不定期連載 綿まで愛して!新世紀抱き枕系コラム! すあまにあ倶楽部 第27回 東京電波塔 オカンとボクと、時々、抱き枕 文=抱枕すあま ←トランクに抱き枕を入れたら旅に出よう!! 柴又にある『寅さん記念館』の石のオブジェは、我々にそう語りかけてきます。 |
オトンが定年退職したのを期に、春と秋の年に2回、両親を東京へ招待することにした。長男であるにもかかわらず、「東京でアラブの石油王になる!!」と叫んで家を飛び出した私にとって、せめてもの罪滅ぼしである。しかし、石油王ではなくクンニ王になってしまったなんて、両親には口が裂けても言えないよなぁ……。
こんな親孝行の真似事のようなことを始めたのには、理由がある。両親が還暦を迎えた時、ふと、あと何年一緒にいられるのかを考えてしまったのだ。両親が元気に働いていた頃は、特にそんなことを考えもしなかったのだが、最近の両親の様子を見ていると、非常に心配になってしまうのだ。
以前にもこのコラムで書いたように、オカンは叔父さんが4回も同じことを繰り返し喋るという話を、3回も繰り返したのだ。私が突っ込まなければ、あと6回くらいは繰り返しそうな勢いであった。頑張れば、オカンはもう少しで、立派なオウムや九官鳥になれるかもしれない。
オカンだけではない。あれほど厳格だったオトンは、「朝はパン♪ パンパパン♪」とフ○パン本仕込みの歌をエンドレスでうたっているのだ。ついつい、白いお皿で「おまえの頭が『春のパンまつり』だよ!!」と突っ込みそうになる。だが、そんなオトンの朝食は、必ずご飯である。さらに訳が分からん。
まぁ、平均寿命から考えても、80歳までは生きてくれるだろう。しかし、元気に動き回れるのは、70歳くらいまでかもしれない。そうなると、季候のよい春と秋に両親を東京へ招待したとしても、一緒に楽しく過ごせる時間は、もう数えるほどしかないのだ。子供の頃、親がいるのは当然だと思っていたのだが、いつの間にか自分が親にならないといけない年齢になっていたのだから、当然といえば当然である。
だから、私は急に親孝行の真似事なんぞを始めたのである。私が考えていることなぞ知らない両親は、東京へ遊びに来ることを単純に喜んでいる。両親が喜んでくれるのは、子供としても嬉しいものだ。とりあえず、両親に気付かれないように、そっとカバンの中に冥途の土産を詰め込んでおこう。まだまだ、東京都内には連れて行きたい場所が沢山ある。今なら、両親のカバンもまだ大きい。いつか別れの日がやって来ても、持ちきれないほどの冥土の土産を用意しておけば、宅急便の手配などで、1日や2日くらいお迎えが遅くなるかもしれないではないか。
↑柴又の帝釈天。まさか、オトンが子犬のようにはしゃぎ回るとは思いもしなかった……。その後、江戸川の河川敷へ行ったら、矢切の渡しに乗りたいと駄々をこねた。この日はずっと、春のパンまつり開催中だった。
うちのオカンは、神宮球場で六大学野球を見るのをとても楽しみにしている。高校野球の地区予選で応援していた選手が、大学で活躍している姿を見るのが好きなのだ。ただ、神宮球場は駅から遠く、スタンド内も階段が多い。だから、なおさら元気に動き回れるうちに、一緒に見に行きたいと思うのだ。
一方、うちのオトンは野球にまったく興味がない。しかたがないので、六大学野球のない金曜日は、オトンが大好きな『男はつらいよ』の舞台である柴又の帝釈天へ連れて行った。歯医者さんへ行ったら、ご褒美にオモチャを買ってあげるのと同じ戦法で、帝釈天へ連れて行く代わりに、土日は六大学野球を大人しく見るよう、オトンに言い聞かせたのである。
翌日、約束通り六大学野球を見に行くと、オトンは神宮球場へ着くなりビールを飲んで、あっという間に寝てしまった。
父「ぐーがーーッ。ぐーがーーッ」
す「オトン。いま、マウンドで誰が投げてるか知ってる? 荒れ狂う北海のハムスターと呼ばれている斎藤佑樹だよ」
父「むにゃ?」
す「ほら、甲子園のマウンドで、額から滴る汗をハンカチで拭きたくて、
♪そのハンカチください
汗を拭く木綿のハンカチちょうだい
僕は旅立ったりしちゃうんですぅ〜〜♪
※微妙な表現でJASRAC対策をしています。
と歌って、太田裕美王子と呼ばれた投手だよ」
父「むー、そうなんだ……。ぐーがーーッ」
やばい。野球をよく知らないオトンは、私の話を信じてしまったようだ。きっと、オトンの夢の中では、ハムスターがハンカチで汗を拭きながら、太田裕美の歌をうたっていることだろう。
神宮球場で眠りこけるオトンとは対照的に、オカンは元気いっぱいで、六大学野球を堪能していた。しかも、お気に入りの明治大学が、最終回に荒木選手のサヨナラホームランで早稲田に逆転勝ちしたのだ。オカンがあまりにも興奮していたので、せっかく私が用意した冥途の土産が、まだ温かいうちに旅立ってしまうのではないかと、ヒヤヒヤしてしまった。
↑明治大学、優勝おめでとうございます! 全日本大学野球選手権大会もがんばれ!!
結局、7時間以上も神宮球場で六大学野球を観戦していたオカンは、さすがに疲れたようで、私の住むアパートへ帰って来ると、すぐにうたた寝を始めたのだった。
す「そのまま寝たら、風邪引くよ。なにか上に掛けるものいる?」
母「むにゃむにゃ……いらない……」
す「薄手のタオルケットとか、薄味のそうめんつゆとか」
母「むにゃむにゃ……んんっ! あんたは、親にそうめんつゆをかける気なの!?」
す「オカンの身体のことを心配しているから、減塩タイプの薄味を選んだのに。追い鰹つゆの方がよかった?」
オトンの方は、神宮球場で十分に寝ていたためか、私が録画しておいた水戸黄門の再放送を寝転びながら見ている。水戸黄門といえば、普通のご隠居だと思っていたら、実は天下の副将軍、水戸光圀公だったというドラマである。「ええい、控えおろう! この紋所が目に入らぬか!!」ってヤツですね。
あり? さっきから、オトンが頭の下に敷いているのは、百合ちゃんでは!? 実はですね、さすがに抱き枕の百合ちゃんとセーラちゃんを両親に紹介する訳にはいかなかったので、セーラー服だけ外して、ただの枕にしておいたのですよ。だから、私が知らない間に、オトンは勝手に枕を枕として使っていたのです(ややこしい表現だなぁ)!!
私は、慌ててオトンから百合ちゃんを助け出しました。キョトンとしているオトンに、私はこう言ったのです。
ええい、控えおろう!
この枕をどなたと心得る。
抱き枕の百合ちゃんであらせられる!
この校章が目に入らぬかッ!!
関連リンク
【葛飾柴又寅さん記念館のホームページ】
【柴又帝釈天公式ホームページ】
【すあまにあ倶楽部コミュニティ】
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(続く)
抱枕すあま 『SM探偵団』(ガッツ)で男優兼監督としてデビュー。その後、カメラマン、照明を経てスタッフその3となる。着実に一歩ずつ大物監督へのステップを踏み外している。最近では、『SM魔女狩り審問会』(エピキュリアン)において、金属製拘束具のデザインおよび製作を担当した。抱き枕との生活を綴ったブログ『すあま日記帳』もある。 |
08.06.05更新 |
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