WEB SNIPER Cinema Review!!
ジョナ・ヒルが監督としての才能を開花させたデビュー作
1990年代半ばのロサンゼルス。街のスケートボード・ショップを訪れた13歳のスティーヴィーは、店に出入りする少年たちと知り合い、新しい世界への扉を開けた――。ジョナ・ヒル自身の10代の想い出をもとに作り上げられた、90年代への愛と夢が詰まった青春映画。全国公開中
そうそうそう!あるあるある!オレの場合は思春期に出会ったのがテクノ・ミュージックで~、吉祥寺のSHOP33が憧れの店で~、といきなり自分語りが止まらなくなってしまったが、高校生の頃、童貞じゃない同級生はみんなスケーターの生態を描いた映画『KIDS/キッズ』(ラリー・クラーク監督)を観ていた。オレはテクノだから観ない!というなぞのツッパリをしつつ、その後こっそり1人で観て「クロエ・セヴィニーかわいい~」とオナニーしたものだった......。そしてしみじみ思いましたよ、スケーターってモテるんだなぁと。2020年の高校生たちも『Mid90s ミッドナインティーズ』観に行く派と、ツッパって観ない派に別れたりするのだろうか。16mmフィルムで撮影されたスケーター青春映画、その監督は『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(グレッグ・モットーラ監督)で童貞少年を演じ、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(マーティン・スコセッシ監督)でディカプリオの一番間抜けな部下を演じていたジョナ・ヒルだ。
13歳の主人公スティーヴィー(サニー・スリッチ)は兄(ルーカス・ヘッジス)と母親(キャサリン・ウォーターストン)の3人暮らし。映画は彼がいきなり兄貴にぶっ飛ばされるところから始まり、次のカットではストリートファイターIIの「ガイル」のTシャツを着ている。ジョナ・ヒル自身の少年時代が投影されたというこの物語の舞台はロサンゼルス。時代は90年代で、当時のヒップホップやハードコア、グランジがふんだんに流れてくる。
ある日、スケートボードをやることを決意した主人公は、豆腐2個分くらいの厚さに重なったスーパーファミコンのカセットと交換に、兄貴から古いボードを譲り受けた。彼はそれを持って、いつも遠くから眺めているだけだった近所のスケボーショップの扉をおそるおそる開け中に入って行く。
このスケボー屋は奥にイスがあって、常連のスケーターがたまっている。海外ではなぜかレコード屋にもイスがあったりして、それは客がダラダラ溜まるために存在しているんですね。この映画でも、冗談ばかり言っているヤリチンのファックシット。いつもビデオカメラを持ち歩いているフォースグレード。スケボーが一番うまく温和なレイ。そしてグループ最年少のルーベンという混合軍団が溜まっていて、彼らは殿上人のように光り輝いている。このイスこそはストリート・カルチャーのゆりかご。そこは選ばれし者だけが座れる90年代のサロンで、主人公にとってその仲間に入るのは、アべンジャーズに加入するようなミラクルだった!
ある日、さりげなく話を振られたスティーヴィーの何気ないふりして、頭の中ではどう答えるべきか高速回転している顔......。ああこんな瞬間確かにあった!オレの場合は新宿のリキッドルームでぇ~......とまた昔語りが始まると止まらないので先を急ぐと、やがて仲間として認められたスティーヴィーは非行ランドのファストパスをゲットしたかのごとく、飲酒、喫煙に、女の子と禁断の接近チョメチョメと、親が心配アトラクションの数々を次々制覇していきます。
その一方で、家に帰ると兄貴に怒られてアイデンティティ・クライシスに襲われ自殺の真似事をしたりしているのがかわいい。この引き裂かれた不安、やるべきことをやっていないかのような(それが何かはわからないのだが)後ろめたさこそが13歳。それはなにも非行少年だけのものじゃなくて、たとえば『耳をすませば』(近藤喜文監督)で、主人公の雫ちゃんが小説を書くと宣言して伏し目がちに両親の前で座らされている、あの有名な場面でも同じ感情が描かれている。課外活動に目覚めた少年少女が避けては通れない嵐を、ジョナ・ヒルはスーパーファミコンのユニークな使い方で描き出しています。
それを心配する母親役に『インヒアレント・ヴァイス』(ポール・トーマス・アンダーソン監督)で、LAに住むヒッピー探偵ホアキン・フェニックスのホットな彼女を演じていたキャサリン・ウォーターストンを配役しているあたり、ここには観客の「まあ、あなたもいつか来た道でしょ!」的なツッコミを見越した、LA非行輪廻のメッセージが込められているに違いないワケです。
スケート屋でレイが手慣れた動きで新しいスケートボードを組みたてていく。デッキにデッキテープを貼り、バリを取り、ホイールをはめ、それをスティーヴィーが眺めている。ここは課外活動の先にひそんでいる、「仕事」の輝きが感じられる素晴らしいシーンでした。プロスケーターを目指すレイと、セックスしか頭にないファックシット。やがて彼らの中でもまた、将来を前にした温度差が生まれてきていることをスティーヴィーは知ります。人生は長く、若い頃のイケてるイケてないなんて差は、あとから振り返ればあまりにも瑣末なことにすぎない。じゃあ、若者にとってほんとに大事なことってなんなのか。それは死なないこと! 屋根から落ちたり、警官に捕まりかけたり、登場人物たちのやんちゃぶりを眺めているうち、とにかく健康でさえいてくれればお父さん満足だから!といつのまにか親目線で映画を眺めている自分に気づく。Mid90s、あの頃オレは若かった......。それから30年近くがたち、気づけば勃起の角度がMid90sくらいになっちゃってるよ~~~~!! みたいなことを言いながらも人生は続きます。どんなに社会が変わろうとも、チンポの勃ちが悪くなろうとも、この映画に描かれている不変なことがひとつだけある。それは文化こそは扉で、その向こうにはあなたの人生をあなただけのものにしてくれる人との出会いがあるのだということ。
私もこのレビューを書きながら、その向こうにいる誰かの存在をいつも感じていました!それこそはオレのmid10s......てなワケで魂の暗部でまたお会いできる日まで、みなさんごきげんよう!!
文=ターHELL穴トミヤ
90年代への愛と夢が詰まった青春映画のマスターピース
『mid90s ミッドナインティーズ』
全国公開中
関連リンク
映画『mid90s ミッドナインティーズ』公式サイト
関連記事
スケコマシ野郎一瞬、母一生!『長くつ下のピッピ』『ロッタちゃん』シリーズ作者の半生を描く伝記映画 『リンドグレーン』公開中!!