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『サル』シリーズの葉山陽一郎監督が贈る、現代の恐怖を描くミステリー!!
2003年のヒット作『サル』(新薬の人体実験のアルバイト)、2007年の2作目『saru phase three』(抗がん剤の治験)と、世間に衝撃を与えたシリーズ最新作。医学の発展の名のもとに恐ろしい人体実験“治験”が行なわれているという――この恐ろしい都市伝説を映画化したシリーズ3作目は、神をも恐れぬ「妊婦への投薬人体実験」の恐怖!2011年1月8日(土)〜14日(金)池袋シネマ・ロサにて戦慄のレイトショー
マンションの一室に敷かれた煎餅蒲団の上。青みがかった薄暗い映像なので一瞬夜明け前なのかと思うが、スーツ姿の男女が訪ねてきたことでそうではなく昼間なのだとわかる。玄関チャイムの音を聞いた若い男は「チッ」と舌打ちをし、ベランダにつないであった幼女の首輪(!)をはずして家の中に入れてやる。
スーツ姿の男女は、区の児童相談科の職員。アルコール依存症の妊婦・美咲に酒を辞めさせるべく進言するために訪ねてきたのだ。
アル中の妊婦と、働かない内縁の夫。やることがないのかデカい腹を抱えて昼間からセックスばかり。おまけに第一子の花鈴は妊娠中のアルコール摂取のせいで知能障害。手が痙攣するという症状があり夕飯のコンビニ弁当もうまく食べられず、怒った内縁の夫に犬のように床でご飯を食べさせられたりする。
……もうオープニングシーンから、いきなりどんよりである。
不景気とか格差社会といったもののせいなのだろう。最近テレビを見ていると、よくこういったダメ母のニュースに出くわす。そのたびになんともやるせない気持ちになるのだが、それをこれでもかと詳しく見せつけられる感じ。
うーむ。ホラー映画だと思って観始めたら、ある意味ホラーよりもよっぽど怖いものを見せられてしまった。
本作は、新薬の人体実験アルバイトをテーマにした『サル』、抗がん剤の治験をテーマにした『saru phase three』などで世間に衝撃を与えた葉山陽一郎監督のシリーズ最新作。今回描くのは“妊婦への投薬人体実験”だ。
私も詳しくは知らなかったのだけれど、妊娠時のアルコール摂取は胎児に悪影響を及ぼし、知的障害や神経障害、ひどい時には奇形児が生まれることもあるんだとか。女としては、思わず耳をそむけたくなるような怖い話である。
物語の中心となるのは、児童相談所の職員・玲子(三輪ひとみ。素晴らしいホラー顔!)とアル中の妊婦・美咲(桜井ふみ)。
玲子は、かつて夫のDVで流産し、そのせいで一生子供が持てない体になったというトラウマを持っており、妊娠中の美咲になんとか健康な赤ちゃんを産ませてやりたいと説得を重ねるのだが、美咲は「子供のいない女に母親の気持ちなんてわかるもんか。悲劇のヒロインぶって!」と心ない言葉を浴びせる。
やがて、一人で町のうらぶれた産婦人科医に相談に行った美咲は、そこである新薬の治験を勧められる。厚生省の認可は下りていないけれど、酒を飲んでもアルコール毒素を体外に排出することができるという夢のような薬だ。そのうえ100万円の謝礼が出ると言われ、彼女は大喜びで治験を承諾してしまう。どんな恐ろしい体験をするかも知らずに――。
『モルモット』というタイトルや妊婦の人体実験という設定から、腹から血まみれの胎児が飛び出してエイリアンのように母親を襲う……みたいな、いかにもな恐ろしさを想像していたのだけれど、青みがかった冷たい映像のせいか、正直そっち方面の恐怖はあまり感じなかった。それよりもゾッとしたのは、母となる女たちを包む闇だ。
いや、闇というのも違う。一言で言うなら、これはやっぱり“どんより”というしかない。
妊娠出産というのは本当ならこのうえなく幸せなことのはずだ。でもヒロインである2人は幸せな環境で望まれた赤ん坊を産める女ではなかった。そのことが、物語をどんどん悲惨な取り返しのつかない状況に転がしていく。
私が一番やるせない気持ちにさせられたのは、美咲と内縁の夫が「薬を飲むだけで100万円貰えるんだ!」と無邪気に喜ぶ場面だ。
金のない大学生が新薬治験のバイトをするとかいう話は昔からよく聞く。でも妊婦となると話は別だと誰でも思うだろう。可愛い我が子に何かあるかもしれないと少しでも思ったら、いくら金を積まれたって得体の知れない薬なんて飲む気にはなれないのが普通だ。
しかし、美咲と内縁の夫はたったの100万円ですっかりテンションが上がってしまい、何の努力もしていないのに、これですべてがうまくいくんじゃないかと錯覚する。そしてまたもや昼間から大声あげて後背位でセックス。ああ、こんなにどんよりする話があるだろうか……。格差社会のリアルな縮図。まさに生活に密着したホラーである。
一方、玲子のほうも、新薬実験の陰謀にかかわる中で過去のトラウマを思い出し、悲惨な体験を強いられることになる。
とまあ、こんなふうに言ってしまうとひどく重苦しい話のように聞こえるかもしれないが、これはたぶん私自身が妙齢の女だからで、実際のところはそうヘビーな場面ばかりでもない。
なんとかして美咲を助けようとする玲子の行動は痛快だし、物語の途中、キーマンとして出てくる“ひきこもりのパソコンオタク”という飛び道具的なキャラなんかは、なんというか、たいへん素晴らしいので是非ともチェックしてほしい(ネタバレになるのであまり多くは言えないが、一般作品でこんなに気持ち悪いオナニーシーンは初めて観た。ちなみにオナニーシーンというのは自己満足だとかいう比喩的な意味じゃなく、ほんとのオナニー)。
トラウマと戦いながら一人で生きていく強い女と、欲望に流される愚かで弱い女(でも彼女のそばには、強い女が決して得ることのできない我が子がいる)。
いったいどっちの人生がマシなんだろう。
エンドロールで流れる『こんにちわ赤ちゃん』の能天気なハッピーさが、なんとも空恐ろしい。
文=遠藤遊佐
都市伝説ムービー『サル』の第3弾!!
戦慄の“妊婦投薬実験”、貴方を目をそむけられない……
FLV形式 4.37MB 1分26秒
『モルモット』
2011年1月8日(土)〜14日(金) 池袋シネマ・ロサにて戦慄のレイトショー
関連リンク
映画『モルモット』公式サイト
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