という意味でも、SMは非常に居心地のよい場所です。こういうことを言うのは本当に痛いと思うのでイヤなんですけど、最後だから言います。私は少年になりたかったんです。だって氷河とか小次郎とか、あっちの世界にいた子たちは、はかなくてでも強くて、しかもすっごいキレイだったしさー。ああなりたかったんです。それがいつの間にか女性性の嫌悪へとつながり、異性装を経てコスプレになったわけですが……。

でも女として生まれた以上はどんなに男らしく振舞ってみたとしても、女性性を捨てることなんてできないし、つーかそもそも「少年」なんてなれるわけないじゃん。だって、そんなの本当は存在しないんだから。

でも、女王様をやっていると間違いなく精神的にふたなりにはなれる。あんなにイヤだった女性性に結局は向き合わざるを得なくなったけど(最初はそこから逃げられると思って始めたのに!)、でも男性性も手に入れられて、そんなことをしているうちに女性性もそんなにイヤじゃなくなって、現実という枠の中ではもっとも望ましいと思える位置に行き着くことができた。それで手を打つのも結構いいもんだなぁと思って、だから私はここにいるんです。


だから極論を言えば、多分SMじゃなくてもよかったんです。たまたま選んだ道に過ぎないのかもしれないけど、でも、これだけどっぷり漬かって、涙を流すような悔しいこともあったし、逆に大声で笑ってしまうような嬉しいこともあったし、深い思索をする必要にも迫られたりもしたし、そこから何ものにも変えがたいものをたくさん得て、大事な人もできたし大事な人にもしてもらえたし、いろんな人やことを巻き込んで、血になって肉になってしまったから、だから多分もう一生この世界からは離れられないと思います。接し方をどんなふうに変えようとも、私はこの世界に居続けることでしょう。


ずっと自分の話だけをしてきましたが、SMってそもそも、「誰かのファンタジーの未完成」が集まって、全体としては限りなく完成に近い状態を保っている世界だと思います。誰かが誰かの未完成を埋め合わせているから。

だから、えーと、みんながんばって技術を磨いたり体を鍛えたりしようぜ! なんだこのパンチのない終わり方。


あ、最後に、この連載『腐った遺伝子』の名前の由来は、腐女子として得た経験を元にSMをした女王様の遺伝子が、M男に脈々と受け継がれていくという意味です。ご理解いただけておりましたでしょうか(←そういうことは最初に言えよ)。


そして、今まで悩み、行き詰ったときに的確な指針を与えて下さった編集部Iさん、Iさんには感謝してもしきれません。

それから連載の中盤で颯爽と現われたNさん、あなたとの会話で、「少年」という言葉に魂が注がれたことで(←無駄にエヴァっぽい言い方)、自分をまた違った角度で見つめなおすことができました。

最後にこんなアホな自分語りを暖かい目で読んで下さった読者の皆さま、本当にどうもありがとうございました。

(おわり)

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早川舞 早川舞 世界、特にヨーロッパのフェティッシュ・カルチャー関係者との交流も深い、元SM女王様フリーライター。だが取材&執筆はエロはもとよりサブカルからお笑い、健康関係まで幅広く?こなす。SMの女王様で構成されたフェミ系女権ラウドロックバンド「SEXLESS」ではボーカルとパフォーマンスを担当。
現在、フェティッシュ・ミックス・バー「ピンク・クリスタル」に毎週木曜出勤。

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08.03.16更新 | WEBスナイパー  >  コラム