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世界中で愛される児童文学作家、アストリッド・リンドグレーン
スウェーデンの自然の中で伸び伸びと育ったアストリッドは、思春期を迎え、より広い世界や社会へ目を向け始める――。『長くつ下のピッピ』『ロッタちゃん』などの名作児童文学を生んだ作家、アストリッド・リンドグレーン。その16歳からの青き日々を繊細に描いて名作誕生のルーツに迫った伝記ドラマ。岩波ホールほか全国順次公開中
『長くつ下のピッピ』『ロッタちゃん』などの作者として有名なスウェーデンの児童文学作家、アストリッド・リンドグレーン。その伝記をデンマーク人監督ペアニレ・フィシャー・クリステンセンが映画化した。20世紀初頭、アストリッド16歳(アルバ・アウグスト)。実家は農家なんだけど、種芋をまく農夫たちや、野焼きの煙など、ミレーのような景色が美しい。
「神の前で人々は皆、平等というなら、どうして女の私だけ門限が1時間早いの?」と母親をなじる彼女は、フェミニストでもある。「女だから」を理由に差をつけられる不合理に気づく聡明さを持ち、集会所でペアを組んで踊ってくれる男性がいなくても、女の子と組んで踊っちゃうガッツも持っている。ついには一人になっても踊り続けていて、もう『長くつ下のピッピ』そのままのおてんばガールなんだけど、そんな彼女が床屋で髪を切るシーンがいいんだな。
三つ編みのおさげを二本たらしている彼女が、雑誌の「モダン女性スタイル」を指して、「これにして!」とリクエストする。へその緒のように、ジョッキリと切られた三つ編を握るアストリッド。そのショートボブがすっごい似合ってるの!今まで長くつ下のピッピだった少女が、散髪後にはイイ女に変身している。ベルトラン・ボネロ監督の『サン・ローラン』では、サン・ローランのもとに訪ねてきたイケてない女性が、身体に合った服を見繕ってもらった途端、見違えるように美しく見えるシーンがある。ここには、内面がふさわしい外見を見つけたときの驚き、さなぎが蝶になる興奮があるのだ。
ところがだよ、このショートボブの勝気な彼女がやがて親父の紹介で、務めることになる新聞社があるんだけど、ここの上司(ヘンリク・ラファエルセン)がほんとクソ野郎なんだよ。顔はスティーヴ・クーガンと甘利明・税制調査会長を足して二で割ったみたいなおでこの長い男で、こいつが18歳の雇用者のリンドグレーンとセックスしちゃうっていうね。しかも孕ませちゃうっていうね。しかもこのクソおやじは同時進行で妻とも離婚協議中という。
しかし、おっさんでありながら「18歳とのにゃんにゃん」という果実を手にした事実を無視することができない私は、本作鑑賞後、その手管をメモに残しました。それをみなさんにいま特別ここでお伝えするのにやぶさかではないのですが、まず「かわいこちゃんが」「かわいい秘書が」などと、呼びかけるたびに「かわいい」を連発する。さらに顔にいきなり触れてから、「顔にインクがついているよ」と言う(実際のところインクがついていようがついていまいが関係ないこの技には、さすがスケコマシ野郎だと感心)。さらに「コーヒーとケーキを食べに行くぞ、気分直しだ」のように、デートの誘いを命令口調にして、仕事であるかのように偽装する。仕上げとして、落ち込んだ表情を見せ相手の善意を引き出しつつ、「こっちへ来なさい」といつもの命令口調で呼びつけたのち、突如その胸に顔を押し付ける。そしてドキドキさせておいてから、「一時の気の迷いだった」と言い訳をして、押しもどす。これで18歳とセックスできます、ってクソすぎるだろ!!このセクハラ野郎をいますぐ十字架にかけ火をくべてくれ!!!
けどね、アストリッドだって、カカシじゃない。ヤリチンスケコマシ野郎の手練手管にハマっちゃってるっていう説もあるんだけど、彼女は意志をもって、好奇心をもって、自分の責任でもって、このおっさんとセックスしていて、映画は彼女を言われるがままに操られる存在としては描いていない。けど、妊娠して人生荒れ模様になるのは女性のほうなんだよね~っ!!!ここになかったのは避妊具!!!!コンドームに、ピルに、避妊シールに、避妊リング!!まじで、これが大事!!!!!!!セックス、いいよ! 18歳、一応成人!でも避妊が大事!!まあでも1920年代の話だから~、女性が使える避妊手段はまだ発明されてなかったし、今じゃスウェーデンには、いくらでもあるから~っていうか、ひるがえって今の日本、いまだに女性が使える避妊手段として避妊シールも避妊リングも避妊注射も避妊インプラントもないってどういうことですか!?ピルがクソ高いってどういうことですか??!?!?2020年の日本=1920年代のデンマークですか!?!?!と、怒りがわいてきてしまいましたが、まあそれは置いておいて、当時スウェーデンの田舎町でシングル・マザーになることなどあり得ず、彼女は19歳にしてデンマークに渡り、匿名で出産することになる。
以後、波乱万丈なんだけれども、いつアストリッドは小説を書き出すんだろう?と思って観ていても、書き出さないんですね。大抵、作家の伝記モノってどこかで猛然とタイプライターを叩き出すとか、我々が知っているアストリッド・リンドグレーンにつながるところが出てくるんだけど、この映画はすでに老境を迎えた彼女が読者からの手紙を読みながら過去を思い出すという体裁で進んでいて、一人の少女が作家になる瞬間は描かれていない。それはこの映画の本題じゃなくて、じゃあアストリッドは何になっていくのかというと、母親になっていく!そこに三つ編みをジョキっと切るような一瞬のカタルシスはなくて、職場で少し評価されたり、子どもの咳が治らなくて寝不足になったり、姦通罪の展開に怯えたり、実家との折り合いが悪かったり、そういった毎日の先でなお母親になることができるのかという......、スケコマシ野郎にはうかがいしれない、渋い展開がありました。スケコマシ野郎一瞬、母一生!わかっているのかスケコマシ野郎どもよ! という本作女性監督の声が聞こえてくるようで、私もスケコマシテクをメモしてる場合じゃなかったのかもしれません。
文=ターHELL穴トミヤ
なぜ、アストリッドは最も革新的で影響力のある稀有な作家になり得たのか、なぜいつまでも子どもの心を忘れず、理解できるのか――
『リンドグレーン』
岩波ホールほか全国順次公開中
関連リンク
映画『リンドグレーン』公式サイト
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